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TKG

今朝は卵かけご飯と味噌汁を用意した。

圭介が庶民的なご飯も好きそうな印象だったからだ。

京香もいつも以上に手抜きが出来て楽になる。


生卵をミニ泡立て器でかき混ぜ空気を入れる。

九州の甘めの醤油とごま油、白煎りごまを加えてホカホカご飯にかけ全体に混ぜる。

刻み海苔を散らして完成。


これが京香流卵かけご飯。

ごま油の風味が食欲をそそり、たまに自分でも無性に食べたくなる。

母が鹿児島出身だったため京香にとっての醤油は甘い九州醤油だ。

特に刺身は九州醤油でないと物足りない。

京香がお気に入りということで鹿児島に住む祖母が定期的に送って来てくれる。


味噌汁は木綿豆腐と大根と人参の定番の具。

味噌は色々試して一番好みだったスーパーのプライベートブランドの

出汁入り合わせ味噌を使っている。

出汁を取る必要がないので時短命の京香にはうってつけだ。

味噌汁をお揃いのお椀によそってちゃぶ台に運ぶ。

母が泊まりに来た時用に食器を2膳ずつ買ってあったのだが圭介と使うと2人暮らしの食器のようで少し気恥ずかしい。

圭介の部屋には食器がほとんどなかったので仕方ないのだが。


7時になったところでインターホンが鳴る。

圭介は毎朝7時ちょうどにやってくるので最近はわざわざこちらから連絡を入れない。

ドアを開け朝の挨拶。


「おはよう」


「おはようございます」


「…今日は味噌汁?和食か!」


圭介はいつも部屋に入ると匂いでメニューを予想する。

たまには予想を外させたいと思うものの鼻が利く圭介は大体正解を出してしまう。


「正解です。今日はTKGです!」


「ローマ字にしたところで卵かけご飯でしょ」


笑いながら席に着き


「「いただきます」」


卵かけご飯をすするように掻き込む。


「ん!これ定食屋の朝定食のと全然違う!うめえ!」


「ちょっと自分流にアレンジしてます。九州醤油とごま油が決め手ですよ」


「白洲さんやっぱすげーわ。感動」


(学年一位の方がよっぽどすげーわ)


と少し僻みつつ一応素直に御礼を言う。


「ありがとうございます」


「いや、ホントスゴイ。そういえばそろそろ校祭の話出てるんじゃないの?」


卵かけご飯を頬張りながら圭介が聞いた。

校祭は来月だ。準備期間は実質1ヶ月強しかない。


「今日のロングホームルームで話し合うっぽいです。

 私、校祭って行ったことないんですがどんな感じなんですか?」


「文化祭も体育祭も漫画に出てくるみたいな感じ」


京香の高校の文化祭と体育祭は3日間で続けて行われる。

1日目と2日目が文化祭、3日目が体育祭だ。

圭介が言うように文化祭は出店や展示、演劇、ライブ等漫画に出てくるような出し物で溢れ、体育祭も定番の棒倒しやリレー等の競技があり熱狂的な雰囲気になる。

漫画に出てくる、と言われても京香はあまり漫画を読まないのだが中学時代にクラスの回し読みで見た少女漫画雑誌の描写を思い出していた。


「体育祭は各クラスから応援団員が男女最低1人ずつ選出されるんだけど、なったら放課後練習で残らなきゃだから回避した方がいいよ。」


「なんですと!選出ってクジだったりします?」


「場合によるけど希望者なしならクジかアミダか…」


「いやあああぁぁ…!」


放課後残らなければいけないことももちろん嫌だが、それ以上に人前に出るなんて絶対避けたい。無理。


「そんな悲鳴上げんでも…クラスに剣道部いる?」


「剣道部…男子と女子に1人ずついますね」


線が細いが身長の高い栗林佑馬と小柄な本田葵が剣道部だったはずだ。


「じゃあ大丈夫だよ。剣道部って体育祭の応援団に入るのが伝統だから」


「伝統!?」


「2、3年前の代の部長が祭りごと大好きな人だったらしくて

 部員全員に応援団やらせてそれ以降その伝統が続いているんだって」


伝統と言いながらここ3年くらいのことなんかーいと心の中で突っ込みつつそれでも誰かがやってくれる可能性があるのは希望だ。


「良かったー!!回避!ありがとう剣道部!

 あ、でも文化祭もあるのか…準備とかめんどくさくないやつがいいな…」


正直な思いを口にする。


「めんどくさくないやつねー何があるかな…」


京香のダメ発言に対してもちゃんと考えてくれる圭介はやっぱり優しい。


「去年先輩のクラスは何をやったんですか?」


「うちはカレー屋」


「飲食店ですか」


「俺が提案した」


「それはもしかして…」


「試食できるからね!」


親指を立て圭介が笑顔で答える。

期待を裏切らない回答に少しふき出してしまう。


「俺は試食しまくって当日はバリスタっぽい恰好で接客してたよ」


「先輩のバリスタ!見たい!」


見目麗しい圭介のバリスタ姿だ。女性客ホイホイ必至だろう。

それは繁盛したに違いない。


「写真あるよ。見る?」


「え!?見たいです!」


圭介がスマホのフォトアプリを起動する。

近寄って覗くとバリスタの衣装を着てピースサインをする圭介の写真が映し出されていた。

細身で背の高い圭介にはバリスタの衣装が似合い過ぎている。

たった1年前とはいえ今より少し髪が短く、幼い面影がまた良い。


「カッコいい…」


しばらく無言で見惚れた後、無意識に口に出てしまっていた。


「え」


圭介の声で京香は我に返り自分から出た言葉に気づく。

しまったと思いバッと隣の圭介に顔を向けると予想以上に距離が詰まっていて圭介の顔が自分の顔のすぐ近くにあった。

目が合いすぐに逸らそうとするが圭介の瞳に吸い込まれたように動くことが出来ない。


「…あ!ご、ごめんなさい…!」


少しの時間見つめ合った後、急いで自分の席に戻る。

顔が火照り動悸が激しい。


(イケメンの至近距離は心臓に悪い…)


当の圭介は左手で口を覆い明後日の方向を見ていた。

よく見ると耳まで顔が赤いようだが気のせいだろうか。

お互いの心臓の音が聞こえてくるような気分だ。

恥ずかしいのが自分だけでないことを祈る。


「か、カレーの売れ行きはどうだったんですか?」


慌てて思い付いた質問をしてみる。


「あ、ああ、売り切れたよ。確か2日目の途中で。飲食店結構めんどいんだけどね。食材の仕入れとか原価計算とか検便とか。あ、失礼」


圭介も気を取り直して当時のことを思い出しながら話す。

そして食事中の検便ワードに謝罪する圭介はどこまでも律儀だ。


「想像しただけでめんどいです。楽なのないですかね…」


「「うーーーん……」」


出来るだけ人と絡まず人前に出ず準備が簡単で当日の拘束時間の短いものがいい…等と困らせるようなことは言えないが何かないだろうか。


「ああ、そうだ。映像出展がいいかも」


「映像出展ですか?」


「撮影した番組みたいなのをプロジェクターで流すってやつ。去年どっかのクラスがやってたわ。格付けチェックの教師版」


「へー面白そう!」


「あれって撮影して編集して当日決まった時間に放映するだけなんだよね。ドラマっぽいのにすれば出たがりのやつが勝手に手上げてくれるし、編集も1クラスに一人は動画編集できるやつがいるし、当日は教室で放映のアテンドするだけだから楽なんじゃないかな」


「それだ…!!!」


「脚本もありもの使えば新規に作る必要ないでしょ。客寄せに行ってきまーすとか言ってサボることもできるしね」


「天才か!」


「天才!?」


「あ、思わず…でもさすがです先輩。それで行きたいです。でもどうやってその方向に持って行くかですよね…」


「そうだなー…」


二人であーでもないこーでもないと意見を出しつつ朝食を食べながら一緒に作戦を練った。

その間圭介は卵かけご飯を2回おかわりした。

食器を洗ってもらった後、圭介を見送って京香はロングホームルームに向けて意気込んだ。

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