アラン、英雄の塔へ
以前ちらりと出てきたアラン王子がメインのお話です。
用心はしていた。
英雄の儀への参加を妨害するのに、日程の通知を遅らせるだけでなく、もっと直接的な方法を用意しているだろうと。
だからこそ私は武装を完全に整え、私の友たる竜の中でも歴代最高の肉体を持つアロウを今回の供に選び、必要最低限の物資を積み込んで、アロウと共に英雄の塔へ飛び立ったのだ。
竜という生き物の性質上、寒さというのは大敵である。
短時間ならばまだしも、長距離を飛行する際には低い高さで飛行しなければ竜の体力はどんどん奪われていく。
今回の移動距離を考えると、少しでもアロウの体力を温存しておかなければならない為、低い高度を維持したまま最短距離を飛行する必要がある。
そこで問題になるのは、道中に広がるエルダの大森林の存在だ。
もしも俺が敵方にいれば、必ずこの場所で罠を張るなり待ち伏せをの兵を置く。
森林という地形であれば、低い高度で飛翔してくる敵から身を隠しつつ魔法や弓矢で攻撃することが可能だからだ。
迂回をすれば問題なくそれらを回避できるだろうが、そうすると移動時間が最短距離での移動に比べて4割程長くなってしまう。
ただでさえギリギリ間に合うかどうかだというのに、そんな悠長なことは言ってられない。
なので私は迷うことなく、アロウと共に最短距離での移動を選んだ。
すると案の定、その道中に広がるエルダ大森林にて敵魔導士共の待ち伏せを受けたようだ。
ようだと、他人事のような表現をしたのは、待ち伏せをしていた連中が全くアロウの速度に対応できずにいたためだ。
あえて刺客共の頭上を選んで飛翔をしていたのだが、連中、アロウが通り過ぎてから遥か後方より見当違いの方向へ向けて魔法や矢を放ってきているので避けるまでもなかった。
アロウは私がこれまで育ててきた飛竜の中で最も、いや、もしかしたら歴史上に存在した飛竜の中でも最上位に並ぶほどの肉体を有しており、本気で飛翔すれば音を置き去りにしてしまうほどである。
もちろん、その速度を保ち続けては体力が持たないので、要所要所で本気の飛翔を行うように指示をした結果、どうにか書状にあった、英雄召喚の儀の時刻に間に合った。
ほっとしたのも束の間、私は嫌な予感を覚えた。
英雄召喚の儀で各国の要人が集まっているのであれば、それ相応の兵士たちが英雄の塔周辺に集まっているはずなのだが、塔の周辺には人影が見当たらなかったからだ。
アロウに指示をして高高度まで飛翔をさせ、私は遠見の魔術を用いて周囲の確認を行った。
すると遥か遠方に集団が複数点在しているのが見えた。
一瞬、私が早く着きすぎてしまったのかとも思ったが、それらの集団が一様に英雄の塔から離れていくのを見て、それが誤りであると判断した。
大陸大会議で発行された書状は、会議に参加した国の中から無作為に選ばれた数か国の魔術師たちが、多重に偽装防止の魔術をかけることで、本来は細工ができないようになっている。
なので発行された書状を見て、父上をはじめとした国の中枢の人間たちは、その書状を本物であると疑わなかった。
だが、それが無作為でなく、初めからジアゼル王国を陥れようとする国の人間が選ばれるようになっていたとしたら、いくらでも書状を改竄することができる。
完全にしてやられたことを理解し、奥歯をぐっとかみしめた。
英雄たちは完全に他国の手に渡ってしまった。
我が国がこの後いくら抗議をしようとも、召喚に立ち会えなかった事実は覆らない。
例え大会議の場でこちらの正当性が認められたとして、既に他国と誼を結んだ英雄たちが望んでこの国に来る可能性が低い。
英雄たちにとってみれば、こちらは後から難癖をつけて彼らの力を利用しようとする輩にしか見えないからだ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、アロウが「クルルゥ」と心配そうに鳴いてこちらを見つめている。
「すまないな、アロウ。お前に無理させただけでなく心配までかけてしまった。ここは冷えるし、一度英雄の塔へ降りよう」
そう言うとアロウは「クルゥ!」と一鳴きすると、英雄の塔の屋上へ一直線に降り立った。
さて、とんだ無駄足となってしまったが、とりあえず今夜はこの塔で夜を明かそう。
明日になったら朝一番で国へ発ち、事の顛末と今後について話し合わねば———。
どごおおおおん!!!
突如激しい破壊音と共に、英雄の塔が揺れた。




