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圭介side-12(ご対面)

今回も圭介sideですが、ここからまた話が進みます。

12月に入り保護者面談の時期がやってきた。

圭介は大家のおばちゃんが保護者ということになっているのだが、おばちゃんが不在にしているので担任に事情を話し今回は保護者面談を免除してもらった。

その代わり進路に関する小言を散々聞かされた。


この日はバイト先での作業がなかったので早めに帰宅し京香がバイトから帰って来るまで一寝入りするつもりでいた。

部屋に入って着替えようとしたところでインターホンが鳴った。

ドアスコープから覗くと40代くらいの女性が立っていた。

見たことのない人だったがなぜか警戒することなくドアを開けてしまった。


「こんにちは」


にこやかな笑顔で挨拶された。

何かの営業だろうか。


「こんにちは。どちら様でしょうか」


「はじめまして。京香の母の市香です。いつもお世話になってます」


(んなっ…!?)


まさかの母訪問。

しかも好きな女の子の。

無意識に背筋が伸びる。


「は、はじめまして。琴吹圭介と申します。こちらこそいつもお世話になっております」


何と返したらよいかわからずとりあえずバイト先の社員さんの話し方を真似をした。


「あら、ご丁寧にどうも」


正解だったようだ。


「えと、保護者面談でこちらに?」


「ええ。面談自体は明日の午前で直接学校に行くつもりだったんだけど仕事が早く終わったから今日泊まっちゃおうかと来たのにあの子いなくて」


「今日はバイトだそうですよ」


「だから連絡つかないのかー今仕事中なのかしら」


「バイトは19時までだと聞いています」


一言一言慎重に言葉を選ぶ。

マズい発言をしてしまっていないか緊張する。


「えーそれまでかなり時間あるわね…じゃあ京香の部屋で一緒にお茶しませんか?」


「え!?」


突然のお誘いに動揺してしまう。

京香の母と二人きり…

背中に汗がしたたり落ちる。

嫌なわけではないが何を話したらいいのかわからない。

ちゃんと喋れるか不安だ。


「忙しい?別に尋問するつもりはないんだけど」


尋問という言葉にゴクリと息を飲む。


「いえ、大丈夫です。はい、伺います」


「お土産あるから京香が帰って来るまで食べましょう」


「はい。ありがとうございます」


京香の部屋にお邪魔しコーヒーを入れてもらった。

お土産は関西で有名なロールケーキだったが事情を話して遠慮させてもらう。

一応体質のことを信じてくれているようだ。


「圭介君て呼んでもいい?」


「はい、どうぞ」


「じゃあ、圭介君。本当にいつもありがとう」


市香に深々と頭を下げられて恐縮する。


「いえ、僕は何も。むしろお世話になっている側です」


「そうでもないのよ。あの子圭介君と過ごすようになってからすごく変わったの」


「そうなんですか?」


「ええ。知宏さん、前の夫が亡くなってから学校でのことなんてそう大して話さなかったのに最近になって急に進路や友達のことも話してくれるようになって」


圭介にはいつも学校での色んな話をしてくれるので意外だった。


「特に友達の話を聞いたのなんて小学校以来じゃないかしら。学校でいじめやなんかに遭ってはいなかったみたいでもやっぱり心配じゃない?ここに一人残すことになって本当に申し訳なかったんだけど今京香が楽しそうにしてくれて私も救われているの。きっと圭介君のお陰だわ」


「もしそうなら僕も嬉しいです」


自分が京香にそんな影響を与えているとは思えなかったのだが、否定するのも何なので素直に受け止めておく。


「京香にはずっと苦労をかけっぱなしで寂しい思いもさせたんだけどそのせいでなかなか人に甘えられない子になっちゃったのよね…」


それはよくわかる。

京香はなんでも自分で解決しようとする傾向がある。

一人で悩んで落ち込んだりするので相談してもらえないことに圭介の方が凹んでしまう。


「だから圭介君に勉強を教えてもらってるっていうのが意外で。きっとあなたには心を許しているのね」


「そうですかね…」


自分という人間を頼ってくれているというか、学力が魅力的だっただけなのではないかと思うのだが。

いつものようにネガティブ思考に陥ってしまう。


「ところで…本当にイケメンなのね…」


急に話が変わった。

一番返答に困るやつだ。


「え。いや、そんなことは…」


悪いことをしているわけではないのに気まずさで目を逸らしてしまう。


「礼子さんも京香もガンガンハードル上げるからどんな顔なのかと思ってたんだけど…」


胡散臭い顔だと思われていたらどうしよう。

よく知らない奴らに遊んでそうなどと言われることもある。

女経験なんて皆無なのに。


「ちなみに本当に京香とは付き合っていないの?」


「ええ!?いえ!それはないです!」


自分で否定して悲しくなる。

しかし尋問はしないと言っていなかったか。

直球過ぎやしないか。


「えーそんな全力で否定されると寂しいわー」


「いえ、ホント…僕の片思いなので…すみません…」


なぜか自分の気持ちを本人より先に京香の母に告げてしまった。

何を言っているんだ俺は。


「あら!あらあらあら!!」


盛大に後悔しているとなぜか市香が嬉しそうな反応をした。


「やだーそうなのー!?親バカで申し訳ないけどあの子なかなかのお買い得物件よ!」


仮にも大切な娘に対してなんて表現をするのだ。

普通に良い子でいいじゃないか。


「そうかーでも京香は友達すら作ろうとしないから…」


――友達を作ろうとしない。

それは圭介がずっと気になっていたことだった。

“できない”ではなく“作らない”。

やはりそうだったのか。


「京香さんはなんというか、とても良い子なのに友人がいないと言っていました。あれは自分から作らなかったということなんでしょうか」


確信を得るために市香の考えを聞いてみたかった。


「わかる?そうね。きっとそうなの。あの子は父親の死以来大事な人が出来るのが怖かったみたい。

 また失うことを恐れているのね。今の夫と再婚することになったとき京香に言われたの。『お母さんはまた大切な人を失ってしまうかもしれないけどいいの?』って。私そんなこと言われると思っていなかったからビックリしちゃって。再婚自体に反対される方がまだマシだったわ。だから私は『この人と大事な思い出を作って行きたい。思い出は失わないから』って答えたの。京香は納得してはいないようだったけど最終的にはお母さんの幸せが一番だからと言ってくれたわ」


ここで市香が一息つく。


「あの喪失感にはもう耐えられないんでしょうね。あんな小さな時に経験してしまったから…あれ以来いつかなくなるくらいならいらないと友達も作らないでいたんじゃないかって思うの。でもそんな京香が自分から友達の話をしてくれたのよ。何があったんだろうって思っていたんだけどそういえば圭介君とのことを聞いてからだったなって。ただ最初はやっぱり圭介君のこと怪しんだの。ゴメンなさいね」


「いえ、それはそうだと思います」


当然だろう。

自分が聞いても怪し過ぎる。

はっきり告げられても特に傷つきはしなかった。


「礼子さんにも説得されるように説明されて。京香にもね。信じていいものか悩んだけど京香の変化から会ってもいない圭介君の人となりがわかった気がして。実際会ってみたらとても良い子だったから安心したわ。これからも仲良くしてあげてね」


「はい。勿論です」


大袈裟かもしれないが京香の母からお墨付きをもらえたような気がして嬉しかった。

認めてもらえたなら全力で京香を守らねば。


「あと京香から圭介君のそういう話は聞かないからあの子の気持ちはなんとも言えないけど…私はできれば二人に上手くいって欲しいわ」


市香がペロッと舌を出して悪戯な笑顔を浮かべた。

京香がよくする笑顔にそっくりだった。


(どんな風に俺のことを話しているんだろう)


気になったがさすがに聞けなかった。

それでも京香の母である市香が味方になってくれるのは心強い。


「あと今月の15日が知宏さんの命日なの。もうすぐね。京香はこの時期になると不安定になるから気にしてあげてくれる?」


市香が部屋のカレンダーを見ながら言った。

来週のことだ。


「はい。わかりました」


圭介も春先になると調子が悪くなる。

体調を崩しやすくなったりやる気が出なかったり。

母親の命日の時期だからなのだろうが自分ではそうではないと思うようにしている。

母親の死を引きずっていると思いたくないのだ。


実を言うと圭介は母親の死から4年近く経つ今でも心の整理が出来ていない。

あの人は自分にとってどんな存在だったのか。

考えたくなくて吹っ切れた振りをしている。

もしかしたら京香もそうなのだろうか。


京香の父の死に関してはまだ聞いていない何かがあるような気がした。


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