そいつはピイと鳴いた
排泄中は、生物が最も油断をする瞬間であると言われているらしい。
らしい、というのはあくまで聞きかじったことしかなく、それを俺自身が実感したことが無いからこその表現なのだが、なるほど、確かにその通りであると思わされた。
あれ、小用を足している最中にさ、なんか知らないけど体がブルリと震えることがあるじゃない?
そのブルリとした感覚が抜けたところで顔をあげると、目の前の木の枝でまるまるとした生命体が俺を見ている事に気が付いた。
戦慄した。
つい数秒前まで目の前に生物の気配がなかった。
目の前どころか、辺りに生物がいないことを確認してから用を足したというのに、気づかぬ内に目の前にそいつが出現したので、驚きのあまり硬直してしまった。
その生物はまるまるとした形をしており、その体はふわふわとした綿毛のようなもので覆われている。
正直体がまるまるとしているのか、綿毛のような体毛のせいでそう見えるのかは触ってみないことには分からない。
そしてよくよく見ると、体の両側に手のような……いや、これは小さいけど翼か?があり、顔には嘴と思われる部位がついている。
鳥……?鳥なのかな?
体の大きさに対して翼が小さすぎるように思えるので、正直飛べるかは定かではない。
何よりも気になる点として、最初に目があった時ははキラキラした眼をしていたにもかかわらず、今はまるで汚物を見るような眼で俺を見てきている。
これはあれか、俺に敵意を持っているってことなのか?
この世界の生物についての知識が無いから、下手な動きが取れない。
くそっ、どうすれば———
「ちょっと刻之、あんたいつまで———あんた、なに自分のイチモツをそこのかわいらしい生物に見せつけてるの?」
あ、そういやチャックをあげる前にこの生物とにらめっこになっちまったから出しっぱなしだったわ。
「見せつけるなんて、そんな変態みたいに言うな!」
「でもこの子のあんたを見る目は完全に汚物を見てるような感じよ?」
「俺が用を足してる最中にその生物が急に現れたのが悪い!」
いつまでもイチモツを出しっぱなしにしているわけにもいかないのでいそいそとチャックをあげる。
「とりあえず今のところ危険は無いっぽいから、刺激しないようにそっと移動しようぜ」
「んー、別にそっとでなくてもいいと思うわよ」
「なんで?」
「その子があんたの頭の上にいるから」
「え?」
と、先ほどまであの謎生物がいた場所を確認するが、確かにその姿が無かった。
恐る恐る頭の上に手を伸ばしたら、
「ぴよっ!」
という鳴き声と共に手を叩かれてしまった。
亮の言う通り、いつの間にか俺の頭頂部に謎の生物が鎮座しているらしい。
とりあえず頭から降ろそうと思い、もう一度手を伸ばしたが、
「ぴぴぃっ!」
と、もう一度手を叩かれた。
イラっとしたので両手で無理やり引き離そうとすると、
「ぴいぃっ!」
ずぶりと右手の甲をくちばしで貫かれた。(程の痛みを感じた)
「ぎゃああああああああ!」
同じようなやり取りを何度か繰り返していたものの、これ以上は本当に手に穴が開いてしまうと判断した俺は、その鳥っぽい何かが俺の頭上に鎮座することを渋々受け入れた。(因みに亮はその間ずっと爆笑していた。)
そんなやり取りを経て、アランとアロウの元へ戻ってきた。
アランは俺の形を見て何やら声をあげていたので亮に通訳を頼んだところ、
(それは何かしらの進化の形なのか?)
みたいなことを言っていたようだ。(亮はその発言を聞いてからしばらく爆笑していたので、意味の確認するまでしばらく時間がかかっちまった)
アランにこの鳥はこの世界の生物ではないか尋ねたところ、少なくとも彼もこの謎生物を見たことが無いらしい。
「お前一体何者なんだよ?」
と、頭の上のそいつに声をかけるが、
「ぴい♪」
と鳴くばかりだった。




