20・水の都とおしゃぶり
目を開けると門の前にログインしていた。もしかしたら前回ログアウトした場所にログインするのかな?
いつもログインするたびに晴れているので、たまには夜も見て見たいという気持ちがある。
「とりあえず、エリー『召喚!』」
目の前に小さな魔法陣が出現し、エリーが元気に飛び出す。
「ヤッホー!ちゃんとご飯食べてきた〜?!」
「テンション高っ、食べてきたけど!」
「時間通りだね!忘れずにログインしてくれて、さすがマリー!」
「お、おう!あたぼうよ…!」
言えない!ガンガンヤッタレシスターズに夢中で忘れていたなんて!
「…ホントに忘れてなかった?」
エリーが至近距離でジーと睨んでくる。
「べ、べらぼうめぇ!もちろんでぇ!さ、さあ〜、第3の街に討ち入りでぇ!」
「え…!ちょっと!ホントに忘れてなかった?ホントに?!あと何でちょっと江戸っ子なの!」
エリーの言葉をスルーし俺は早歩きで門に入って行く。
「スゲー水が沢山流れてるー!」
アクラーターは第1と2の街と同じで西洋風だが、道の横や至る所に河が流れている。
NPCが河で小さな舟を漕いでいたり、川で主婦が洗濯物を洗っている。
俺は少し歩いた場所にある小さな橋まで走って行く。
「綺麗だな〜!見ろよ、エリー!透き通ってて綺麗だぞ!あっ!大きな魚がいる!エリー、早く来いって!」
「テンション上がり過ぎでしょ」
「なんだよ、その冷えた白ご飯みたいな対応!もっと熱々の炊き立ての温度で対応しろよ!」
「マリーのテンション上がり過ぎてて逆に落ち着いちゃうよ」
「なにを〜」と言おうとしたら目の前に文字が表示される。
【ミッションクエスト】
『このクエストを全てクリアされた場合のみ『経験の石』が入手出来ます』
「おい!エリー!ミッションクエストだってよ!」
「どれどれ!」
【3つのミッションクエストをクリアせよ】
『1 • お遣いのクエストを1度クリアする』
『2 •パーティーを組んだことがないプレイヤーと協力してミッションクエストをクリアする』
『3 • ガブリとゴブリの兄弟をPvPで倒す』
「思ったより簡単そうだな。実質2つみたいなモノじゃないかよ」
「そうだね。でも、3つ目のガブリとゴブリは少し難しいかもね」
「そうなのか?どんなかんじの奴らなんだ?」
「言ったら面白くないから、会った時に言ってあげる」
これは聞いても無駄そうだな、と思い諦める。
お遣いのクエストを出してくれるNPCを捜すためアクラーターを歩くことにする。
「アクラーターって変わったモノとかないのか?」
「いっぱいあるけど…あっ。アレとか、そうかも」
エリーが指差す方向を見ると、ナイフとフォークがクロスしたベタな飲食店の看板が見えた。
飲食店?走って店の前に行くとショーウィンドウに食品サンプルが並んでいる。
「エリー!ここって食品サンプル屋さんとかじゃなくて飲食店だよな?」
「サンプル屋さんなんて店ないよ。アクラーターから飲食ができる店があるんだよ」
「マジかよ!すっげー!ゲームの中でご飯が食べれるなんて!じゃあ早速…」
俺は店に入ろうとするが、あることを思いつく。
「危ね〜忘れる所だった、さすがに召喚獣は店内に入れたらダメだよな」
エリーに手を翳して元に戻そうとする。
「いや、ちょっと待って!戻すの待って!ペットじゃないんだから、別に召喚獣は店内に入っても大丈夫だよ!」
「冗談だよ…でも戻ってもらわないとな」
「え?どうして?ペットじゃないんだし、戻さなくても」
「だって、俺の食べてるところ見てても楽しくないだろ?」
エリーはポカーンとした顔をしてから、ハッと我に帰る。
「どういうこと?マリー。私も一緒に行くよ!」
「良いのか?入っても俺がハンバーグ食べてるところを見るだけだぞ?もしかして待ってる間の話し相手になってくれる事とか考えているなら大丈夫だぞ?」
「いやいやいや、違うから、そういう事じゃなくて」
「分かった!ちゃんと注文出来るか心配してくれてるのか?じゃあ!じゃあ!テーブルまで一緒に行って、俺が注文するところ見てて!…それで注文し終えたら一旦戻ってもらって、食べ終わったら再度召喚するよ!それだったら良いだろ?」
プチンとエリーの頭から何かが切れる音が聞こえた気がした。
「全然違うよ!!そういうことを言ってるんじゃなくて!私もハンバーグ食べたいんだよ!!意味分かんないよ!何?注文の心配って?何?再度召喚って?私はハンバーグを食べたいんだよ!!あと、『じゃあ!じゃあ!』のとこが1番イラッとした!!」
「フフッ…え〜食べたいの〜?」
「え〜って!!食べたいよ!私もハンバーグ食べたいよ!!」
エリーが凄い吠える。周りには剣士の格好をした女の人が1人しか居なくて良かった。
「でもさ、召喚獣ってご飯食べなくて良いんだろ?」
「え…食べなくても良いけど…」
「じゃあ食べなくても良くない?エリーのお金も俺が出さないとだしさ」
「ひっどい言いよう!どうしたの?ログインする前にモラルとか優しさを忘れてきたの?!」
「フッ…!」
もうそろそろイジるのはやめよう。さすがエリー、面白いな…。俺、エリーと漫才のコンテストか何か出ようかな…。
「それだったら、私が妖精さんの分まで出してあげようか?」
後ろを振り向くと、剣士風の格好をした15〜16歳くらいの女の子が立っていた。
背中には大きな大剣を背負っている。
長くストレートな黒い髪、キリッとした目と高い鼻、顔も小さくモデルのような容姿だ。
そして特に気になったのは、ピンク色の赤ちゃんが咥えているような『おしゃぶり』を咥えている。




