そして俺は失敗しました。
『お早いお帰りでしたわね』
「……」
そう言ってアレイアはぴょんと俺の頭の上から飛び立った。
因みに俺は両手で顔を覆っている。
『あれほど自信たっぷりに語っていたのに、まさか最初に死んだ時より悪い結果になるなんて思いもしませんでしたわ』
「……」
皮肉たっぷりにアレイアはそう言うが、俺は両手で顔を覆っている。
『あなたのせいで、私の命も危うかったのですよ? 分かっているのですか?』
「……」
アレイアは俺を叱り、叱られている俺は両手で顔を覆っている。
『そうそう。私としたことがクロノス様のお言葉を忘れておりましたわ。念の為にあなたにも伝えておきますと、【アレイア、刻之が自信あり気に言うときは気をつけなさい。それは確かに良いアイデアである可能性が高いのだけど、そのアイデアを思いつけた事に対して気持ちが高揚している分、細かなところを見逃しやすいんだ】と』
アレイアがクロノスの真似して話しており、俺は両手で顔を覆っている。
『何とか言ったらどうですの?』
ただただ両手で顔を覆い続けている俺に対して痺れを切らし、アレイアは俺の耳たぶを掴んで引っ張り始めたので言い訳を始めた。
「い、いや、違うんだ。自分があんなに英雄願望が強いと思わなかったんだよ~。実はチート能力的なものがピンチになれば目覚めるんじゃないかと思ってたんだよ~。亮太の奴にあったんだから自分にもあるんじゃないかっていう思いを捨てきれていないとは思わなかったんだよ~……!」
話している内に情けないやら恥ずかしいやらでなんだか泣けてきてしまい、気づいたら滂沱の涙を流していた。
それを見たアレイアは『ばっちいですわ』と言って俺から距離を取った。
今回俺が計画していた「死の回避プラン」はこうだ。
ミルちゃんと知り合い、彼女が変な男たちに狙われていると知った今、彼女と会うことを避ける運命を選ぶことは今の俺にはできない。
そうなると、俺が戻るとするならば必然的に彼女を助けた以降の時間になる。
矢で撃たれる直前に、『敵の気配がするから気をつけろ』と暗示をかけたところで、必ずしも矢を避けきれるとは思えない。
それならば、元の動きを大きく変えずに、飛んでくる矢から身を護れるようにすれば良いと考えたのだ。
その結果として、俺は最初の時間軸では倒した男たちから松明だけいただいていたのだが、今度は最初に倒した男が持っていた剣も、腰のベルトごといただくように行動を変えるように暗示をかけたのだ。
別にその剣で襲ってくる連中を撃退することが目的ではない。
【その剣を腰にぶら下げておくことで、足に刺さるはずの弓矢を剣が弾いてくれることを期待したのだ。】
そこそこ重量のある剣を持つことでミルちゃんを助けようとした動きは鈍くなってしまったが、幸いにもそれが功を奏し、丁度剣の柄に近い、最も幅が広い部分で矢をしっかりと弾くことができたのだ。
正直、ここまでプラン通りに事を運ぶことができると思わなかった。
うまいこと腰に下げている剣で弓を弾くことができなかった場合、ベルトを調整して剣をぶら下げる位置を少しずつ変えていくつもりだっただけに、たった一回で目論見通りに事が運べたのは運が良かった。
問題はその後だ。
本来であれば剣を捨てて身軽になった状態で、最初の時間軸の時と同じようにミルちゃんを抱えてジグザグに走りつつ、目的地である木の前にたどり着くようにすべきところを、今度の俺は【たまたまぶら下げていた剣で弓矢を弾くなんてことができるわけがない。きっとこれは天運、もしくは亮のような特別な力の類なんだ】と勝手に思い込んでしまったのだ。
そこから先は語るのも恥ずかしいのだが、ミルちゃんに「俺が囮になるから、その間にお家まで駆け込むんだ!」との言葉を残し、彼女が走っていくのに合わせて、腰の剣を抜いて敵がいると思われた方へ駆け出して行っちまった。
今思うと、頭の上に潜んでいるポポことアレイアがこの時に慌てたような声をあげて俺の頭をつついたような気がしたが、その時の俺はすっかりシチュエーションに酔いしれており、頭の中で盛大な音楽を奏でながら「うおおおおおおお!」雄たけびをあげて突撃したんだ。
それで一人でも相手を倒すことができていたのならばまだ格好がつくのだが、あっさりと飛んできた矢に頭を貫かれて死んでしまいました。
ええ、俺がもう少し首を低くしていたら、アレイアさんにも弓が刺さっていた可能性があるので、本当に馬鹿なことをしたと思っております。
これからは自分が如何に愚かなのかを確認してから行動に移すようにしますので、そろそろ許していただけますでしょうか?
『仕方が無いですわね』
許してくれてありがとうございます。
それではもう一回生き返らせてください。
いえいえ、最初からでなく剣で矢を弾いた直後からでお願いします。
はい、馬鹿な考えを持つんじゃないと死ぬほど言い聞かせてやってください———。




