異世界舐めてた
舐めてた。
完全に異世界を舐めてた。
アランが竜に乗ってきたとは聞いていたし、ジアゼル王国へも竜に乗って行くのは昨夜の内に聞いていた。
人数が2人増えても大丈夫なのか聞いたら、アランが何とかなるだろうと言うので安心しきっていた。
まず、何よりも俺が訴えたいのは、だ。
竜に乗って空を飛ぶ、という言葉を聞いて想像する映像と言ったらやはり、竜の背中に乗っての飛翔だと思うんだ。
実際はどうかって?
これがスタンダードなのかは不明だが、今俺は竜に抱きしめられながら地上100メートルの高さを飛んでいる。
因みに亮とアランは竜の背中にまたがって座っている。
そしてこの大きさの竜ならば、俺を含めて3人を背中に乗せることもできたはずなんだ。
だのにこのアランの竜……名前はアロウだったっけ?
こいつときたら俺を見つけた瞬間、
「きゃうぅぅううぅううぅぅっ!!!!」
と甲高い声をあげて駆け寄ってきて、まるでぬいぐるみを貰った子供のように俺を抱きしめて振り回してきやがったんだ。
あまりのはしゃぎようにアランと亮の奴は唖然としていたが、
「た、助けてくれぇ~」
と俺が情けない声をあげるとようやくアロウを宥めにかかった。
アランのおかげでどうにかアロウはおとなしくはなったものの、その後はどうやっても俺を放そうとしてくれなかったので亮のやつが、
「もうそのままでいいんでない?別に危害があるわけでもないんならあんた、そのまま運ばれなさいよ」
とかぬかしやがった結果、アロウは亮とアランを背中に、俺のことは両手でひしと抱きしめ、何度か翼を羽ばたかせた後、あっという間に大空へと羽ばたいた。
その見事な飛翔は、抱えられている俺に逆バンジーがどういうものなのかを教えてくれた。
そして現在、俺は相変わらずこの竜にひしと抱きしめられている。
ただ加減を覚えたのか、苦しくなるほどの力ではないのが救いだが、自由に体を動かせない。
どうにか体をよじって体制を変えようとすると、
「きゃうっ!」
と、まるで「めっ!」と子供を叱るような声をあげて、またこいつが抱きしめやすい体制を取らされるのだ。
くそう、圧倒的な力で俺が屈すると思うなよ!
今にお前が油断したその一瞬を狙って———
「きゃうっ!」
悪巧みをしていたら、それを悟ったのかさっきと同じように怒られた(ような気がした)。
飛行を続けること数時間———。
眼下には見渡す限りの大森林が広がっていた。
きっと今の地球ではほとんど見られない光景を前に、思わず「すげえな」という言葉が漏れた。
竜に抱えられて空を飛んでいるにも拘らず、そんなところでも改めてここが異世界であると思わされた。
ただそんな感動も、問答無用に襲い来る生理現象にかき消されてしまった。
「おい亮!トイレ行きたいからそう伝えてくんない?!」
声を張り上げて亮へ話しかける。
ただ、上空を高スピードで移動しており、且つ、間に竜の体を挟んでいるせいで、亮からの返事はこんな感じだった。
「え?! なに?!」
「だから! 用を足したいからそう伝えてくんない?!」
「え?! なんて?!」
「トイレに行きてえから!!そう伝えてくれ!!」
「ごめん、全然聞こえないんだけど!!!」
「トイレ!!」
「え?!」
「ト!!イ!!レ!!」
「お、い、で?! おいでって言ったのあんた?!」
「ちげえよ!!トイレだよ、ト!!イ!!レ!!」
「いやよ!! 何であたしがそっちに行かないといけないの!!」
「ちげえええええええ!!!」
ダメだ全く通じない。
どうしようかと頭を抱えていると、
「きゃう?」
どうしたの、と竜が問いかけてきた。(ように感じた)
「もうお前でもいいや。ちょっと用を足したいからさ、アランにそう伝えてくんない?」
「きゃう?」
「用を足したいじゃわかんねーか。あれだ、花を摘みたいんだよ」
「きゃう……?」
「そんなバカを見るような眼をすんじゃねえ!本当に花を摘みたいんじゃなくて、ションベンに行きたいんだよ俺は!」
半ばやけくそに竜に話しかけると、こいつはまるで「合点承知!」と言わんばかりに反応し、背中に乗っているアランに向かって首を曲げ、
「きゃう、きゃうきゃう!」
と何やら声をかけた。
そして急旋回をしつつ、眼下に広がる大森林の中でも比較的開けた場所を確認すると、その場所に降り立った。
「あんたの要望通り、トイレ休憩の時間よ」
「マジで伝わったのかよ?!」
俺はまだまだ異世界を舐めていたらしい。
「まあ、いいや!とっとと済ませてくるわ!」




