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1-13話 少年の叫び

 冒険者ギルド前で叫ぶ少年の話を聞いてみる。


「弟を助けてくれるやつはいないのか!」


「そんなこと言ったってな、腕に覚えのあるやつは皆ダンジョンのある方に行くから無理だって」


「そうだぜ、ここにいる冒険者はせいぜい森に行く時に護衛するとか、雑用の手伝いするくらいしか出来ないって。討伐はまた話が違うっての」


「討伐はしなくて良いって言ってるだろ!?」


 少年は冒険者らしき風体の男たちに声をかけているが、呆れられ宥められている様子だ。


「どうしたのよ、一体」


「おお……ソフィー様、聞いてくださいよこのガキがね森の方でドラゴンが出て、近くにいたゴロツキが怪我して、そいつらの仲間が弟を人質に取って治癒術師連れてこないと弟を殺すって言ってるみたいなんですよ」


「ゴロツキ?」


「ええ、最近流れて来たやつらで大した腕もないくせにダンジョン街に行くってんで路銀をここでカツアゲしたりして貯めてる迷惑なのがいてね」


「で、そいつらが森でドラゴンと遭遇して怪我したところにあの子の弟がいたと。どんだけ運がないのよ」


「だから、俺たちに弟助けてくれって言うんだがドラゴンいるって分かってるんだから無理だって言ってるんだがなあ」


 冒険者の男は頭をガシガシかいて少年を仕方なさそうに見つめる。


「ドラゴンじゃなくてゴロツキの怪我を治してくれたら弟は助かるんだって言ってるだろ!」


「だーかーら!ゴロツキの怪我を治すのも危ないのにその上ドラゴンがいたら近付くことも出来ないっての。それにこの街に治癒術師なんかいねえよ、ダンジョン街ならいるがそれでも希少なんだぞ?」


「じゃあどうしたら良いんだよ!?弟は見殺しか!?」


 ゴロツキはここの事情を知らないから、街に治癒術師がいると思ってこの少年に使いっ走りをさせたってことか。


「そもそもドラゴンなんて殆ど絶滅してるのになんでここら辺に……」


 ソフィーはそれを聞いて首を傾げた。


「ああ、それも不可解だ。俺はこのガキがゴロツキとグルで行ったら待ち伏せされてんじゃないかとも思ったぜ」


「違う!本当にいたんだ!」


「大変、こんな時に治癒術師がいれば……ハッ……!」


「いやいや、わざとらしいだろ」


 こ、こんな所に治癒術師がいるじゃないか!?と言いたげな顔をするソフィー。

 なんなんだよ、さっきからその下りは。


「ケニイ、あなた行ってあげたら?」


「うーん……」


「おいおい、ソフィー様こんなヒョロイガキが行ってどうなるんだ……ですか?」


「彼は治癒出来るし腕も立つからね?」


「ほお、信じらんねえな……」


 あの少年が言ってることが本当なら助けてあげたい。でもドラゴンは俺の戦闘力じゃ倒すのは、かなり難しい。ゴロツキ程度なら一瞬だが、ドラゴンって耐久力が高いし頭も良いから飛び道具系の攻撃出来ない俺には不利なんだよ。

 そして仮に倒したら俺は英雄になってめちゃくちゃ目立ってしまう。もう英雄扱いされるのにはウンザリなんだよな。


 ドラゴンの目を掻い潜り、ひとまずゴロツキの一人の怪我を治癒して、少年の弟を解放させて、ゴロツキぶっ飛ばして、兄弟を無事に街まで送り届ける。

 いや、これ結構な重労働だぞ。ゴロツキは子供も人質に取るようなクズだから最悪死んでも構わんが、少し間違えたら皆死ぬからな……。


「もういい!ダンジョン街に行って治癒術師を見つけてくる!」


「無茶言うな、乗合馬車で片道半日はかかるんだぞ」


「なら誰か馬を貸してくれ!」


 少年は見たところまだ12歳くらい。義務教育を受けてるわけでもない、この世界の子供の考えることなんてこの程度が普通だ。

 無茶苦茶言って、何の計画性もなく、ただ弟を助けたいって気持ちで突っ走っている。

 大人も特に身内でもない子供の為に自分の命や金を無駄にするようなやつはいない。


 だが、俺はこの世界のみならず、どこにでもいるそういう大人にムカついていた。

 15歳の高校生に勇者やらせて魔王を倒してこいだの、14歳の中学生しか操縦出来ない機体で使徒を倒さないと世界が滅びるだの、子供の時はワクワクしたが年を重ねるにつれて、そういうのは大人がやらないとダメだろって言う当たり前の狂った状況に気がついていった。

 今思えば、俺が親から虐待を受けていたというのも大きいかも知れない。


 偉そうなことを言う割に子供にリスクを負わせる大人を見て、俺だけでもまともになろうと思って、勇者のガキどもの面倒を見ていたんだ。


 そうだな、ここで目立つのが嫌とかそんな理由で助けない方がダメだ。俺がダメな大人になる。


「俺が行く。ササッとそいつらを治癒して弟を解放してドラゴンからはトンズラこいて終わりだ」


「マジかよ!兄ちゃん助かるよ!」


「私も行くわ!」


「いや、悪いがソフィー、カルラはついてこないでくれ。人数が増えると守るのが難しくなる」


 戦闘タイプではない俺はとっさのカバーが出来ない。この少年すら置いて行きたいところだが案内してもらわないといけないから仕方なくだ。

 ゴロツキどもの怪我が治ったところで今度は金品を巻き上げようとしたりする可能性だってあるし、ドラゴンの囮にされる危険もある。


「カルラはソフィーと他の冒険者に依頼しても良いから家に帰ってくれ」


「分かりました……もうあの時みたいな失敗はしたくないし……」


 カルラは恐らく顔を怪我をした原因のことを言ってるんだろう。戦えないものが危険な場所にいると周囲の人間にまでリスクが及ぶことを身をもって体験しているから、聞き分けが良くて助かる。


「俺はケニイだ、よろしく」


「俺はベンジャミン。今は金がないけどお礼は一生かけてでもするから弟を助けてやってくれ!」


「別に金目当てじゃないぞ。お前みたいな子供から報酬期待するだけ無駄だからな」


「分かってるよ!でも本当に助けてくれたら奴隷でもなんでもなってやるくらいの覚悟はあるつもりだ!」


「いや、そこまでしなくていいが」


 こんな子供の人生背負うのは荷が重いって。笑顔でありがとうって言ってくれたら十分なんだよな。

 子供でもそれでチャラに出来るほどの話じゃないっていうのは理解してるんだろうけど、この子の未来を俺が縛るなんてしたくないぞ。


「俺はまだ子供だから戦えないけど大きくなったらダンジョンに行って稼いでお返しするからな!」


「まー楽しみにしとくよ。早速弟のいるところに案内してくれるか?」


「おう!でも心配だから走りながらでいいか!?」


「それじゃ時間がかかる。おんぶしてやるから道を教えてくれ」


「分かった……街を出て山の方に……って!わわっ!おい!速すぎるぞ!」


 ベンジャミンを背負い俺はダッシュする。子供一人抱えて走る程度なら俺のステータスじゃ朝飯前だ。本気を出せば馬より最高速度は出るだろう。


「飛ばすから舌噛むなよ!」


「こ、怖えっ……痛ってぇ舌噛んだ!弟助かる前に俺は死ぬかも知れない……」


「言わんこっちゃな……痛ってえ!俺も噛んだじゃねーか!」


「俺が悪いのかよ!?」


 俺は走りながら街を出てベンジャミンの弟のいる山の方へと向かった。

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