第1章4話 [始まりの鐘と暗黒騎士]
「ここが『始まりの鐘』か…」
始まりの鐘に到着して暗黒騎士らしきキャラを探すが見当たらない。まだ来ていないようだ。
広間の中央にはカップルで鳴らせば幸せになるとか言われてるような鐘を何十倍も大きくしたサイズが吊られている。
「でけぇ〜…」
近くに行くと鐘のそばに石碑があるので暇つぶしに読んでみる。
【100年前、冒険者が魔王討伐前に鳴らしたとされる鐘。鐘の音は始まりを告げる。低確率で鳴らすことが出来る。鐘の音を聴いたプレイヤーは1時間、HPとMPに+100される】
低確率…そうだ!あの『妖精女王の加護』の効果の実験をしておこう。
鐘から出ている自分の体より太い紐を抱きつくように掴むと周りのプレイヤーがこちらを見てくる。子どもが鳴らせるわけないって思っているんだろう…でも俺には加護があるから鳴らせるはずだ。
紐を引っ張ると『ピポーン』と頭の中でクイズの時に押すボタンみたいな音がした。それと同時に重かった紐が発泡スチロールのように軽くなり簡単に動いた。
『カラーーンカラーーンカラーーンカラーーン』
「うるさっ!」
鐘が勢いよく鳴り響く。
「すげー鳴らした!」「マジかよ!この鐘が鳴っているところなんて初めて見た!」「本当に100増えてる」「嘘じゃなかったんだ」「俺試したけど鳴らせなかったのに…」
周りが一斉に盛り上がり始めている。人が集まってきたのでコソッと鐘から離れ、人気のない場所で未だに鳴っている鐘を見つめる。まだ勢いよく鳴っている鐘を見つめていると前に同じ光景を見た気がする…これは、もしかして俺の記憶?
黒い鎧を着た俺が鐘の紐を片手で掴み引っ張り簡単に鳴らした。鐘を鳴らすと周りにいたプレイヤーたちは驚き俺を讃えてくれた。その中を歩いて行き、俺がいる場所から始まりを告げる鐘を見ながら冒険の始まりに興奮したのを思い出す。
「思い出した…俺はこのゲームを本当にやっていたんだ!」
こんなくだらない記憶だけど思い出したことが嬉しくて少し泣けてくる。
「凄いね。また鳴らすなんて運ヤバすぎ」
後ろから突然声を掛けられ振り向くと漆黒の鎧を着た180センチほどの声的には男であろうキャラが立っていた。漆黒の鎧には紫色の唐草模様のような線が腕や胸部や脚に綺麗に入っている。そういえばさっき思い出した記憶で俺が着ていた鎧にそっくりだ。
「もしかして暗黒騎士…マリアか?」
「そうだよ。よく分かったね、ユーゴ」
記憶を思い出さなかったら多分気付かなかっただろうなと考えながら暗黒騎士の姿を観察する。
「どう?かっこいいでしょ?ユーゴの汗と努力のとキシリトールの結晶だよ」
「キシリトール?」
暗黒騎士を見れば思い出すような気がしたが先程のような記憶が戻るようなことはなかった。
「…そりゃあそうだよな」
「??それよりユーゴが始まりの鐘を鳴らすの2回目だって知ってた?」
「2回目?ああ…さっき思い出した、暗黒騎士の格好をした俺が冒険に出る前に鳴らした時のことか?」
「そうそう、前作で冒険前に鳴らしたのと合わせて2回目…って、え?!記憶戻ったの?」
ノリツッコミをしながら驚く。暗黒騎士の見た目からは想像できないコミカルな驚き方をする。
「いや、ここで鐘を鳴らしたことがあることしか思い出してない」
「良かった!…じゃなくて、凄いね!この調子ならあっという間に記憶戻りそうだね!」
「ああ、俺もこのゲームをしていればきっと戻ると確信したぜ!」
「それよりユーゴ!何のジョブにしたとか聞きたいけど…私たち目立つから場所変えよっか」
マリアに言われて周りを見ればジロジロと俺たちを見てくるプレイヤーが多い。黒い鎧を着た奴と美少女は目立つようだ。
「マイルームに行こっか、一度私とパーティー組んで」
マリアは空中で指を動かして何かし始めると、頭の中に『ピコーン』と音が聞こえた。
勝手にメニューが開き【暗黒騎士からパーティーに誘われました。加わりますか?〈YES〉〈NO〉】と表示される。暗黒騎士を見ると頷かれたので〈YES〉を選択する。
「それじゃあ、マイルームに行くから付いて来て」
マリアが歩き出すので俺は何も言わず付いて行くことにする。道中、マリアが使う暗黒騎士を見たプレイヤー達がヒソヒソと話している。
「暗黒騎士だ…」「初日にインしてないから辞めたって噂だったのに」「本物はカッコいい…」「どうせ中身はおっさんだろ」
プレイヤーから色々言われている。俺の使っていた暗黒騎士ってそんなに有名だったのか?
「着いたよ」
歩いて3分ほどで目的地に到着した場所は店か?少し上を見ると看板があり【宿屋 安心し亭】と書いてある。
「宿屋は自分とパーティーメンバーしか入れない『マイルーム』っていう部屋があるの。マイルームでなら聞かれたくない話も出来るでしょ」
そう言い、宿屋に入って行く。続けて入ろうとするとメニュー画面が表示される。
【暗黒騎士のマイルームに行きますか?〈YES〉〈NO〉】
〈YES〉を選択してドアを開けて入ると気がつけば部屋の中にいた。部屋は隅にベットが置いてあり、右を見ると大きめの棚があり真ん中には小さな机と椅子2つあるテーブル奥には小さな窓がある6畳ほどのシンプルな部屋だった。
「適当に座っていいよ」
言われて椅子に座る。目の前に暗黒騎士がベットに座る。
「私が目の前で違う動きしてるのって変なかんじだね。名前は私の名前に似たかんじにしたんだ」
「嫌だったか?」
「別にダサい名前とかじゃないし良いよ」
声的に笑ってるかんじはしているが仮面のせいで全く表情が分からない。
「それよりジョブ何にしたの?何か加護貰えた?」
「ジョブは召喚士と格闘家にした」
小さく「え?」と声が聞こえ数秒ほど間ができる。
「……しょ、召喚士ね!なるほど!召喚獣と一緒に戦うかんじね」
「あと覚醒ジョブってのとエクストラスキルと妖精女王の加護っていうのを貰ったんだけど」
「覚醒ジョブは知ってるよ。タイミングがきたら覚醒して珍しくて強いジョブが使えるようになるって噂だよね。エクストラスキルはどんなのだったの?…って聞いて良いのかな?手の内を晒すことになっちゃうけど…」
「別に良いよ。マリアは誰にも言わないだろうし」
マリアにEXスキルと加護について説明する。
「反則みたいな加護だね!」
説明し終わると暗黒騎士の仮面のせいで感情は分からないが、マリアは呆れたような羨ましがるような言い方をした。
「EXスキルの方は?」
「EXスキルの方はあんまり役に立たなさそう…かな」
「そうなのか?」
「だってどれだけ強くレベル上げても装備の数値のまま成長しないんでしょ?だからあんまりかな」
「たしかに…」
そう言われるとそうだよな。成長しないってな…。
「でもでも!加護は強いよね!さっきの始まりの鐘もこの加護のおかげで鳴らせたんでしょ?だったら凄いよ!」
「俺も加護は強いと思ったよ。確率に絶対に勝てるんだからさ」
「それだけじゃないよ!このゲームって確率が結構関わる魔法やスキルの効果が多いんだよ。例えば状態異常とかは『低確率で麻痺になる』とかだから簡単な話、ユーゴには状態異常の効果がほぼ効かないって事だよ」
「そうか…状態異常もか」
「あと錬金とかの生成系も確率が関わるから無双できるね」
確率に勝つか…もしかしてあの時のクイズのボタンみたいな音は確率の勝負に勝った音だったのかな?
「どんだけ運あるのユーゴ。でも他の人には絶っっっっ対に言ったらダメだよ!パーティーに無理矢理入れられたり羨ましがる人も多いし嫌がらせとかされるかもだから」
「わかってるよ」
暗黒騎士のマリアのどこにあるか分からない目を見つめ約束する。