1話
今までたくさんのゲームを遊んで来た。多種多様で、楽しいゲーム。
しかし、何度も何度も遊んだゲームというのは私の人生の中で数える程しかない。
その中でもたった一つ、一番最初に遊んだゲームと言うのはとても根強く自分の中に残っていて、今でも細かい部分を覚えている。
私がまだ小学生だった頃、親に強請りに強請って買って貰ったゲームはよくあるRPGだ。 村を焼かれた勇者がただ一人だけ生き残り、魔王討伐を志して魔王を討伐するというストーリー。
よくある導入、よくある展開。普通のRPGで、他のゲームと少々違う点は、主人公である勇者を自由にキャラメイク出来るところ。
性別を選べ、頭のてっぺんから足の爪先まで細かくキャラメイク出来る。
MMORPGでもないのにキャラメイクをここまで細かく出来ることで爆発的に人気になり、そして直ぐに廃れた。
動きはカクつき、ローディングは一々長く、ストーリーは二番煎じで面白くない。せっかくキャラメイクしても装備で隠れてしまうことは多々。
自由度が高いのはキャラメイクだけで、それ以外の自由度は全くないに等しい。そうしてすぐに人気は落ちてしまい、福袋の中に入れられたりワゴンセールで売られたりした。
私はそんなゲームを、こよなく愛していた。それ以外のゲームを中々買い与えられなかったということもあるが、主人公を自分で作り上げ、そんな自分で作り上げたキャラクターがゲームの中で生きているということに喜びを感じていたのだ。
初めてやったゲームがそれだったからストーリーが二番煎じというのも知る由が無く、純粋に心からそのゲームを楽しんでいた。
何度も何度も、そのゲームだけを遊んだ。魔王を倒してエンドロールが流れると初期化して、同じアバターでゲームをやり直す。
ただそれだけの行為が楽しかったのだ。
最後にゲームをしたのはいつだっただろうか。社会人になってめっきり触らなくなってしまった。
テレビで流れるゲームのコマーシャルを見る度に面白そうだなと考えて、そして目を逸らした。
一回ゲームから離れると、もう一度そこに戻るには難しかった。
明日も仕事だし。明後日は久しぶりの休日だから、買い物に行かなきゃいけない。
そんな日々を永遠に繰り返した。友達と遊ぶ余裕はある。家族に会いに行く時間もある。
ゲームをやりたいと思う気力だけはあったけれど、ゲームをしない理由はそれを上回るほどあった。
社会人になって、オタク仲間が減って、ゲームをしていると大っぴらに言えなくなって。
そんな風にゲームをしない日々を過ごして、色付いていた世界が少しずつ褪せていって。
そして気付けばそこは見覚えのない世界で、見覚えのある子がいた。
「決めた、君の名前はリーナだ」
黄金色の髪、蒼い瞳。どんな風にセットしているのかわからないくらい斜めになっている前髪はとても特徴的で、短いせいで耳は隠れることなく、その通常よりも長い耳を見せている。
少し身動ぎするだけでガチャガチャと音がなりそうなくらい着込んでいるその鎧を着た目の前の人物は明らかに人間ではない。
「フェリーナ……?」
小さく呟いた言葉は、彼女が困ったように頷いたことで肯定される。
彼女はフェリーナ。
私が幼い頃から何度も何度も、起動出来なくなってしまうまで遊び尽くしたゲーム『ソード&マジック』の主人公その人だ。