愛を込めて花束を
今回は主人公のお話。
シリアスは爆速で過ぎていく。
ガイア様との同棲生活が始まってから、早くも数日が経ちました。
最終候補生から見事、新人実働部隊メンバーになった私は、毎日が大忙しです。
リビドーとの戦いにも慣れて最近では一回の静止時間は一分を下回るようになりました。
今日は珍しく、ガイア様が大学から直帰せずに、お花屋さんに寄っていきました。
「あら、大地くんじゃない!!今日も、カスミソウかい?」
店員さんがガイア様を見ると、言いました。
どうやら、ガイア様は定期的に、このお花屋さんに来ているみたいです。
そして、いつも同じお花を買っていっているみたいです。
雑談をしながら、店員さんがカスミソウでブーケを作り終えると、お会計を済ませて、私達はお店を出ました。
これからどこに行くんだろう?そんな疑問を胸に、私はガイア様についていきます。
ぴったりくっついて、ついていきます。
ガイア様と話した所、ガイア様は浮いている悪魔や天使を見たのは私が初めてだったようです。
私達を見ることができる人間は生まれつき見ることができる人と、ある時から突然見えるようになる人がいます。
私達悪魔や天使を見ることができる人間。
普通の人とは違う人達。彼らは、歴史の中で魔女や魔術師、降霊術師や魔法使い。
数々の言葉で呼ばれていました。現在では、霊能力者とも言われるようです。
彼らは何故、私達を見ることができるのか。私達の間では、取引した人間と言われています。
普通の人が持っているものを支払い、喪失することの対価として、私達を認知できるようになったと言われています。
人によっては、通常の生活が困難になるほど自身の持っているものを支払って、より強力な力を得た人もいると言われています。
ではガイア様は、いつ、何を支払ったのでしょうか?
私はガイア様の温もりを全身で感じながらそんな事を考えていました。
ガイア様は速水さんの件以来、磯田先輩やご友人さん達の協力を得ながら、既に何件ものエネルギーを回収してくださいました。
ガイア様の周りの方々は、私達悪魔の存在やその仕事について説明された時、疑問を持つことなく、二つ返事で協力していただけました。
私もジャスティスの力を借りて慣れない仕事をなんとかこなしています。私達はとても幸せ者だと思います。
もしかしたら、お互いに幸せ者同士だから見えちゃったのかも?もしかして、運命?
そんな事を考えると自然と笑いが溢れてしまいます。
ガイア様はやがてとある場所に到着しました。
ここは、どうやらお墓のようです。
そして、ガイア様は、一つの墓石の前で止まりました。
とても丁寧にお手入れされていたそのお墓には、幾つかのお花が献花されていました。
カサブランカ、ホワイトレース、そしてミズバショウがとても元気に咲いています。
ガイア様はその花々と共にお花立にカスミソウを入れました。
ガイア様は、手を合わせて静かに目を瞑ります。
その墓石には"鈴木家"と刻まれていました。
ここは、ガイア様のご両親が埋葬されいる場所でした。
帰り道、私はガイア様の後ろを浮きながら付いていきます。
お家に近くなってきた頃、偶然、一人の女性と出会いました。
彼女の名前は神田七夕さん。ガイア様と同じ大学の生徒です。
「大地、今帰り?夜ご飯食べた?食べてないでしょ?一緒に食べよ!!」
七夕さんは半ば強引に、ガイア様をお食事に誘いました。
ガイア様と食事をしてお話している七夕さんはとても楽しそうです。
ガイア様も楽しそうにしているのですが、七夕さんの楽しいとは少し違うようです。
「今日は楽しかったよ!!ちゃんと歯磨きして寝るのよ!!またね!!」
食事を終えた後、ガイア様は七夕さんをご自宅まで送りました。
そして、一人でお家へ帰りました。
お家についたガイア様はスマホでメッセージを送ります。
送信相手は、野沢努、山下舞、そして磯田悠と書かれていました。
「お墓行ってきました!!毎回あざっす!!」
返信を待たないまま、ガイア様はお風呂に向かいました。
ガイア様がお部屋を出てから直ぐにスマホの通知が鳴りました。
「おうよ!!」
「どういてしまして」
「行って来たか」
返信が返ってきたみたいです。
私はガイア様を追いかけてお風呂に向かいます。
私はこっそりと脱衣所に入って服を脱ぎました。
そして、勢いよくドアを開けて声を上げます。
「ガイア様!!一緒に入りましょー!!」
「にょわああああああああ!!」
予想外の出来事にガイア様が大きな声を上げました。
「な、な、な、何事じゃあああ!!」
ガイア様は湯船に体を隠しながら言います。
私は両手を広げて笑顔で答えます。
「一緒にお風呂、入りましょー!!お背中流しますよー!!」
「んなことするかあ!!」
なんやかんやあって、ガイア様にお背中を洗ってもらっています。
とても、慣れない手付きでたどたどしく私の背中を洗ってくれています。
私を洗っている時のガイア様の声は常に震えて噛み噛みでした。
ガイア様の緊張が伝わります。無意識に私は微笑みました。
「今度は私の番ですー!!さあ!!座って、座って!!」
バンバンと、椅子を叩いてガイア様を座らせると私が慣れた手付きで背中を洗い始めました。
「ゴツゴツの背中ですねー!!逞しいです!!」
背中を洗いながら私が言いました。
「そうだろ?鍛えてるからな。俺の自慢のマッスルを讃えよ」
ガイア様が嬉しそうに答えます。声の震えは無くなっていました。
私はふと、違和感を覚えました。
そして洗いながら今日あったことを振り返ります。
「流しますね」
私はそう言って、シャワーを全開にしました。
あぁ、そうか。そうだったんだ。
私はシャワーに流されるガイア様の背中に強く抱きつきました。
「うぅおぉい!!ここ、こんどは何だ?!」
ガイア様はまた素っ頓狂な声を上げますが、私はピッタリとくっついています。
何も言わずに私は抱きつき続けました。
あの時の私は少し震えていたかもしれません。
呼吸が乱れていたかもしれません。
それでも、ガイア様は気づいていないでしょう。
シャワーの水圧と音と熱が私の震えを、声を、滴を洗い流してくれたはずです。
「おやすみなさい!!」
元気な声で挨拶すると私は先にベッドに入りました。
「午前三時をお知らせします。」
ピーンという効果音と共に、スマホが光りました。
「んにゃ、未だ夜じゃないですか」
スマホの時計をチェックして独り言を言いました。
スマホの時計は午前二時五十五分と表示されていました。
寝惚けていた私は着ていた物を全て脱いで、ガイア様のベッドに入りました。
優しい感触に包まれた私は、直ぐに再び眠りにつきました。
"愛"の無いそのベッドはとても暖かったのを覚えています。
主人公の深堀りは終了したのできっと魅力的なキャラクターになったはず。
なった。