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乳児に見える呪い

「ふさちゃん。寂しかったでちゅかー?パパは寂しかったでちゅよー♡」


 甘い声と共に不方さんの吐息が私の耳にかかる。私はそれだけで全身が身悶えしてしまう。


 な、何なのこれ!?どう言う状況なの?わ、分からない!どう考えても何も分からないんだけど!?


『仕事帰りのパパ(不方泰山)が一日振りに愛しの愛娘(金梨ふさよ)に再開した。これはそう言う設定よ!ふさよちゃん』


 突然心の中に玲奈の声が響いた。せ、設定!?設定って何よ!?私は必死に玲奈の言葉を思いだす。


 の、呪い!?これが不方さんにかけられた呪いって事なの!?


『正解よ。ふさよちゃん。視界に入った相手が全て自分の娘(乳児)に見える。それが不方泰山君が地場霊にかけられた呪いよ(笑)』


 お、おいちょって待てや!神の国の正規雇用員!!あんた今最後に(笑)的な問題発言しなかったか!?


 そ、それより、ど、どんな呪いよそれ!?私の知っている不方さんとは全く別人格となった仕事帰りのパパ(不方泰山三十歳)は、私の頬にチュッチュッと何度もキスをして来た。


 ちょ、ちょい待って!!いきなりキスは待ってー!!三年半、片想いをして来た相手から突然キスをされた娘(金梨ふさよ二十六歳)は、脳内が沸騰する様な感覚に陥った。


 不方さんは私を抱きかかえ持ち上げる。そして部屋の中を歩き出した。


「ふさちゃん。まんま食べまちゅかー?それともお風呂が先でちゅかー?」


 お、お風呂?私は父親と一緒にお風呂に入る娘の絵を想像し、頭から蒸気が吹き出る程赤面した。


 だ、駄目よ!!付き合う前の男女が一緒にお風呂に入るなんて!!そんな不埒な行為は絶対に駄目ぇぇっ!!


「ま、マンマ!!マンマがいいでちゅー」


 私は赤ちゃん言葉風な要求をする。あ、あれ?これっていいのかな?乳児が言葉を喋れる筈が無いのに。


「はーい。じゃあパパはマンマ作りまちゅねー」


 パパ(不方さん)は私の発言を不審に思った様子を見せず、私をブランケットを敷いた床に優しく寝かすと台所に向かった。


 台所に立つ不方さんの背中を見ながら、私の激しく動く心臓は一向に収まる気配を見せなかった。


 ど、どうすればいいの?玲奈は確かに言った。地場霊の呪いによってパパとなった不方さんの欲求を満たせと。


 それはつまり、パパ(不方さん)の意のままに。決して逆らってはならないと言う事なの?


 混乱する私に時間は無慈悲に経過して行く。暫くすると、不方さんはフローリングの部屋に戻って来た。


 右手には何かの容器を持っていた。そ、それは哺乳瓶!?そして中に入っている白い液体はミルク!?


 な、何で独身男性(不方泰山)の部屋に哺乳瓶と粉ミルクがあるのよ!?不方さんは床にあぐらをかき、私をその両足の間に寝かせる。


「はーい。ふさちゃんー。ミルクでちゅよー」


 不方さんは左手で私の後頭部を支え、右手でに持った哺乳瓶のチクビを私の口にゆっくりと入れて行く。


 二十六歳の女子が乳児が使用する哺乳瓶をくわえさせられる。赤面し続ける私は、目の前に映る不方さんの顔を見る。


「ふさちゃん?ちゃんと吸わないと飲めないでちゅよー」


 恋する女子のハートを完全破壊し尽くす笑顔に、私は必死に哺乳瓶のチクビを吸い始めた。


 ミルクはちゃんと人肌の温度に冷まされおり、私は甘いミルクを黙って吸い続けた。とにかく!とにかく不方さんの欲求を満たすのよ!!


 そして私がミルクを吸い終えると、不方さんは私を抱き起こし私の身体を揺らす。こ、これは何!?


「はーい。ふさちゃん。ゲップしまちゅよー」


 そ、そうか!!乳児は自力でゲップが出来ないからミルクを飲ました後、身体を揺らしてゲップを促すって聞いた言葉がある!


 ん?ゲ、ゲップ?私は片想いの男性の前でゲップをするの!?そんな端ない行為をしなくちゃいけないの!?


「んー?どうちました?ふさちゃん。ゲップ出まちぇんねー」


 不方さんが若干心配そうな表情で私の顔を見つめる。だ、駄目だわ。これは私がゲップしないとこの状況は終わらない!


「······ゲップ」


 上手に。そして不自然さが出ないようにゲップを再現したのが災いした。私は飲み屋帰りの腹が突き出た中年サラリーマンの様な濃厚なゲップ音を出してしまった。


 恥ずかしさの余り口を明けて震える私に、不方さんは「ゲップ出まちたねー」と微笑み私をブランケットの上に寝かせる。


 そして不方さんは洗面所に向かった。次々と私に襲いかかる羞恥心を刺激しまくる信じられない出来事に私の心臓。否。心は激しく疲弊していた。


 ······そして私の聴覚にシャワー音が聞こえた時、私は勢い良く起き上がった。こ、これは!!この音は浴槽にお湯を溜めている音!?


「ふさちゃんー。パパとお風呂に入りまちゃよー」


 両手にバスタオルを持った不方さんが恐るべき宣言を通告して来た。全身に悪寒が走る私は、その恐怖に戦慄していた。




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