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一難去ってまた一難

声をかけてから言葉が通じないことを思い出した。

そもそも木の上から男が降ってきたことで怖がらせているかもしれないし、しかもその男が訳の分からない言葉を話しているとなればその恐怖は一層強まるだろう。

やばい、この子を泣かせてやしないかとあたふたしていると、


「ダイジョブ、デス。アリガト、ゴザマス」


カタコトながらもお礼の言葉を述べてくれた。


「……え? 俺の言ってること、分かるの?」

「スコシ、ワカルマス」


少女は一生懸命思い出しながら話しているように見えた。

これはあれだ、とつぜん英語で道案内を頼まれた時の俺の反応みたいだ。

なんで俺の話す言葉が分かるのかは謎だが、今それを確認することも無いので一旦置いておくことにした。


「そっか……怪我はないかな?」

「アリマ、セン!」

「なら、よかったよ」


さて、無事にこの子を助けられたのはいいものの、これからどうしよう?

元々の最優先事項は木のてっぺんから竜が墜落したであろう場所を確認し、どうにかそこへ向かうつもりだったのだが———。


「君のおうちはどこだい?」

「エ、エト、ア、アノーーー」

「大丈夫、落ち着いて。説明するのが難しい?」

「ハイ……」


俺の質問に対して、少女は不甲斐ないと言わんばかりの表情を浮かべる。


「なら、帰り方は分かる?」

「ワカル、マス……」


わかるのか!

森の中だと方角が分からなくなって迷ってしまうものだと思っていたが、この子はよっぽどこの森を熟知しているのだなと感心した。


「それじゃあ送っていくよ。もう暗いし、こいつらみたいなのがいたら危ないからね」

「……? アノ、エト……ゴメナサイ……ナンデス、カ?」

「ああ、つまり———きみ、帰る。俺、ついていく……いやごめん待って、ついていくだと表現として完全にアウトだな……えっと、きみ、帰る。俺……きみを……助ける!……わかった?」

「ワカル、マスタ!」

「よしきた」


本当だったら先に亮たちが墜落したであろう場所をちゃちゃっと確認したいところだが、先ほどのした男たちの仲間や危険な動物なんかもいるかもしれない中、見たところまだ小学生くらいの女の子を一人にしておくのは危険であると判断し、まずはこの子を安全な場所まで送ることを優先事項とした。


2人組の男たちが落とした松明を拾い、少女の先導の元で彼女の家に向かうことにした。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は時田刻之っていうんだ」

「トキ、タ、クロノ……サマ?」

「様なんてつけなくていいよ。刻之だけでいい」

「クロノ、サン……?」

「そうそう」

「クロノサン!」


まるで大事な秘密を教えてもらったかのように、その子は嬉しそうに俺の名前を呼んだ。


「ミル!」

「ん?」

「ワタ、シィ、ミル! イイマス!」

「そうか、ミルちゃんか。よろしくな」


そう言って隣を歩いているミルの頭を撫でると、


「ハイ! ヨロシク、デス!」


とはにかんだ笑顔を見せてくれた。


うーむ、我ながら気障っぽかったかなと少し恥ずかしかったが、まあ、異世界だし少しくらい格好つけてもいいかと気持ちを切り替えたところ、


「ぴぴい!」


先ほどまで静かだった小鳥が急に自己主張を始めた。

どうやら体力が回復したようだ。


「ぴぴい、ぴい! ぴよっ!」

「エト、ソレ、ナニデスカ?」

「ああ、こいつはいつの間にかついてくることになった小鳥で、名前は———」


あれ、そういやずっと小鳥小鳥と内心で呼んじゃいたけど、まだ名前を付けてなかったな。

多分こいつしばらく居つくだろうし、名前くらい付けるか。


頭の上にいるそいつを両手で救うように持ち上げて、ミルちゃんの目の前に差し出した。

改めてこうしてまじまじと見ると、柔らかくて真っ白な羽毛で体を覆われており、短いながらもくちばしと翼があるのでどうにか鳥類であることは認識できる生命体である。

正直第一印象からタンポポの綿毛みたいだなと思っていたので———、


「ポポっていうんだ」

「ぴぃい?!」


小鳥は俺が突如名付けたその名前を聞いて、「嘘やろ?!」ととでもいうような驚愕の表情を浮かべたが、


「ポポ、ヨロシク、ネ」


ミルちゃんがすかさず翼を握って挨拶をしたことで、この名前から逃れられないことを悟り、今度は絶望の表情を見せた。

うーむ、表情が豊かだなと感心していると、突如きっと俺を睨み付け、


「ぴぃー、ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ、ぴーぴっぴぃ!」


その嘴で俺の手をつつきまくりやがった。


そんなやり取りを挟みつつ、松明で足元を確認しながら歩くこと十分前後。


「チカク、デス!」


どうやら目的地に近づいたようだ。


道中ミルに色々質問をしてみたものの、想像以上に言葉の壁は高く、ミルちゃんがエルフという種族で、よくは分からないが、それが原因でさっきの男たちに狙われていた、ということしか分からなかった。

なるほど、言われてみれば確かに耳が尖っているし肌は透き通るようだし、何となく人間離れしているなとは思っていたが、異世界だからと言って本当に"エルフ"が存在するとは思わなかった。


人間たちに追われていた原因は結局分からなかったものの、どうやら親族の中には俺の話す言語を流暢に操れる者がいるらしいので、その人からいろいろ聞くことにしよう。


「コノ、オオキイ、キ、ガーーー」

「危ねえ!!」


背後からの殺気を感じて、咄嗟にミルちゃんを抱えて横っ飛びに飛んだ。

数瞬の後、ひゅん、という風を切る音が3つ聞こえ、先ほどまでミルちゃんがいた場所に矢が2本刺さっていた。


「大丈夫か、ミルちゃん?!」


木の陰に隠れながらミルちゃんに怪我が無いか確認する。


「ダイジョブ、デス……」


突然のことに動揺はしているようだが、ミルちゃんには怪我がないようで安心した。


「! ク、クロノ、サン!!」


ミルちゃんは俺の左足に刺さった弓矢を見て、悲鳴のような声を出した。


「大丈夫だよ、これくらいなら。それよりももっと身をかがめて、狙われちゃうから」


と、ミルちゃんの手前格好つけたけど、ぶっちゃけ痛くて泣きそう……いやいや、しっかりしろ!まだ敵がいるんだ!

しかし、弓か……相手の姿が見えていれば放つ瞬間に避けるのなんざわけないが、身を潜めつつ遠距離攻撃をされると厄介だな……。

それに関しては、先ほど松明を落としてしまったのはラッキーだ。これで敵も正確に狙撃することはできまい。


だが、こちら陣営は手負いの男と幼気な少女の二人だ。

距離を詰められてしまえば、もはや一巻の終わりだろう。

そうなってしまわぬようにする為には———


「そういえばミルちゃん、おうちはもう近いのかい?」

「ハ、ハイ……アノ、オオキナキ……アソコデ、ジュモン、イウト、ケッカイ、ハイレマス」

「なるほどね」


よく分らんが、周囲の木の中でもひと際大きなあの木の傍で何やら呪文を唱えると、結界?の中に入れるようになるんだな……。


さて、どうするか———。

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