非日常は悪魔と共に爆速で訪れる
小説の執筆は初めてなので、文法や表現に不備があるかもしれません。見つけた場合には指摘していただけると幸いです。
初回のみ、世界観の補完をするために低速で進行します。
「――以上で、本日の感情に関する研究の経過報告を終わります」
俺は大学でAIの研究ゼミに所属する三年生だ。AI業界では有名な御手洗園教授の下で、AI研究の一環として感情の研究をしている。
感情の研究と言っても生物的な意味での感情ではなく、AIに感情を実装するために感情の本質をテーマとして研究している。感情の発生原理ではなく、感情の社会における機能や、機械が持つべき感情の定義付け等が主なテーマである。
「鈴木くん。ありがとう。今日の報告会は全員終了したね。では、今日はこれで解散しましょう」
教授の言葉で、各々自由に退出していく。俺も教室を出ようとしたところで、磯田悠先輩に呼び止められた。
「大地。Amanzaの新機能をゼミのサーバーに上げておいた。後で更新しておけ」
「了解っす。あっ、磯田先輩。新機能ってどんな機能なんですか?なんか将棋に使える機能っすか?」
「詳しい機能については未だ試していないが、新たな実験として、意思疎通機能のα版を実装したらしい。実際の人間との意思疎通には程遠いが、プログラム通りの受け答えしかしない既存のAIとは一線を画す物だそうだ」
Amanzaとは教授が大手IT企業と協力して、開発したAIアシスタントアプリだ。Amanzaはオープンソースでリリースされており、世界各国で多くのサードパーティによって自由に開発が継続されており、非常に多くの拡張機能や新技術の研究に利用されている。このゼミでは主にAIに感情を実装する研究のために使用されている。
先輩との会話を終えて、新機能をインストールして帰る途中、早速アプリを試そうと思いAmanzaを起動した。
「Amanza、パンツ見えてる」
特に意味もなく、適当に音声入力してみた。しかし、返ってきた言葉は俺の日常を変えるものだった。
「え? パンツ? 嘘っ!?」
その声は、明らかに俺のスマホからとは違う方向から聞こえてきた。
実際に、スマホの画面にはその声とは違う、極普通のメッセージが表示されていた。
俺は素っ頓狂な声を上げながら、声が聞こえてきた方向を見た。
ばっぷっ。
ラーシャスな衝撃と同時に目の前が真っ暗になる。
「ん?なんだ?」
何かにぶつかったらしい。その何かはとても柔らかい球体の様な感触で心地よい暖かさを持ち、甘酸っぱくて芳醇な匂いがした。
「んにぎょわあああああああああああああ!!」
直後、この世界を真っ二つに切り裂きそうな鋭い高音が俺の全ての感覚を奪った。
思わず後退り、あたりを見渡すと、耳を抑えているのは俺だけで、周りの人は何事もなかった様に歩いている。
自分に起きた状況が理解できずにいたが、感覚が戻ると状況を確認するために正面に向き直った。
そこには、一人の女性が顔を赤くして慌てながら宙に浮いていた。
「えっ? 浮いてる?」
俺は浮いているその人を見て軽いパニックになっていた。
「え? 浮いてるって、あなた、私が見えてるんですか? お願いします!! 助けてください!!」
俺が彼女を見えていることに疑問を持つと、今度は助けを求めてきた。
俺は更に混乱するが、取り敢えず話を聞いてみることにした。
「助ける? 何を? というか、どうやって浮いてるんだ?」
「実は、私は悪魔で人間界で仕事をするための最終試験中で、どうしてもあなたの助けが必要なんです!!」
彼女の話を要約すると、悪魔達は人間の幸福な感情を集める仕事しているらしい。
そして彼女は実働部隊として仕事をするための最終試験を受けており、合格しなければ人間界で仕事はできないらしい。そして、人間のパートナーを付ける事ができるが、その人間は悪魔が見える人でなければならず、悪魔が見える人は非常に珍しいらしい。
「私のことが見えるあなたと出会えたのは、きっと運命なんです!!後悔はさせませんから!!どうかお願いします!!」
彼女の話では、悪魔と契約すると悪魔が契約対象の為に自身の力を使うことができる様になるらしい。
そして契約者は悪魔が多くの人間には見えないために出来ないことを代理で行う事で、人間は悪魔の力を借りる事で相互利益の関係になるらしい。
悪魔の力を借りる事自体に興味は無かったが、非現実な出来事に好奇心が刺激されたのと、浮いている悪魔を名乗る彼女を見てパニックになっていた事もあり、良く考えずにその申し出に乗ってしまった。
「ありがとうございます!!私、カナンって言います!!これからよろしお願いします!!」
カナンは満面の笑みでお礼を言うと、契約の儀式として俺にベルの形をしたお菓子の様な物を俺に食べるよう促した。食べてみるとそれは、チョコレートの様な甘さと鉄の様な味がした。
こうして、俺とカナンはパートナーとなった。
そういえば、パンツの色は黄色のワンポイントが特徴的な白と紫の縞模様だった。
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契約が完了して、再び家に向かいながら歩き始めると間もなく、カナンを呼ぶ別の声が聞こえてきた。
声の方に二人で向くと、もう一人空を飛ぶ別の女性がこちらへ向かってきていた。
「カナン、あんたもしかして、パートナーを見つけたの?良かったじゃない!!」
「そうなの!! 私、パートナーを見つけたんだ!!今度こそ私も合格するよ!!」
どうやら二人は仲がいいらしく、どうやら彼女は既に最終試験を終えている様だ。
もう一人の悪魔は俺を見ると嬉しそうに言った。
「あんたにカナンの人生は掛かってるのよ!!期待してるからね!!」
「ん? お前はこいつの知り合いか? お前は手伝わないのか?」
ふと、疑問に思ったことを聞いてみる。既に試験を突破しているなら彼女に協力してもらえば良い。
少なくとも悪魔の仕事について何も知らない俺よりは、よっぽど助けになるはずだ。
「私は悪魔じゃないわ、天使よ。試験では受験者が他の天使や悪魔に協力してもらうのはダメなのよ。それに、お前じゃない。私の名前はジャスティスよ」
「天使? 悪魔と天使は仲が良いものなのか?」
ジャスティスと名乗る天使にそう聞くと、悪魔と天使、人間の関係について説明された。
悪魔と天使は昔より人間の感情が溢れた時に出る余剰エネルギーを回収する仕事をしていたそうだ。
悪魔は努力と快楽、天使は愛情と喜びの感情を担当しており、役職が違うだけで同じ種族らしい。
努力の感情とは言い換えれば目的を達成するための執念のことで、つまり執着心のエネルギーである。
そして執着は怒りのエネルギーに近い性質を持つため、快楽は誘惑に似た性質持つために、その感情を増幅させ、集める彼らに対し悪いイメージを持った人間は彼らを悪魔と呼ぶようになったようだ。
一方で、愛情は時に喪失を伴い哀しみの感情に変わること、そして哀しみの感情を自分たちから取り除き、喜びの感情を溢れ出るほどに増幅させてくれる彼らを天使と呼んで敬うようになったらしい。
最も、天使や悪魔彼ら自身は人間にどう思われているかなど全く気にしていないようで、自分たちの業務を遂行することにのみ関心を向けているようだ。
一通りの説明を受け、自己紹介を終えた後、ジャスティスと別れた俺達は再び家に向かい歩き始めた。
午後二時になろうとした頃、俺達は家に着いた。
「んで、お前はこれからどうするんだ?」
家の前で立ち止まり、カナンに聞いた。
「そうですねえ。 先ずは感情を溢れさせるのに丁度良い人を探したいですね。」
「そうか。んじゃ、がんばってくれ」
そう言うと俺は家のドアを開けようとした。
「ままま、待ってください!!一緒に探しましょうよ!!」
当然のように一人家に入ろうとする俺を慌てながらカナンが引き止めようとする。
そして、後ろから勢いよく後ろから抱きつかれた俺はバランスを崩し転倒した。
ぶぁふぉっ。
手がファンタジックな感覚に支配される。まるで手の皮膚より内側の全てがヘリウムガスに置き換わったかのような軽さだ。
手の軽さとは裏腹に不思議と感覚は研ぎ澄まされている。車で言えば、突如、幻のギア七速に入ったあの感覚だ。
そして再び、俺の世界は世界を二分する超音波に切断された。
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午後三時を過ぎた頃、俺達は夏葉原の電気街中央広場にいた。ここは、駅前の大型商業施設を中心に、様々なホビーショップや電化製品店が集まる所謂オタク文化の中心地だ。
自宅からは電車一本で行ける上に日用品からマニアックな物まで一通り揃うので、重宝している。
俺達は暇つぶしのウインドウショッピングのついでに感情エネルギー回収の対象になる人を探して人の多く集まるこの場所に来ていた。
先ずはショッピングモールの中に出店しているアルマジロに来ていた。アルマジロはあまりファッションに興味のない俺が唯一贔屓しているブランドショップだ。ジョージ・アルマジロによって設立されたこのブランドの製品は全てがシンプルでありながらエレガントなデザインで安くはないが、ついつい買ってしまう。
今日も黒ベースで青のアクセントが入ったサマージャケットを一目惚れで買ってしまった。
買い物の後、外に出て空を見上げるとSu-77が穏やかに空を流れていた。
「平和だなぁ……帰るか」
ふと、独り言をつぶやく。
「平和だなぁ。じゃ、ないですよ!!試験ですよ!!しけん!!」
平和は長く続かない。全人類が平和を望んでも様々な理由で大なり小なり闘争は起こる。
そして、俺の平和は悪魔によって奪われたのだ。
「感情エネルギーを回収できる人間って言っても、実際には誰でも良いわけじゃないんだろ? 具体的に、どんな人を探せば良いんだ?」
感情エネルギーは誰からでも回収できるわけではなく、増幅可能な対象の努力、又は快楽の感情を増幅させることで爆発的に感情が増幅することでキャパシティを超えてその人から漏れ出すエネルギーを回収するそうだ。そのため、感情が増幅可能な状態である対象人物を探すところから始めなければならない。
「そうですねえ。何か、一つの目的に対して熱心に努力している人や、強い快楽を感じる事が可能な状況にいる人でしょうか」
「後者は無理だな」
カナンの説明を受けて、即答する。
後者は言い換えれば性欲や強い依存性を持つ快感を得る物、或いは長期的な目標を達成する事等が必要条件となる。どちらにせよ、第三者が他者に快感を与えるのは難しい。
一方で努力のエネルギーは現在進行系で努力をしている人から得ることができるようだ。もしかしたら努力のエネルギーを回収すると共に、その努力の目標を達成することで同時に快楽のエネルギーも得ることができるかもしれない。
「今努力している人か。ん? あれは……」
中央広場で多くの人が一人の女性に集まっている様子が目に入る。
集まっている多くの人に丁寧に対応している彼女は同じ大学の生徒だ。
「よお。速水。何してるんだ」
彼女の名前は速水唯愛。活発な性格でコスプレが趣味の天文学を専攻している生徒だ。自分の趣味を公言しており、大学内にも彼女の隠れファンは多いと聞く。
「あっ、鈴木!!見てみて!!新しいコスプレ!!」
彼女は新衣装を自慢気に見せてくる。彼女は嬉しそうで、褒め言葉プリーズと言わんばかりの表情だ。
「おー。なんのキャラかは分からんが、似合ってるぞ」
正直な感想を言った。俺自身アニメやゲームが好きで多くの作品を知っているが、今日の速水のコスプレは知らないキャラクターのものだった。
「でしょー?赤の下剋上のユイだよ!!オタク仲間なんだからちゃんと知っててよねー!!」
「あー。赤の下剋上か。見てなかったんだよな―あれ。調べてみよ」
スマホを使い赤の下剋上のユイを調べてみた。確かに良く再現されている。速水自身が結構な美人ということもあり、現実にいるとオリジナルのイラストよりも目を引くかもしれない。
ついでに、速水のSNSを見てみた。既に今日のコスプレについて投稿しており、時間や場所も告知されていた。
彼女のSNSを見ていると少し気になることがあった。コスプレの世界ではそこそこ有名らしく、彼女のフォロワーはかなり多い。そのため今日の投稿にも多くのリプライが寄せられているのだが、彼女は自身に寄せられるリプライに対して一切の反応をしていない。
それだけではなく、過去の投稿や彼女に対して投稿されているメッセージに対しても一切の返信をしていない。彼女のSNSは彼女の一方的な情報発信を貫いていた。
現実では、自身に集まるすべての人に対して丁寧に対応している彼女がネットでは一切のコミュニケーションを取ろうとしないことに疑問に思い、聞いてみた。
「SNSのコメントには返信してないのか?」
「あー。それね」
彼女は素っ気なく答えた。
「現実で合う人とは誰とでも話すよ。でも、私にとってネットはただの数字なんだ。でもね、私にとってはそのただの数字を増やすことが楽しいんだ。コミュニケーションとかそういうの無しで私の魅力だけで伸ばす数字として見るのが好きなの」
彼女はSNSのフォロワーはただの数字だといった。そして彼女はその数字を伸ばす事にこそ意義を見出していた。彼女が天文学を学んでいるからだろうか?彼女は大きな数字が好きらしい。そして、数字がただの数字として機能することに魅力を感じるようだ。
「へー。そういうもんか。ま、がんばれよ」
「うん。ありがとー」
軽い挨拶をしてその場を後にした。
少し歩いたところで、カナンが言った。
「彼女、回収対象者ですよ!!」
「速水が?でも、どうやって感情を増幅させるんだ?SNSの数字を増やすなんて俺には出来ないぞ」
「うーん。悪魔センサーの直感なんで、私達で解決可能な状況の人物のはずなんですけどー」
「なんだそれは。センサーなのか直感なのかどっちかにしろ」
「と、とにかく!!彼女は今の私達で感情を増幅して回収できるはずなんですー!!」
悪魔がそういうのだから、そうなのだろう。しかし、どうすれば?
どのみち、今の彼女は多くの人に囲まれている。今長い話をすることは不可能だろう。
兎にも角にも、対象者を無事発見できた俺達は、スターバーニングスのストロベリーフリーザーを買ってから帰宅した。
次の日、俺は大学で講義の後、速水と合う約束をしていた。
大学の近くにあるソイゾリャーというファミレスに二人で入り俺はモッツァレラチーズスティックを、彼女はパンケーキを、そしてドリンクバーを二人分注文した。
「速水ってさ、SNSのフォロワーを増やすためにコスプレやってるの?」
単刀直入に聞いてみる。
「いきなりどうしたの?違うよ。コスプレはもともとやってて、SNSはなんとなくで始めたの」
「じゃあ、SNSのフォロワー数を増やすのが目下最優先の目標ってわけじゃないんだ?」
「んー。そうだね。でも、フォロワー数が増えるのはうれしいよ?だから鈴木もフォローしてよ」
俺は速水のアカウントをフォローしていない。というより、俺はそのSNSのアカウントを持っていない。
情報学部に属する生徒とは、往々にして機械や技術に長けていながら、意外と大衆受けするアプリケーションには疎いものなのだ。或いは、俺が現代のコミュニケーションツールを活用できていないだけかもしれない。
「あー。俺そのSNSやってないんだよなー。わるいな」
「悪いと思うなら、今作ってよ―!!」
彼女は一歩も退かずに、俺にフォローすることを促してくる。
「えー、めんどくさ」
素直な気持ちから、一蹴した。
「えー、なんでよー。いいじゃんいいじゃん!!」
彼女はテーブルに身を乗り出し俺の方を両手でつかみ前後に揺さぶる。状況が膠着したせいか、彼女は妙に俺がアカウントを作りフォローすることに拘っているようだ。
そして、彼女の揺さぶりの力が徐々に強くなっていき、ついに彼女は自身のバランスを崩して、俺の方に大きく倒れてきた。
「お、おい」
彼女を制止すると同時に、手を前に出し彼女が倒れるのを支えようとした。その瞬間。
ゆぴっ。
彼女が持つ柔らかい衛星に手が触れてしまった。
その瞬間、奇妙な感覚に囚われる。何かがおかしい。彼女の力がピタリと止まり、彼女の体は倒れるでも、戻るでもなく、その場に静止していた。
「な、何だ?」
「気をつけてください!!来ます!!」
カナンがそう言うと、どこからか銃の様な物を取り出した。
止まっているのは速水だけではない。俺とカナン以外の全てが止まっている。それは人だけではない。物も、コップについている水滴も、時計の針も、全てが静止している。
「どうなってるんだ?!」
俺がカナンに聞くと、感情を増幅させる事ができる時に悪魔が付近の空間を文字通り静止させて、対象人物の感情を強制的に外部に排出させラバーガンと呼ばれる銃の様な物で感情エネルギー弾を撃ち込むことで、強制的に感情を増幅させ、本人に還元することで感情のキャパシティをオーバーさせ余剰エネルギーを回収するらしい。
しかし、本人の感情には防衛本能が備わっていて、抵抗を試みるとのことだ。本来人間はこの静止された世界を認識することは出来ないが、悪魔と契約状態にある人間は認識、行動することが可能なのだという。それと同時に、対象者の感情の抵抗によって被害を受けることもあるらしい。
「ここからは私の仕事です!!ガイア様は下がっててください!!」
「へ?ガイア?」
俺は素っ頓狂な顔をしながらも、席から立ち上がりカナンの後ろへと避難した。
そして、カナンは速水から出た感情が形を変えた者にラバーガンを向けた。
カナンは華麗な身のこなしで感情の獣の攻撃を避けながらエネルギー弾を撃ち込んでいく。二分間程の攻防を繰り返すと、リビドーは攻撃の手を止め、ピンク色に光り始めた。
「ガイア様、終わりました。これからリビドーを速水さんに戻します。後はガイア様が過充電された感情を爆発させてください」
感情を爆発させる。恐らく、俺がアカウントを作成して速水をフォローすれば良いのだろう。
「わ、わかった」
そう答えて、席に戻り、世界が静止した瞬間と同じ姿勢を取った。
頭では理解していても明らかに普通では出来ない出来事に緊張を隠せない。
しかし、俺の心の準備を待つ間もなくカナンは世界の静止を解いた。
過充電され眩しく光るリビドーが速水の体に戻る。
そして、世界は再び動き始めた。
ゆぴっ。
「あっ……」
小さく呟くと、速水は顔を赤らめながら慌てて体を起こし、席に座る。
「あ、こ、これは、その」
制止された世界を経験した緊張と速水の胸を触ってしまった気まずさで、上手くしゃべることが出来ない。
「だ、だ、だ、大丈夫!!これは、事故だよ!!事故!!」
速水が必死にフォローしてくれる。失礼な事をしたのはこっちなのに、彼女は俺を全く攻めようとしない。
「あ、そ、そうだ、フォフォフォ、フォロー。するよ!!」
上手く言葉をつなげることが出来ないまま、慌ててスマホを手に取りSNSのアカウントを作り、彼女のアカウントをフォローしようとした。
しかし、手の震えが酷く上手く操作することが出来ない。
そして、あまりの震えの強さに、スマホを落としそうになってしまった。
「あっ!!」
速水がとっさに俺の手を取り、スマホが落ちるのを阻止した。
俺達はお互いに一言も発しないままお互いを見つめた。
それは何秒だったろうか、数秒?それとも数分?実際には、三秒満たない時間であったが、俺はそれを永遠のように感じていた。
落ち着きを取り戻した後、速水のアカウントをフォローした。
その瞬間、カナンが大興奮しながら一人で小さな瓶のような物を振り回している。
俺以外の人には見えていないが、速水から溢れ出た感情エネルギーを集めているようだ。
興奮と無事に試験を終了した安堵感から少しカッコつけたくなった。でも恥ずかしかったので
「……王手」
誰にも聞こえない小さな声で、ひとりつぶやいた。
ちょっとしたヒーロー気取りだ。少しぐらい良いだろう。
良いだろう?
その後、他愛もない会話をしながら、お互いに注文したものを食べ終え、解散した。
「そういえば、ガイア様ってなんだったんだ?」
カナンと二人きりになり、聞いてみた。
「大地さんのおかげで私は最終試験を突破することができました。感謝と尊敬の意をこめてこれからはガイア様と呼ばせてください!!」
どうやら、俺の名前が大地なので、ガイア様らしい。
……待てよ?
「これからはってなんだ?俺とお前のパートナー関係はこれで終わりじゃないのか?」
「いえいえ!!これからは私が仕事をする間ずーっとパートナーですよ!!それに未だ、私の力を貸していないですし!!あっ、それと、今後は正式なパートナーとして認められるので寝泊まりも一緒ですー!!これからよろしくおねがいします!!」
満面の笑みでとんでもないことを言ってきた。
これからずっと一緒だと?
「そんな馬鹿なあああああああああ!!」
俺の魂の叫びが空に散っていった。
それと同時に、Amanzaの時報が作動した。
「午後六時をお知らせします。」
俺は自分の叫び声にかき消されたその音声に気づくことはなかった。
スマホの時計は午後五時五十八分と表示されていた。
ご覧いただき、ありがとうございました。