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クリスマスプレゼント

先に京香から圭介へプレゼントを渡した。

クリスマスカラーにラッピングされた袋に入っていたのはマフラーだった。

クリスマスプレゼントの定番だし何の面白みもないと思ったが、寒い冬に温まって欲しいという率直な気持ちからこれを選んだ。


「うわぁ。ありがとう…」


早速圭介が首に巻き付けマフラーの両端を手に取り嬉しそうに眺めている。


「良かった。すごく似合ってます」


紫色を基調にしたマルチボーダーのマフラーは圭介がいつも着ている黒のコートにも合いそうだ。

何を贈ったら良いかわからず途中考えるのも嫌になりそうだったが、こんなに喜んでもらえるなら一生懸命考えて良かったと思った。


「じゃあ俺からはこれを」


圭介が少し恥ずかしそうにしながらプレゼントを差し出す。

受け取ったのは手のひらサイズの小さな箱だった。

ピンクのリボンをほどき蓋を開けると、そこには可愛らしい花柄の丸い缶が入っていた。

中身は飴であるかのような入れ物だがこれは…


「あ…ハンドクリームですか?」


「うん。なんかケースが可愛かったから」


「はい、可愛いです!ありがとうございます!」


「いつも料理作ってもらってるけど手が荒れたりとかしないか心配で」


「そんな…嬉しいです…」


プレゼントからも自分を気に掛けてくれていることが伝わり感動してしまう。

泣かせないでほしい。

圭介はハンドクリームを大切そうに胸に抱く京香を目を細め見つめていた。

そして少しの間視線を落とし意を決したように再び顔を上げた。


「それでその…出来れば…これからも…」


と圭介が言いかけたところで京香が慌てて遮る。


「あの…!」


「え?」


「実は私もう一つプレゼントがあって…」


「もう一つ?いいの?」


プレゼントを2つも貰えるとは思っていなかった圭介が意外そうに尋ねた。


「これどうぞ…」


紙袋を手渡すと何だろうと言いながら圭介が包装を解いていく。

気泡入りの緩衝材を破り出てきたのは茶碗だった。


「お茶碗…?」


京香のものよりも一回り大きく、藍色でシンプルに色付けされた男性用のものだ。

茶碗の種類が多くて迷ったが、母方の祖母が好きな長崎の波佐見焼のものにした。


「母用に買ったお茶碗使ってもらってて先輩専用のがなかったので…」


膝の上で手を握り小さく深呼吸をする。

これだけは自分から言いたかった。


「あの、私、これからも先輩と一緒にご飯食べたいです。よければ大家さんが帰って来てからも…ずっと…」


圭介に向き合い正直な気持ちを伝えた。

お茶碗はその意思表示のために買ったのだ。

圭介が望まなくても一緒にいたい。


「…俺も。俺も白洲さんとこれからも一緒に食べたい」


茶碗を包み込む圭介の両手が震えていた。

圭介の目は気のせいか潤んでいるように見えた。


「宜しくお願いします!」


それを悟られまいとしたのか圭介が勢い良く頭を下げた。


「はい。こちらこそお願いします」


やっと言えた。

そして圭介も同じことを望んでくれた。

嬉しくて嬉しくて涙が眦に滲んだ。


「でもいいの?俺にご飯作ってくれても勉強教えるくらいしか返せないよ?」


大家さんが帰って来るまでという短期間の約束だったので、食費も受け取らず勉強を教えてもらうことで返してもらっていたのだ。

この先もずっととなると圭介としてはもらう方が大きくなってしまう。


「はい。もうギブアンドテイクとかいいんです。私は先輩と一緒にいたいんです」


そう告げた瞬間圭介が身を乗り出して座ったまま京香を抱き締めた。


「ありがとう…」


返答の代わりに京香も圭介の背中に手を回しギュッと力を込めた。

圭介がピクリとそれに反応し何やら唸った後呟くような小さな声で言った。


「まだ緊張するし恥ずかしいからたまにでいいんだけど…」


「はい?」


「京香…って呼んでもいい?」


耳元で名前を囁かれ耳から発熱した熱が全身に回る。


「は、はい…」


(た、たまになら…慣れるかな…?)


「俺のことも名前で呼んでくれる?」


「え?け、圭介先輩…?」


「うーん。何か物足りないけど…今はまだそれでいいや」


「物足りないって…えと、じゃあ、圭介さん?」


圭介の肩の上で首を傾げながら疑問系で口にしてみる。


「うっお…破壊力がヤバい…!」


圭介が口を手で覆い身体を引く。


「先輩顔真っ赤ですよ…」


耳まで赤くなっている。


「あのねえ!そりゃ好きな子に名前呼ばれたら嬉しくて恥ずかしいに決まってるでしょ!」


痛いところを突かれたようで圭介が叫ぶように言った。


(好きな子…私のことでいいんだよね…?)


気持ちを伝えてくれた時の真剣な表情も、プレゼントを受け取った時のはにかんだ笑顔も、名前を呼ばれた時の反応も。

圭介の気持ちを信じるに値する要素しかない。

圭介の何を疑っていたんだろう。


「あと俺からも改めて謝っておきたいんだけど」


「はい」


「お父さんのこと…勝手に聞いてゴメンね」


「はい…」


「出来れば、もし無理ならいいんだけど、白洲さんの口から聞きたい」


勝手に母から聞いてしまったことへの罪悪感なのだろうか。

いや、事実だけではなく京香の気持ちを京香の言葉で聞きたいのかもしれない。

京香はどこまでも律儀で誠実な圭介のことが改めて好きだと実感した。

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