24・ガブリとゴブリ戦『中編』
「え?…急にどうしたんだよ。冗談だろ、アカリ?」
「冗談ではない。このままじゃ負ける…それなら降参して、召喚獣を進化させてからもう一度挑んだ方が良い」
「…ふ、ふざけんな!勝手な事言いやがって!勝負はまだ決まってない!」
「いいや、決まってる!君は檻に閉じ込められて、召喚獣もボロボロだ。このままやっても勝てるわけがない!」
アカリは、やる気なくゴブリの攻撃を受け流しながら話す。
「くっ…」
アカリの言う通りかもしれない…でも本当に降参して良いのか。それで良いのか…。アカネに負けた時、俺はエリーと絶対に負けないって誓ったんじゃないのか…!
「キュイキュイ!」
「ガウ…」
スピカの拘束が解け自由になった。倒れていたナイトもフラフラになりながら起き上がる。
そうだ、まだスピカもナイトも諦めていない。
一応、勝つ作戦はある…だが今のナイトに出来るのか…。
ナイトを見つめると、俺の気持ちを察したのか吠え出す。
「ガウガウ!ガウ!」
「マリー、ナイトが…マリーの願いは絶対に守るって!」
「エリー、ナイトの言ってることが分かるのか?それと願いってなんだよ…」
「ガウ!ガウガウガウ!」
ナイトは何か必死に吠える。
「ナイトは…マリーに名前を貰った時の約束を絶対に死んでも守っるんだって!」
名前をつけた時の約束…?俺はナイトに名前をつけた時を思い出す。
『あとは、名前だな。俺を騎士のように守ってほしいという願いを込めて名前は「ナイト」だ』
「もしかして、あの時の俺の言った言葉を忘れていなかったのか…だからずっと俺を攻撃から守ってくれていたのか」
「ガウ!…ガウガウ!」
ナイトはずっと俺を守る騎士であろうとしてくれていたのか…。
「それに、もう絶対にマリーを負けさせない!自分の名前に違って!って言ってるよ」
「バカだなぁ…ナイト。俺の言った約束を守ってたせいでボロボロじゃないかよ…」
俺は目をローブで擦り、ナイトなら考えた作戦を達成出来ると確信した。
「ありがとう、ナイト!お前は最高の『騎士』だぜ!」
「ワウワウ!」
ナイトは嬉しそうに吠える
「ナイト!俺はお前を信じるぜ!アカリ、俺の今からする作戦、それがもしも失敗したら降参しても構わない。それまで大人しく見ていてくれ」
「…分かった」
「スピカ!少しの間、アカリの代わりにゴブリの足止めをしといてくれ!俺の準備が出来たら加速のアビリティを使う、そこからはスピカに任せる!ナイト、攻撃から俺と自分自身を守るように壁を作れ!」
「キュイ!」
「ワウ!」
スピカはゴブリに突撃し戦闘が始まり、ナイトは俺の前に来て攻撃が来ても守れるように構える。
剣をぶら下げながらアカリは俺の横に歩いてくる。
「無駄だ、勝てないさ。私には分かる。さっさと諦めた方が良い」
「静かに見てな、アカリ。勝負は最後まで何があるか分からない。俺は仲間を信じる。それと…俺が今からする事は他のプレイヤーに黙っていてくれないか?」
「…分かった。勝負を捨てたんだ、それくらいは守るよ」
「これだけは使いたくなかったんだけどな…」
アイテムボックスから武器を取り出す。
「げっ、それ使うの?」
「すまんな、飛び道具ってコレしかなくてな」
俺の手には、エリーを消滅させた過去がある飛苦無があった。
ガーウィは大量に飛苦無を持っていて、コレはその中の一つだ。
「この飛苦無だけ麻痺効果があるんだ。これをガブリに当て、麻痺してる間にナイトにトドメを刺してもらう」
「たしかに、マリーなら加護のおかげで絶対に当てれるね」
「ああ。俺の加護なら当てれる上に、麻痺にもできる。『召喚!』モグ郎!」
「モグモグ」
魔法陣から召喚されたモグ郎はモソモソと俺の足にくっ付く。
「これが!この状況を打破する俺の作戦だ!『一点集中合成!』」
手に持っていた飛苦無とモグ郎が浮かび上がり、俺の目の前で勢いよくぶつかり、火花を散らしながら光る。頭の中でピポーンと音が鳴る。
「こ…これは」
アカリが驚いた表情で、合成される光景を眺めている。
光が収まっていき目の前に、短剣ほどの大きさになり、持ち手は変わらず、刃の部分がドリル状になった飛苦無が浮かんでいた。
俺は手に取り、合成した武器を観察する。
「合成完了…『螺旋貫通苦無(麻痺)』」
「マリー…君、さっきのがキミの第3のジョブのスキルか?」
「ああ、俺は合成士のジョブを覚醒させた」
「覚醒ジョブ…合成士」
覚醒ジョブにアカリは驚いているようだ。
とりあえず武器のステータスを確認しよう。
【螺旋貫通苦無(麻痺)】 〈R6〉
STR+400 LUK+400
【投げると低確率で相手に当てることが出来る。使用後、この武器は消滅する】
武器スキル『貫通』
『壁やシールドを高確率で破壊する』
装備アビリティ『麻痺』
《低確率で当たった相手を麻痺にする》
「装備!スピカ!作戦開始だ、フォロー頼む!『加速!』」
「キュイ!」
ガーウィ戦では強く念じていなくて発動しなかったが、今回はしっかり発動したようだ。
「ナイト!俺とスピカを信じて走れ!」
「ガウ!」
「飛び道具とは甘いわ!『ファイヤウォール!!』
炎の壁がガブリの前に現れる。
ナイトは構わず向かって行く。
「甘いのはお前だ!なあ?エリー」
「うん!夏休みの宿題が全く終わってないのに『登校日の3日前くらいにしたら間に合うだろう』って思っている学生くらい甘いよ」
「投擲!プラス『貫通!』」
炎の檻の隙間から投げた飛苦無は真っ直ぐガブリに向かって行く。
炎の壁に当たると壁を破壊しガブリの左肩を掠る。
「ゲャハハ!残念だったな!壁のおかげで軌道が逸れたぜ!」
「バーカ、当てたらお前死んじまうだろ。ワザと掠るようにしたんだよ、スピカと協力してな!」
「なっ!嘘をつく…な、なんだ!体が動かん!」
「ナイト!今まで熱い思いさせられたんだ…」
ナイトはガブリの目の前で止まる。
「よ、よせー!!」
「やっちまえ」
「ガウ!!」
「グ、ギャ…」
ナイトに頭を噛みつかれHPが0になりパリーンと砕け散る。
「うそ…」
「アンちゃーん!!」
呆然とするアカリと、泣いているゴブリ。
俺を閉じ込めていた炎の檻が消える。
「やったぜ!あとはゴブリを倒すだけだ!」
「見て!マリー!ナイトが…」
ナイトを見ると、プルプルと震えていた。
スピカの時と同じだ…進化する!
「ワオーーーン!!」
ナイトが叫ぶと光り輝き、辺りが光に包まれる。
光が収まっていくのを薄目で確認し、しっかりと目を開けナイトの姿を確認する。
「これが新たなナイトの姿…」
体の所々に漆黒の鎧を着たナイトが佇んでいた。
「マリー…これはとんでもない進化だよ…」
「ああ、見たかんじで俺にも分かる」
ナイトは悠々と俺に向かって歩いて来る。
「このオオカミめー!よくもアンちゃんをー!!」
「キュ、キュイー!」
スピカが殴られてガラスのように砕ける。
「スピカ!くそ!なんて攻撃力だ!スピカが一撃で…」
ゴブリがナイトに走っていき、攻撃をしようする。
「アンちゃんのカタキー!」
「ナイト!避けろ!」
「ガウ!」
「鎧が意思を持ったように形を変えていく…」
鎧がナイトから離れ、盾の形になる。
「ワオーン!」
「うわー!!」
鎧で出来た盾がゴブリの攻撃を受け止め、跳ね飛ばす。
「つ、強い!これがナイトの新たな力…!」
「ワフッ」
ナイトに鎧が戻っていき、何事もなかったように俺の前に来て座る。
佇まいがまるで騎士のようだ…いや、ナイトはずっと騎士だったんだ。
早速ステータスを確認しよう…。
「マリー…どうか私にチャンスをくれ…」
アカリを見ると立ったまま深々と頭を下げていた。




