理系クラス
「えと…先輩って理系でしたっけ」
ようやく出てきた言葉がこれだ。
「うん。俺2-1の物理選択」
「2-1ってもしかして…」
「うん…男クラ…」
京香たちの通う高校は2年から文系と理系にクラスが分けられる。
世間のイメージに違わず理系は男子率が高い。
そもそも1学年の男女比が6:4であり、さらに理系に男子が集まるという構図なので必然的に理系クラスの女子率が著しく下がる。
そうなると1クラスの男女比を適正にするため男子だけのクラス“男クラ”が作られるのだ。
今年度も2-1、2-2、3-1、3-2が男クラだ。
『男子ばっかりだと教室が黒いんだよ!なんでかっつーと紺ブレの女子がいないから全員学ランの黒なの!視覚的にも空気的にも暗いんだ。わっはっは!』
京香の担任が冗談めかして言っていたことを思い出した。
それを聞いた一年男子は理系に進む決心が揺らいだとかどうとか。
「男子ばっかりだとそれはそれで楽しそうですね…」
適当なフォローを入れてみたが
「楽しいっちゃー楽しいんだけど…汗臭い…」
「う…」
想像するときついものがある。
「白洲さんは文理どっち選ぶ予定なの?希望提出1月だよね」
「私は文系で考えています」
「志望校あるの?」
「志望校はまだはっきりと決めていないんですが経済学部だと思います」
「へーなんで?」
「私銀行員になりたいんですよ」
「銀行員?そりゃまた具体的だね」
「銀行員って平均年収高いし経験積めばどの業界への転職も可能らしいんですよ。経理とか経営企画とかで。私も色々あったので思うところもあり…とりあえず銀行でがっつり稼いでその後公認会計士狙ってます」
京香も一応将来設計は組み立てていた。
保険会社で働く母の話や新聞等の情報から最も自分の求めるものが得られる職業が銀行員ではないかと思っている。
最終的には資格を取るつもりだがまずは民間企業で働いて経験を積み、しばらく食べられるだけのお金を稼いだら資格試験に集中する算段だ。
理由がかなり打算的なものなので圭介の夢を聞いた後に言うのは正直気が引けた。
呆れられるか適当にスルーされるか覚悟していたが
「そうなんだ。いいじゃん。でも金融関係で働きたいなら金融工学も面白いと思うよ」
意外なことに圭介が話を膨らましてきた。
「金融工学ですか?」
「うん。俺もそこまで詳しいわけじゃないんだけど、これからフィンテックがさらに重要になってくるから金融工学を修めておくと銀行に就職するにしても重宝されるんじゃないかな」
「金融工学か…ありがとうございます!調べてみます!」
京香も耳にしたことがある程度で詳しくは知らない。
せっかく教えてもらったので早速後で調べてみよう。
銀行に就職するために経済学部に行こうとしか漠然と考えていなかったが別の学部を視野に入れるのも良いかもしれない。
「確率とか統計とか興味あったらより良いと思うよ。数学的に投資リスクを計算したりするの楽しそうだし」
「先輩はエンジニアだからガッツリ理系ですよね」
「うん。金融工学は工学部か経済学部だった気がするけど基本的には理系だろうね」
「理系か…化学がちょっとな…」
「うちの理系は化学必修だからね。文系だったら生物選択でもいいけど。化学苦手?」
「はい…熱化学方程式で躓いてから好きではないです」
「早くね!?」
「うう…」
「まぁまだどっちにするか決めないにせよ化学は文系でも選択できるしやっといて損はないから俺が教えるよ。」
「は、はい!ありがとうございます!」
なんて頼りになる先輩だ。
自分の知りたいことが質問しなくてもどんどん出てくる。
京香の夢に対しても真剣に考えてくれたことが何より嬉しかった。
これからも色々教えてもらおう。
そして圭介の好きそうなご飯を沢山作ろうと思った。