31・暗黒騎士の実力
俺は暗黒騎士を連れてアクラータの街の入り口に向かった。
入り口の門から入ってすぐの所にある小さな橋の所に黒髪のサイドテールの女の子を見つける。
「言い忘れてたけど、少し厨二で痛いけど温かい目と温かい接し方をしてやってくれ」
「りょーかい!」
歩いて行くとミツハと目が合う。
「ミツハ!ゴメン、待たせた!」
「気にしないでくれ、我が友よ!僕も今来たところだ。それより頼みたい事とは?」
いつも通りの片手を顔の前にやるポーズをする。
「それはな…」
俺の後ろにいた暗黒騎士がミツハの前に出る。
「え?だれ?ぼ、僕をどうする気だ!」
「どうもしないよ…マ、暗黒騎士、早く用件を言ってやってくれ」
「ああ。初めまして、俺は暗黒騎士っていう少し有名なプレイヤーなんだけど知ってるかな?」
「し、知らない」
おお!マリアがしっかりと暗黒騎士になりきっている。あと前作をプレイしていない人からは暗黒騎士は認知度が低いな。
「そうか、知らないか。別に知らなくても良いんだが、俺から頼みがあるんだが良いかな?」
「内容によるけど…」
「俺と一緒にガブリとゴブリっていうNPCと2対2のPvPを一緒にしてほしい」
「ガブリとゴブリ…」
ミツハが名前を聞いて反応する。
「もしかしてミツハ、ミッションクエストで出たのか?」
「うん…僕も出てて、マリーと一緒にやろうと思ってたんだけど…」
「そうか…すまないが、暗黒騎士と一緒にやってくれないか?」
「……」
やはり知らない人と組むのは悩んでいるようだ。超高校級の人見知りのミツハはどうする…ミツハってたぶん高校生じゃないよな。
「…分かった。マリーの友達みたいだし、暗黒騎士さんとするよ」
「決まりだな。よろしく頼むよ、ミツハさん」
「ミツハで良いよ、僕も呼び捨てで呼ばさしてもらうからね」
「ああ、呼び方なんてどうでもいい。それよりどうする?もう今から行くか?」
「うん、早く終わらせてマリーと先に進みたいからね」
「それじゃあ行くか」
暗黒騎士がそう言い歩き出す。俺たちも暗黒騎士に着いて歩き出す。場所知ってんのかな?
「なあ、エリー。俺ってミツハ達が戦うところ見れるのか?」
「うん、パーティーメンバーは観戦できるから大丈夫だよ」
「良かった。俺だけ1人、路地裏で待つ事になるのかと思ったよ」
見れるのか…記憶を失くす前の俺が使っていた暗黒騎士の戦いを。もしかしたら、俺の記憶が戻るヒントになるかも知れない。
それに今の暗黒騎士の実力を知ってもおきたい。
「暗黒騎士、期待してるよ」
「…しっかりと見ていてくれ」
「ちょ、ちょっと、マリー!もしかして、暗黒騎士って新しいパーティーの仲間になるんじゃないだろうな!?」
俺と暗黒騎士が2人で話し終えると、ミツハが小声で話しかけてくる。
「安心しろ、暗黒騎士はソロでランキング1位を目指しているプレイヤーだから、俺たちのパーティーには入らないよ」
「そ、そうか。僕が居ない間に、もう新しい仲間を見つけてきたのかと思ったよ」
「大丈夫だ、暗黒騎士は仲間にはならないから」
「?なんだか気になる言い方だね」
そんな話をしながら兄弟が居る路地裏に到着する。
先に暗黒騎士が入って行き、続いてミツハ、俺と入っていく。
初めて会った時と同じで箱の上に兄弟が座っていた。
「お前たちとPvPがしたいんだが良いか?」
「…なるほど。中々の強者の様だな。是非手合わせ願おう」
「ふん、なるほど。僕の様な強者を求める獣か…面白い」
「アンちゃん!ホンキだね!」
「ゴブリ、この男…強者だ。本気になるのも当然だ」
兄貴のガブリのセリフが違う。たしかに暗黒騎士は強そうだが、プレイヤーの見た目でセリフ変えるのか?
あと、ミツハが話に入ろうとしたが無視されたのは黙っていよう。
「始めるぞ!」
ガブリが叫ぶと目の前が歪み、場所が以前戦った暗い森になる。
よく見れば俺とエリーの周りには3メートル四方のガラスのようなモノに守られていた。一応、観客席なのだろう。
あ!そういえば、この2人にガブリとゴブリの情報を言うの忘れてた…。
「ミツハ!暗黒騎士!コイツらのジョブは!」
「大丈夫だ、マリー。どうせ弱い」
情報を話そうとしたら暗黒騎士に遮られる。マリア、どんだけ自身があるんだ?これで負けたら恥ずかしいぞ…。
「ほ〜言うじゃねえか。面白い」
これを聞いていたガブリが少しキレている。
「あ、暗黒騎士!良いのか…?聞いとかなくて?!」
「ああ…それよりミツハ、君は少し離れたところで見学しておいてもらって良いかな?俺1人で戦う」
「なに!?僕も一緒に戦うぞ!」
「……分かった。俺はガブリを引き受ける、ミツハはゴブリの方を頼む。その代わり俺がガブリを倒して、まだゴブリを倒せていなかったら俺に変われ」
「…分かった」
遠くて何の話をしているか分からないが、2人の作戦会議は終わった様だ。
「話は終わったか?」
「ああ、俺たちはいつでもいいぜ」
「僕もだ」
「なら、始めるぜ!」
ガブリが走って暗黒騎士に向かって行く。
今回は接近戦をしようとしているのでガブリは格闘家のようだ。
「マリー、見せてやるよ。暗黒騎士のチカラを!『暗黒龍化!30%!!』
EXスキルを使った瞬間、暗黒騎士の姿が変わっていく。
暗黒騎士の仮面から短いが角が生え、口元も少し尖っていき蜥蜴の様な口が作られた。手と足は倍ほど太くなり黒く大きな龍の爪が生える。お尻にも黒い尻尾が生え、暗黒騎士の大きさも2メートル程にデカくなる。
「くらえ!『乱れ正拳突き!!!』この複数に増えた拳からは逃げられん!」
「逃げる気なんてないけど?龍化スキル『暗黒龍爪!』
「ぐああああ…!!!」
スキルを使いながら向かって来たガブリの体に右手の爪が伸びて突き刺さる。
「じゃあね、龍化スキル『暗黒龍爪斬』
「がっ…!!」
爪を引き抜き、抜いた右手を勢いよく振り下ろす。
ガブリは振り下ろされた瞬間、一瞬、縦に4当分されパリーンと音を立て砕け散る。
「ミツハ、交代だ。あとは俺がやるから」
ミツハはその場から動いておらず、ゴブリだけ少し移動していただけだった。2人は先ほどの戦闘を見て呆然としていた。
「ほらほら、ボーとしてて良いの?」
「あ、ああ…よくも!!アンちゃんをーー!!!」
ゴブリが暗黒騎士に目掛けて突進して行く。
「『暗黒龍化!40%!!』」
暗黒騎士の体が少し大きくなり、尖った口が大きく開く。
「龍化スキル!『暗黒龍波!!」
口から大きな黒いビームが出る。
とんでもない威力で爆風が起き、フィールド全体が土煙が舞う。 ガラスのバリアによって、俺とエリーは被害がゼロだ。
「なんちゅう威力だ…。これがアカネを倒した技か。なるほどな…アカネに勝つわけだ」
ビームの威力を見て、誰に話すわけでもなく俺は独り言を言う。
土煙が晴れると地面はビームで抉れ、生きているとは思っていなかったがゴブリの姿はなかった。
「お!終わったみたいだな。ミツハ、お疲れさん」
「ペッペ…!口の中に砂が〜…」
多分2人の目の前にクエスト達成の文字が出てるんだろう。
目の前が歪み、路地裏に戻る。
「次に来るプレイヤーの為に早く退くか」
暗黒騎士はそう言い、路地裏の出口に歩いて行く。
俺とミツハも続いて歩く。
路地裏から出て少し歩いた所で暗黒騎士は止まる。
「ふ〜、終わった〜。どうだった?」
「何がだ?」
「マリーと同じ様に、ほぼ右手だけで倒したけど」
「!!」
思い返せば暗黒騎士は右手しか使っていない…。コイツ、俺の冗談で言った事を本当にやりやがった。
「いや、口から光線出したし、右手だけじゃなかっただろ?まあ俺からしたら、まだまだだなー」
「そうか〜厳しいな〜」
俺を冷たい目で見るエリーと目を合わせないようにする。
「そうだ2人にお礼しないと!」
「お礼?」
「2人って俺にもか?」
暗黒騎士はメニューを操作する動きをする。