40 ミツハとアカリのクエスト『後編』
「ありがとうでちゅー!ミツハー!」
アカリはそう言いながら私の元に全速力で走って来る。
頭の中で手を差し出されて起き上がらせてくれたり、横に座ってパーティーに入りたい話しでもするのかと妄想する。
「それじゃあ、お願いするでちゅー!」
僕の妄想とは違い、横座りしている僕の太腿の上にスライディングしながら頭を乗せてくる。
「なっ!何をしてるんだ!!」
「戦闘を始める前に言っていたお願いでちゅ!私を褒めるでちゅ!早くするでちゅ!」
「なんでそんな事?!」
「私のジョブの戦神童子は女の子に褒められるとレベルが上がりやすくなるでちゅ!早くするでちゅ!」
意味が分からなかったがアカリの圧が凄いので何か言い返そうとしたが言い返せなかった。
「どうすれば…」
「私を褒めれば良いだけでちゅ」
今か今かとキラキラした目でアカリが見つめてくる。もう諦めるか…。
「あ、あ…アカリ凄かったー!あんなに強そうなビッグキルマンティ…」
「違うでちゅ、もっと赤ちゃんに言うよに褒めるでちゅ」
アカリは物凄い冷静な顔で見つめ、やり直しを要求してきた。
「う…う〜、アカリちゃん凄かったでちゅね〜!!あんな大きな剣持てて力持ちさんでちゅね〜!!」
「お腹も!お腹も撫でるでちゅ!」
僕はもう考えるのをやめ、赤ちゃんを褒めれるように言い、アカリのお腹を優しく撫でてやる。
「ア、アカリちゃんはあんなに強そうなカマキリさんを倒せて偉いでちゅね〜!!」
「バブ〜」
こうして僕の何か大切なモノが失った気がした。
「ありがとう、ミツハ。おかげで戦神童子のレベルが上がったわ!」
「そ、そうですか…」
アカリはキラキラした顔でお礼を言ってくる。僕は恥ずかしくて顔がまだ熱い。
「それじゃあ、帰りましょう。マリー君がPvPを終わらせて待ってるかも」
アカリは立ち上がり帰ろうとする。でも僕はまだアカリに謝らないといけないことがある。
立ち上がり、勇気を振り絞る。
「あの…最初にマリーはパーティーに入れてくれないって言ったのウソなんだ…本当にごめん!」
僕は深々と頭を下げて謝る。
「…良いわ、気にしてないし。それに本当に入れてくれないかもしれないでしょ?」
「そんなこと、そんなこと絶対にない!もし入れてくれなかったら、僕からもアカリのパーティー入団、マリーに頼んでみるよ!」
「ありがとう…このパーティーに入れて良かった…」
「え?なんか言った?」
「うんうん、なんでもないわ」
アカリが歩いて行くので、僕もアカリに着いて行く。
「そうだ!『水々しいリンゴ』の他にも果物があるから探してみようよ!」
「マリーと合流してからで良いでしょ?」
「いっぱい見つけてマリーを驚かせてあげたいんだ!」
「ふふふ、そうね。それじゃあ帰り道で探しましょうか」
こう見るとアカリはお姉さんってかんじで、先ほどの変人っぷりが嘘のようだ。
帰り道を歩いていると右手の森の奥にブドウが生っているのが見えた。
「アカリ!ブドウだ!アレをマリーに取ってやろう!」
僕は急いで走って行く。周りにはモンスターも居らず、ブドウは低いところに生っているのでプチプチと取っていく。
アカリはゆっくりと歩きながらこちらに近付いて来る。
「これだけあればマリーも喜んでくれるかな?」
アイテムボックスを開き、数を確認してマリーの喜ぶ顔を想像する。
「ミツハ!危ない!」
アカリが走って来て、僕を押す。
「きゃあ!」
押された僕は倒れてしまい、僕が居た場所にはバチバチと雷が通り過ぎていった。
「チッ、外したか…」
「え…?」
雷が飛んできた方に、金髪の高校生くらいのプレイヤーが三又になった槍を前に突き出していた。
「ミツハ、逃げて!コイツ、PKよ」
「……」
PKを見ると苛立ちながら僕たちを睨んでいた。
「…もしかしてココの果物を取ったことを怒っているなら謝るけど、そうじゃなさそうね」
「当たり前だ。ちょうどログインしたら目の前に弱そうなカモがいたから攻撃したんだよ」
PKはニヤニヤ笑いながら、槍を構える。
「『鑑定』……そんな…!」
鑑定?もしかしてアカリは鑑定士のジョブなのか?
「ミツハ、私が何とかして気を引いてる間に逃げて…」
「鑑定したのか?そんなにアイツは強いのか?」
「ええ…攻撃力と防御力は並程度だけど、スピード…AGIが4000、勝てるスピードじゃないわ…」
「4000!!」
思わず声が大きくなってしまった。
「へぇ…どっちか鑑定士のジョブか?だったら…」
目の前に居たPKが消えた。
「俺に勝てないのも分かったよなぁ?」
「え!!」
後ろを見ればPKが後ろに立っていた。
「『電撃槍』」
三又の槍がバチバチと電気を帯びていく。
「まず1人目!」
その槍は僕に振り下ろされようとしている。
「させないでちゅ!」
アカリが剣で槍を受け止める。
「ああぁ?でもその受け方はダメだな」
「きゃああ!」
槍からアカリの剣を電気が伝い感電する。
「『電撃波』」
槍から雷が出て、僕とアカリは吹き飛ぶ。
最初に僕を不意打ちしたスキルだ。
「く…ううう」
体が痺れる…立とうとして痺れて座ってしまう。HPバーを見れば半分ほど減っていた。
同じくダメージで立てないアカリのHPを見れば1/3減っている。
「くっ!ゴメン、アカリ。僕が寄り道なんてしなかったら!」
「…気にしないで、どっちみちアイツに見つかってたと思うし、見つかってたのが早いか遅いかの違いよ」
「アカリ…」
「何喋ってんだ!消えろ!『|雷撃超波《らいげきちょうは!』」
槍が光り雷が出る。
「ミツハ!」
アカリが私の前に飛び出し、雷を受ける。
「か…はっ!」
「アカリ!」
体から黒い煙を出しながら、アカリは後ろに倒れる。
アカリのHPは微かにしか残っていなかった。
「さっきのは俺の中でそれなりに強い魔法だったんだがな。まさか、まだ生きてるんてな」
何が楽しいのか、面白そうにPKはアカリを見る。
「ミツハ…逃げて…」
「良いこと教えてやるよ。俺の持っているスキル『加速』と『電気鎧を使えば、俺のAGIは9000まで上げることが出来る。つまり、お前らがどう逃げようとも無駄なんだよ!」
「そんな…」
アカネ戦でマリーが装備していた『ピョンピョンアーマー』、それを装備していたマリーより速いってコト…?
「アカリ!早く!回復薬を…!」
「させるかよ!『『電撃波!』」
ダメだ、終わった…。ゴメン、マリー。槍の先端が光り電撃が向かってくる。
「ナイト!!ミツハ達の前に盾だ!」
「ワウ!!」
僕とアカリの前に黒い盾が飛んできて、電撃から守ってくれた。
「え?」
盾が飛んで来た方向を見れば、マリーがこちらに走って来ていた。
「大丈夫か!ミツハ!アカリ!」
「我が友!!!」
「マリー?!」
目の前に長い銀髪を煌めかせながら回復薬を差し出してくる。
「お前ら、コレ飲め!」
正直、特回復薬は普通の回復薬より5倍くらい苦いので飲みたくない。
「か、回復薬…」
「……またか」
「おい!死にたくないだろ?!早く飲め!」
アカリは本日3本目の回復薬を飲むことになる。
僕も我慢して1本飲む。苦い!ゴーヤをミキサーにかけて飲んでいるような味だ。
HPは半分しか減っていないので、1本だけ飲んでもう1本はアイテムボックスにしまった。
「なんで、こんな目に!せっかくアカリと頑張って揃えたのに!」
飲んだ後、無性に悔しくなってきた。アカリとあれだけ頑張って揃えて、マリーの為にブドウを取っていただけなのに。
「ミツハ…」
マリーは悲しそうな目で僕を見る。飲み終わったアカリは優しく肩に手を置いてくれた。
悔しいのはアカリも一緒だ、肩から伝わるアカリの手の暖かさに安心し気分が落ち着いてきた。
「……私があの時早く帰っておけば……」
それでも、やはり悔しい。
それにマリーが来てくれたのは嬉しいけど、PKに果たして勝てるのだろうか…。