50 2対1のPvP
「マリー…?もしかして君『妖精の召喚士 マリー』か?」
「…ああ。いつの間にかそんな風に呼ばれてるな」
「マリーちゃん、カッコいい…」
アリアが憧れの眼差しで俺を見る。
「ふふふ…、そうかそうか」
不気味に笑いながらケースは何か納得している。
「良いよ、君の挑戦を受けるよ。そのかわり僕がPvPのルールを決めさせてもらう」
「ああ…でも先に言っておくが召喚石を賭けるのはナシだからな」
「ふっ、そんなの要らないよ。そんな物集めてるのは性格が歪んでいる奴だよ」
「……」
頭の中でピコーンと音が鳴ったのでメニューを開くと、『ケース』からPvPを申し込まれた。
「そうだな…僕対マリーちゃんとアリアちゃんの1対2で勝負するっていうのはどうかな?」
「急にどうした?優しくしてもお前を許すつもりはないぞ」
「違う違う、そのかわり僕は『HP』と『MP』を倍で戦わせてもらうってのはどう?」
「…なるほどな。良いぜ」
ケースがメニューを操作する。
「マリーちゃんとアリアちゃんは何を賭けるのかな?」
「先に言っておくが、お前は持ち物全てと所持金を全て賭けろ!アリアを騙していたお前には1からやり直すくらいの罰を受けてもらう!」
「ふふふ!それなら君達はそれ相応の物を賭けてもらわなくちゃいけないけど、君達は何を賭けるのかな?」
「お前の自由に決めろ」
「っふ!…ふふ!そうかい!そうかい!」
ケースはまたも不気味に笑う。
「それなら1ヶ月間、僕のパーティーに入って僕の言う通りに働いてもらおうかな!」
「っ!」
気持ちの悪い要求だが仕方ない。
「分かった。だけど俺だけにしてくれ」
「マリーちゃん!私も…私も一緒に!」
「アリア…」
俺が勝手に決めていた横で密かにアリアも覚悟を決めていたようだ。
「決まったね!僕は賭けれる物全てと君達は1ヶ月間僕のパーティーで働く!」
俺のメニュー画面のルールがケースが言ったのに変更された。
「それと君たちは2人、どちらか死亡したら負けにしようか」
「……」
アリアをチラッと見る。ここで断ったらアリアの事を足手まといと言ってるようなものだ。
「分かった。それで良い」
「それと本来は負けたらマイルームに戻るけど、君達が逃げないとも限らないし負けてもマイルームには戻らず、この場所に戻ることにするね」
「良いぜ!もう勝った気でいるようだが、俺たちは負けるつもりはない!
「よし、決まりだ!最後にルールの確認をしてOKを押したらPvPが始まるよ」
ザッと目を通すと観客が『有り』になっていたので『無し』に変更しておく。
「俺はこれで良い」
「観客無しか、寂しいね。まあ良いか、それじゃあ始めるよ!!」
ケースが叫ぶと目の前が歪み場所がコロッセオに変わる。
「マリーちゃん!こ、ここ、ここどこ!!急に場所が変わったよ!」
アリアが慌てて辺りを見回している。PvPで場所が変わるのを体験するのは初めてなのか?
「ボーとしてて良いのかな!!『爆火炎弾!』」
30センチほどの炎の球が飛んでくる。
「ふっ、しょうもない魔法だな」
「マリーちゃん逃げて!あの火炎弾、爆発するよ!」
「なに!!」
俺とアリアは全速力で走ると俺たちがいた場所に火炎弾が当たり爆発が起きる。
「きゃ!!」
「うわ!」
爆発して黒くなった場所を観察する…爆発する規模は小さいようだ。
召喚したいがさっきの爆発魔法を使われたら1撃で召喚獣が消えるかもしれない。
「でもするしかない『召喚!』スピ…」
「良いのかな?アリアちゃんがいるのに?」
「っ!」
そうだ…。アリアが一言でも話しかけたら俺の召喚獣は麻痺になる。
「ううぅ…ごめんなさい…」
アリアが申し訳なさそうに俺の後ろで俯く。
「大丈夫だ!」
俺は心配させまいとアリアに笑ってやる。
「マリーちゃん…」
「隙あり!『爆火炎弾!』」
「危ないアリア!!」
アリアをドン!と強く押し遠くに突き飛ばし俺も横に飛ぶ。
「ぐ…」
火炎弾は避けれたが爆発がギリギリ左足に当たってしまいダメージが入る。
「マリーちゃん!回復するね!」
アリアが駆け寄って来る。
「『ヒール』」
地面に大きな魔法陣が光る。
よく見ればケースの足元まで魔法陣が広がっており敵のケースまで回復しているようだ。
「助かったよ、アリアちゃ〜ん」
「どうなってんだ…?」
「言っただろ?アリアちゃんは光魔法…つまり回復魔法をロクに使えないんだよ!範囲指定が馬鹿みたいにデカくて敵味方関係なく回復してしまうんだよ!ハッハッハッハッハ!!」
ケースは馬鹿にしたように大声でケタケタ笑う。
「ごめんなさい、マリーちゃん…」
また申し訳なさそうに俯いている。
「アリア、俺を回復するためだったんだ気にすんな、それに…」
アリアの頭に手を置く。
「優しいじゃないかよ、敵も味方も回復するなんてさ」
アリアはボーッと俺を見つめている。
「油断大敵!!『追尾爆火炎弾!』」
「追尾だと!」
「この火炎弾は1分の間、誰かに当たるまで追いかけ続ける!さあ逃げろ!逃げろ!!」
「アリア逃げるぞ!」
「うん!」
俺とアリアは逃げる。その後ろに少し早い速度で追いかけてくる。
「くそ!ダメだ追いつかれる!すまない!『召喚!』モグ郎!」
追ってくる火炎弾の少し前にモグ郎を召喚する。
「あっ、モグラさんだ!」
「モグ?モグ!!」
「ん?」
バン!!っと目の前でモグ郎に火炎弾が当たり爆発が起きる。
「……」
「酷いことするね〜マリーちゃん」
「なるほどな、お前の嘘に俺まで騙されるところだったぜ!」
「…?どういうことマリーちゃん?」
俺は先ほどのアリアが喋った瞬間を思い出す。
「アリアの試練ジョブはPvP中は発動しない!」
「……」
「そりゃあ、そうだよな。PvP中に発動したんじゃ、第2の街の『石』も手に入らないしPvP中アリアが不利なだけだ。嘘が得意なようだなケース」
「もうバレるなんてね。アリアちゃんよりは頭が良いようだ。でも召喚できるようになっても僕には勝てないけどね!」
あいつのあの自信はなんだ?何かまだあるのか?
「マリーちゃん。ケースさんは『爆炎の加護』っていう加護を貰ってて、爆炎魔法のを使う時HPを犠牲にした分だけ爆炎魔法の攻撃力を上げることができるって前にケースさんが言ってたよ」
「加護か…なるほどな」
「ケースさんは魔法攻撃しか使わないから魔法さえ避けてたら大丈夫だよ!」
アリアがヒソヒソと俺の耳元で囁いてくる。
「他にEXスキルか何か貰ってるのか?」
「ごめんなさい、私はそれしか聞いてたことないから他にあるかは…」
「ありがとな、何か勝つ方法を考えてみるよ」
「うん!」
ケースは魔法を主体にしているのか…なるほど。だから加護によるHPを還元してパワーを上げるためと魔法を連発する為にHPとMPを倍にしたのか。
「作戦会議は終わったかな?僕はもうこれ以上待てないから攻撃するよ!『追尾爆火炎弾!』」
ケースが追いかけてくる火炎弾を放つ。ケースのHPを見ると、たしかに少し減っていた。
「あんなしょうもない火炎弾くらい、お前なら大丈夫なはずだ!『召喚!』ナイト!」
俺の後ろにナイトを召喚する。
「ナイト、鎧を飛ばして火炎弾を防いでくれ!」
「ワウ!」
ナイトが俺の前に飛び出し鎧を操り1つのパーツを火炎弾にぶつけ爆発させる。
「なんだ!見たこともない召喚獣だと!」
「俺の騎士だぜ」
「ぐ、ぐうう…」
これで飛んでくる火炎弾は全てナイトの鎧で防げる。
「勝負あったな」
「それはどうかな?君達のような子どもに僕の最強魔法を使うことになるなんてね!」
ケースの目の前に3メートル程の魔法陣が現れる。
「予言しよう!君達は僕の最強の魔法によって負ける!」
「もしかして…!!逃げて!爆発するおっきな火のドラゴンが出るよ!!」
「ケースの奥の手か…」
「どうしよう…」
俺とアリアは呆然と立ち尽くす。考えるが対抗策が全く浮かばない。
「どうした!逃げないのかな!!逃げれないよね!!逃げても無駄だけどね!!フィールド全体が爆炎が包み込む!これで僕の勝ちだ!!最強の爆炎魔法奥義!!『爆火炎龍弾!!』」
「くっ!」
魔法陣から大きな炎の龍が飛び出す。
「ダ、ダメだ!終わった…」
「ワウ!!」
あまりの大きさに避けるのを諦めた時、ナイトの鎧が俺とアリアをドーム状に包み込む。
「ナイト?」
「ワウ」
鎧を全て脱ぎ、見た目がナイトウルフになったナイトが鎧のドームの隙間から見える。
「まさか…!よせ!ナイト!!」
「ガウ!」
ナイトは炎の龍に向かって走って行く。先程の火炎弾も触れると爆発した、それなら誰かが犠牲になって遠くで触れて爆発させれば助かる。だからナイトは…。
「ありがとう、ナイト」
目の前でナイトと炎の龍がぶつかり大爆発が起きる。
「うわっ!!」
「きゃ!」
ドームの中のアリアと俺にも熱風が伝わる。
「ナイト…」
ナイトが消滅したせいか鎧の耐久値を超えたからか、俺たちを守っていた鎧のドームが黒くなりボロボロと崩れる。
「馬鹿な!!僕の最強魔法が!!あんなオオカミごときに!!ありえない!!」
「ケース!俺も予言してやる…俺が装備を変えた時、お前は負ける!ナイトの犠牲は絶対に無駄にはしない!」