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出会い

はじめまして。宜しくお願いします。

……行き倒れってホントにあるんだな…。



京香の率直な感想だった。

バイト先のカフェから帰宅した築20年のアパートの自室扉の前。

若い男がうつ伏せで倒れている。

顔が見えないので息をしているかも怪しい。

正直面倒なことには巻き込まれたくないなと思いつつ、

生来合理主義を貫く京香の頭では想定される事態がフローチャートで構築されていく。


➀救急車呼ぶ→状況説明→救急車に乗せられる→付き添い→いつ帰れるか不明→早く寝たい…

②死んでたら…→警察も出てくる→実況検分とか?→夜遅くまでかかりそう→早く寝たい…


(うーーーーーーん……)


見なかったことにしようにもこの男が邪魔で自室のドアを開けられない。

とりあえず死なれたら一番困るという結論に至り京香は意を決して男に声を掛けた。


「もしもーし。生きてますかー?大丈夫ですかー?」


男の身体をゆすってみる。


「…う…」


「!大丈夫ですか!?どうしたんですか?救急車呼びます??」


(良かった!生きてる!)


生きていることが確認出来た安心からか声が大きくなる。


「…声…デカい…」


突っ伏したまま男が喋った。


「あ、すみません。えっと…大丈夫ですか…?」


「頭がフラフラする…」


「頭ですか?貧血かな…」


「多分…」


「あ、なら水飲みますか?ゆっくり身体起こしてみましょうか」


「うん…」


男の肩を支えながら身体を反転させる。

ようやく男の顔が確認出来た。


(あ…この人…見たことある。)


廊下灯の光が眩しいのか細めた目には長い睫毛が掛かっている。

作り物のような高い鼻に薄い唇。

少し長めの髪は女性のもののようにサラサラだ。


(スゴイ美形…うちの高校の人だったかな)


よく見たら制服も京香の通う高校のものだ。

こんな美形なら一度見たら忘れなそうな気もする。


「み、水…」


声を掛けられてハッとする。


「あ、ごめんなさい。これどうぞ。緊急事態なので飲み掛けで申し訳ないんですが…」


「ありがと…」


男は渡されたペットボトルの水をごくごくと飲み干し一息ついた。


「…っはー…助かった…死ぬかと思った…」


「大丈夫ですか?本当に貧血ですか?病院行ったほうが…」


「大丈夫。よくあるから。目の前真っ暗になって意識飛んだから貧血だと思う」


「はぁ…」


本当に大丈夫だろうか。貧血って慣れたらこんなものなのか。経験のない京香には判断出来ない。


「でも顔色悪いですよ。貧血ってことはあまり食べてないってことですか?」


男にしては真っ白な顔に不安を覚える。


「ああ…昼から何も食べてなくて…」


「え!?もう夜の10時近くですよ!?何もしてなくてもお腹空きますよ!」


お金がないんだろうか。時間がなかったのだろうか。少なくとも10時間は食べていないことになる。


「……腹は減るんだけど食べる気がしなくて…」


今は夏休みも終わる8月後半。夏バテということもある。もしくは偏食か。


「何かお腹に入れた方がいいですよ。てか家ここのアパートですか?」


「この部屋」


京香の隣の部屋のドアを指さす。


(え、この人隣の人なの?全然会ったことなかったから気づかなかった)


「水ありがとう。頭に血が戻って来たから帰るわ。こんな夜にゴメン。今度ちゃんと御礼する」


「あ、はい。それはいいんですけど…食べるものはちゃんとありますか?」


「……」


(なぜ無言…!)


心配になってきた。人と関わるのが好きではない京香だがさすがに隣の部屋で死なれたら困る。

いや、困るというか怖い。純粋に怖い。

高校を卒業するまでの最低あと2年半はここに住まなければならないのだ。

しかも1人で。


京香の脳内計算機がはじき出す。


(死なれるよりましだ)


「あの、もしよければ私作りましょうか?簡単なものならすぐ出来ますよ」


「え!!??」


男が目を見開いて声を上げた。


(あ、ヤバ。引かれた?)


「私隣の部屋なんです。怪しい者じゃありません。口に合うかわかりませんが何も食べないよりましだと思います」


「いや、怪しいとかじゃないんだけど…」


「さすがに部屋に上がってもらうのはアレなんで作ったら持って行きますよ」


「……いいの?」


「はい。私も軽く食べようと思っていたところなので一緒に作っちゃいます」


「ゴメン、お言葉に甘えていいですか?」


廊下に座り込んだまま上目遣いで見上げられドキッとする。


(『いいですか?』とか急に可愛いんですけど…)


ふっと笑いが込み上げてきた。


「はい、大丈夫です。まずゆっくり立ち上がりましょう。肩貸します」


「ありがとう。何から何まで申し訳ない」


「いえいえ」


(ここで恩売っておけばあとあと助けてもらえるかもしれないし)


不謹慎な考えを抱きながら京香は男の部屋の入口まで付き添う。


「では作っていきますが嫌いなものありますか?」


実は今冷蔵庫には最低限のものしか入っていないので嫌いなものを言われると困るが一応聞いてみる。


「手作りなら何でも大丈夫」


(『手作りなら何でも』???どういうこと?)


「わかりました。すぐ作ってくるので待っててください。無理はしないでくださいね」


「うん。ありがとう。宜しくお願いします」


男の部屋を後にし自室へ帰る。

荷物を置いて冷蔵庫の中身を確認。


(貧血ってことは血が足りてないってことだよね。安易な考えだけど肉でいいか。)


冷蔵庫から鶏もも肉と人参と大根、冷凍庫からいんげんを出す。

困ったときはとりあえず味噌汁を作るようにしているので人参と大根と玉葱は常備している。

一人暮らしだと野菜が余りがちなので冷凍野菜も重宝する。


「味付けは男子が好きそうな甘辛系でいいかな」

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