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1-10話 やっぱり風呂は落ち着いて入りたい

 浴室には井戸水を汲み上げ浄水する魔道具と、お湯を沸かす魔道具が既に用意されている。後は魔石をセットするだけだ。

 魔石は冒険中でも大活躍のこの世界のエネルギー源で、蒼達に余りを譲り受けている為それなりに持っているので、わざわざ買いに行く必要もない。


 やや埃や蜘蛛の巣が張っていて綺麗とは言えないが今日のところは我慢だ。ジョボボボとお湯を浴槽に溜めていく。


 入浴剤を入れてと……さあ、風呂に入ろう。


「失礼します」


「おわっ!?」


「湯浴みの手伝いを致します」


 リリーがドアを開けて入ってきた。既に服は脱いでいるので、俺の全裸を見られることとなる。


 普通ならここで裸を見られて慌てるんだろうが、俺もこの世界に来て長い。貴族の屋敷や王城に宿泊したこともあるので、今更裸を見られることは慣れているし大して恥ずかしくないのだ。

 ただ、いきなりだったので驚いただけだ。


「別に一人で入れるんだけどな」


「いえ、お背中お流しさせてください」


 この問答は100回くらいやってる気がする。結局、主人に仕事しないと怒られますと皆言うから渋々受け入れて洗ってもらっている。


「リリー、以前の職場ならやらないと怒られただろうが、俺はゆっくりしたい派なんだよ。元の世界でも召使がいて、洗ってもらうって文化も無かったしな。ま、お互いに洗い合いっ子するってならいいけどよ」


「……かしこまりました」


 少し間があったが、リリーは服を脱ぎ出す。


「脱ぐんかい!」


「私と一緒に入りたいとのご要望ですので?」


「……嫌じゃないのか?」


「え?どうしてです?」


 彼女は本気で何故そんな質問をするのです?と言わんばかりの疑問を浮かべた顔で首を少し傾ける。


「嫌じゃないならいいんだよ。風邪引くから早く入ろう」


「はい……では、少々お待ちを」


 服を脱ぐリリーを置いて俺は先に浴槽に入る。


「ふー気持ちいい〜」


 シャワーや椅子もついていて前の家主は相当風呂が好きだったことが伺える。風呂は俺たち勇者が持ち込んだ文化でここ数年で貴族や金持ちの間で広まり、日本的な様式も入っていたりする。

 だが、シャワーまでついているのは珍しい。俺としては一々用意しなくていいので助かるがな。


「ケニイ様、お湯を汚してはいけないので、私が先に身体を洗っても構いませんか?」


「いいよ」


「……私の身体どうですか?」


「綺麗だと思うよ、俺的にはもっと美味いもの食って肉つけて欲しいところだがな」


「もう……そういうことではありません……」


「分かってるよ、性的に魅力あるかどうかってことだろ。女性らしい腰と尻で胸もしっかり膨らんでて良いと思うよ」


「ッ……ありがとうございます……私の毛が何か?見苦しいですか?」


「ああ、いや、髪が青だと下の毛も青なんだなと思って」


「……?当たり前では?」


「俺の世界じゃ、髪は黒か茶色か、赤か、金か、白の人しか居ないんだよ。染めてる人はいてもな。だからちょっと不思議だな〜と思ってつい見てしまった。悪かったな」


「いえ、ご興味がお有りならいくらでも見てください」


「また今度な。風邪引くからさっさとシャワー浴びろ」


「……はい……」


 リリーは頬を膨らませてやや不機嫌そうに髪を洗い始めた。


「こいつを使ってみろ。髪を洗う為の液体の石鹸で、汚れも落ちるし、指通りも良くなるから」


「液体の石鹸ですか?」


「シャンプーって言うんだ。どれ、俺が洗って手本を見せてやろう」


 シャンプーを手に取り、リリーの濡髪に手を当ててワシャワシャと泡立ててやる。


「随分良い香りがするんですね、それに泡が凄く出てます」


「俺は香水よりもシャンプーのほんのりした匂いの方が好きだな」


「それに……頭を洗ってもらうのって気持ち良いんですね」


「確かに。俺の世界じゃ髪を切る店があるんだが頭も洗ってくれて気持ち良くて寝そうになるんだよ」


「分かる気がします……眠くなってきました」


「まあ、奴隷商館じゃ緊張もしただろうし、飯も食って気が緩んで眠くなったんだろう。泡を流すから目を瞑っとけ。目に入って痛いぞ」


「はい……」


 シャワーからお湯を出して、髪の泡を流すと青い髪は一層色の深みが出たように感じる。


「次はこれだ。コンディショナー。これは髪に栄養を与えたりしてパサつきを抑えるもんだ。まあ、髪のポーションってところだな」


「そんなものまであるんですね」


「そう。こうやって髪全体に塗り広げて手でギュッと握って染み込ませるのを繰り返してから流す」


「これは泡立たないものなのですね」


「ああ、そうだな。汚れを落とすためのものじゃないしな」


「不思議なものがいっぱいですね……これは貴族のご婦人方に求められるのでは?」


「金に困ったら売ることも考えるよ。さ、流すぞ。これはヌメリが無くなるまでしっかりと洗い流すように」


「はい」


 しっかりと、洗い残しがないか確認してコンディショナーを取る。


「どうだ?」


「滑らかな手触りですね」


「髪を乾かしたら余計に違いが分かると思うぞ」


「楽しみです」


 続いて身体を洗う為にボディソープを使う。


「背中は洗ってやるが、前は自分でやってくれよ?」


「あら?殿方は胸が好きなものと思っていましたが」


「いや、好きだよ。でもだからと言って触るのはまた別問題だろ」


「私はケニイ様に触られても不快ではありませんよ?」


「まだ出会って1日だぞ?抵抗ないのか?」


「私は奴隷の召使いですよ?主人の夜伽の相手は何度もしていますし、慣れています。

 それにケニイ様は気持ち悪い男性と違って優しくて顔もカッコいいですし、素晴らしいお力で私たちに手を尽くしてくれているではありませんか?何を嫌がることがあるんですの?」


「そっか……」


 常識の違いってやつだな。ただ、顔に関しては詐欺だから素直に喜べないな。


「なら遠慮なく……」


「私も一緒に入りたいです……」


「アン!?」


 ドアの隙間からひょこっと顔を出したアンがそういう。

 いやでもアンって14歳くらいだよな……いくらなんでも不味くないか?大人として。


「アンはまだ子供だろ?大人としてそれはちょっとどうかと思うんだがなあ」


「……」


 アンはジトッと俺を見つめる。


「あの……ケニイ様、アンは私より年上です……」


「ハァッ!?それはないだろう?」


「私はエルフとのハーフなので成長が遅いだけで……立派な大人で28歳です……」


「ちょっ、泣いてる!?泣かなくてもいいだろ、悪かったよ子供扱いして。ってかエルフなのか!?」


「ハーフエルフは人間の半分ほどの速度で成長するので、見た目は14歳程度ですが大人ですね……」


「でも全然エルフっぽく……あっ……」


 エルフの特徴として、尖った長い耳がある。だが、彼女はそもそも耳がなかった。


「エルフと知られると変態貴族に良いようにされると思って耳は自分で削ぎ落としました……」


「そうだったのか……でも長い耳ってエルフにとって相当大事なものなんじゃ……」


「辱めを受けるくらいなら人間の奴隷として死んだ方がマシです」


「そっか……じゃあ俺が耳もちゃんと治してやるからな、安心してくれ」


「エルフだと知られて得がなかったので人間と同じ耳で良いです。同じ耳が良いです……」


「分かった。好きなようにしていいから」


「はい……失礼します」


「えっ!なんで入ってくるんだよ……全裸じゃないか!」


「今好きなようにしていいって……」


「言ったけど……そうじゃない……言ったけど……あー!もういいよ!皆で入ろう!」


 これ、捕まらないよな?と誰に対してビクビクしているのかは自分でも分からないが後ろめたさを感じながら、背中の洗い合いをして湯船に浸かる。


 3人入っても大丈夫な大きな浴槽で助かった。


 髪を乾かすと、アンの煤けた色だった金髪はプラチナブロンドのような輝きを見せた。


「二人とも綺麗になったな」


「湯浴みは週に一度で質の良い石鹸などはありませんでしたから」


「リリーは穏やかな海みたいだし、アンは宝石みたいだな」


「私もそう思います。我ながらここまで髪の綺麗な人は見たことがないかも知れません。道具でこれほどに変化があるのですね」


「うん……綺麗です……」


「風呂場だから鏡置いとくか。これで身だしなみも整えやすいだろう」


 風呂場と洗面所にそれぞれ大きめの鏡を設置する。


「風呂上がりはこれを着たらいい。女だから櫛も必要だな。着替えは家用の服なら俺がいくらでも用意するが、外に出る時は目立つから街で買ってくるか」


「ケニイ様、ありがたいのですが流石に贅沢過ぎます」


「なーに言ってんだ、綺麗にしておいてくれたらその分俺の格も上がるってもんだろ?」


「おっしゃる通りです。ケニイ様に仕える以上、可能な限り身綺麗にするべきですね」


「そうそう。じゃ、今日はもう遅いし明日の予定もあるから早く寝るとしよう。それぞれの部屋にベッドとか必要なもの置くから待っててくれ」


「「はい」」


 ベッド、枕、シーツ、櫛、ヘアゴム、ピン、手鏡、机、椅子、思いつく限り必要なものを取り出して、それぞれの部屋に時計を設置する。


 時刻は物品召喚のおまけ機能みたいなもので、端っこに表示されているのを見て合わせる。

 やっぱり、キッチリとした時間が分かっている方が俺としては便利なのでこの家では時計は採用したい。


 日の出とともに起きて、日の入りと共に1日を終える生活だったが、どうにも不便なんだよな。待ち合わせとかもザックリ過ぎて、無駄な時間を過ごしてる感があったし。


 それでも、その分時間に縛られずカリカリしないようなおおらかな心が養われたと言えば良いのか。要するにルーズになっただけなんだがな。仕事もあるし、時間の管理は多少しっかりしたい。


 いつの間にか23時になっていたので眠くなってきている。6時に起きるというリリーの為にわざと遅く起きる必要のある俺は8時にタイマーをセットして眠りについた。

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ポイント、コメント非常に励みになりますのでよろしくお願い致します!

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[気になる点] >元の世界でも召使がいて、洗ってもらうって文化も無かったしな 文化自体はあるのでは? 主人公にその習慣がなかったというだけで
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