プロローグ
少しストックがあるので、最初の内は高頻度で登校します。
Prologue【Scene 6580 act.1】
7月某日。
その日は梅雨明けで数週間ぶりの晴れだった。
いつもならば登校時間ギリギリまでうだうだしているのだが、カーテンから漏れる朝日ですっきり目覚めることができたので、思い切って早く起きてみることした。
枕元に置いた懐中時計が示している時間は、俺がいつも起きる時間よりも大分前のものであった。
顔を洗って歯を磨き、制服に着替えてリビングへ行くと、母さんがキッチンで朝ご飯の支度をしている。
「あら? 刻之あんたもう起きてきたの?」
「ん。なんか目が覚めちった」
「あんたがこんな時間に起きてきてるってことは———折角梅雨が明けたのに、今日は雪が降るわね」
朝一番に皮肉を言われたので思春期らしく「うっせーばばあ!」と反抗したら、母さんが手元にあったカボチャを俺に投げつけてきた。
※その後カボチャはおいしいみそ汁となり、朝の食卓に並びました。
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俺は時田刻之。
何不自由なく生きてきた、平均的な高校3年生である。
「おす~、くろ……の?」
朝一番で怪訝な表情を浮かべているのは、幼稚園の頃からの幼馴染で同級生の黒島亮である。
「んだよ?」
「……あんた、顔どしたの?」
「なにが?」
「……頬っぺた馬鹿みたいに膨れてるわよ?」
「おかんにカボチャを投げつけられた」
「……止さんもバイオレンスだけど、どーせあんたも怒らせるようなことしたんでしょう?」
止とは母さんの名前である。
「……うっせ」
「ほんといつまでもガキね、あんた」
「反抗期真っ盛りをなんだからしょうがねえだろ?」
「もう18でしょ? 引きずりすぎよ、反抗期」
ここまでのやり取りでお察しいただけたと思うが、亮はいわゆる、まあ、そっち系だ。
ただ、見た目がやたらといいだけに、その事実を知らない女共からの人気はすごい。
※事実を知る一部女からもある種の人気を博しているらしい。
その反面、男子生徒のほとんどはこいつを気持ち悪がっているが、本人はケロリとしたものである。
曰く、『イケメンに気持ち悪がられるならまだしも、ブサイクどもには何言われてもちっとも気にならないわ……うそごめん。イケメンに気持ち悪がられるのもそれはそれでありかも!』とのこと。
俺の数少ない友人で、親友でもある。
そんな幼馴染で親友のこいつと毎朝一緒に登校するのがルーティーンとなっており、今日も今日とて他愛の無い話をしながら学校へ向かっていた。
———交差点に差し掛かったところで、信号が点滅していることに気が付いた。
走って渡れば赤になる前には渡り切れるとは思ったが、特に急いでいるわけでもないので一旦は立ち止まり、次に信号が青になるのを待っていた。
「あら、珍しい。あんたのことだから走って渡るかと思ってたわ」
「別に急いでねえしな」
「せっかく梅雨が明けたのに、今度は雪でも降りだすかもね」
「うるせっ。つーかおかんにも似たようなこと———」
———言われたわ。
その言葉を言い切る前に、俺は無意識のうちに道路へ駆け出していた。
点滅していた信号が完全に赤色に変わっていたにもかかわらず、俺の脇を走って横断歩道を渡ろうとしている少女と、信号が青になると同時に走り出したトラックが同時に視界に入ったためだ。
火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、どうにかトラックと少女が接触する前に少女の元へたどり着くことができた。
が、その子を抱えようとしたところ、まるでホログラムの映像に飛び込んだかのように、俺はその子の体を通過してしまった。
何が起きたのかを確認するために後ろを振り返ると、俺が少女と思っていたそれは、邪悪な笑みを浮かべてこちらを楽し気に見つめていた。
次の瞬間、俺は激しくトラックに衝突され、命を落とした———。




