第1章12話[プレイヤーキラー]
「勝ったのか…?」
『3000Gとハイオークの爪×4、ハイオークの心臓×1を手に入れました』
ハイオークの報酬がテキストウインドウに表示される。
「っっっ!!勝ったーー!!!やったな!お前らーー!!」
「ワウワウ!」
「キュイキュイ!」
勝った嬉しさでスピカとナイトに飛びつき頭や体を撫で回す。
するとハイオークが最初に座っていた椅子が突然ガラガラと壊れる。椅子の瓦礫は砂となりサラサラと何処かに飛ばされていき、椅子が存在していた場所には台座と宝箱が現れる。
「ダンジョン攻略の証の『森の石』と宝箱だね」
「森の石?」
台座に走って近寄る。石で作られた台座の上には俺の手より少し大きい緑色の透き通った石が置いてあった。
「これが『森の石』か…」
光にかざすと石の中に葉っぱが1枚入っていた。手の中から持ち物に移動させ横にある少し大きな宝箱を見る。
「この宝箱の中は何が入ってるんだろう?」
あんな手に汗握る戦闘をしたので期待を膨らませて宝箱を開ける。
『槍使いの軽装備一式を入手しました』
テキストウインドウが表示されたのでエリーを見る。
「まあ中の下ってところかな」
「……」
エリーがテンションの下がる事を言う。
宝箱の中身に納得はしていないが帰ろうかと後ろを振り返ると、ボス部屋の真ん中に魔法陣が出現する。
「あれの中に入ったらダンジョンの外に出られるよ。それとダンジョンクリア後はゲーム内で1日経たないと入れないからね」
「へぇー」
エリーの助言を頭の隅に置いておく。
そういえば、エリーが言っていた『上回復薬』をダンジョンを出る前に作ってしまおうと思いつく。
ダンジョンから出たらゴブリンがいるから作れないだろうし、今なら敵が出ないので回復薬を作るのに専念できる。
宝箱の前の床に錬金釜を取り出し錬成する。
「えー、後で良いじゃーん」と不満を言うエリーを無視して錬金釜で『上回復薬』を195個を作る。
「ごめん、待たせた…か?」
振り返ると皆んな待ちくたびれて寝転がっている。
用も済んだので帰ろうかと魔法陣に歩いて行く。
「スピカ。本当に俺の槍になってくれて、ありがとうな。スピカの名前をスピカにして良かって心の底から思うよ」
横に歩くスピカを見て改めて思った事を口にする。
「キュイキュイ!」
嬉しそうにスピカが鳴く。
魔法陣に入ると光に包まれ少し体が浮いている浮遊感を味わう。気がつくとダンジョンの外に出ていた。
入った時と同じで外は明るく眩しくて目を細める。
「ん?」
目が慣れてきて前を見れば女性プレイヤーが立っていた。褐色の肌。紫色の髪をポニーテイルに結び、黒い忍者のような格好をしている。
忍者にしてお腹や腕や脚とか出してるし、胸の谷間とか凄い見えてるから忍者かどうかは分からない。セクシーな忍者だろうか?
「凄いね〜。お嬢ちゃん、ハイオークに勝ったんだ。それじゃあ良い装備貰えたのかな〜?」
こちらにニコリと笑う。
「マリー!何やってるの!早く逃げるよ!!」
「え?」
エリーが慌てて叫ぶ。何故こんなにも慌てているのか女忍者の名前を見て直ぐに気付く。
女忍者の頭上にある名前の色が、紫色をしているからだ。
「プレイヤーキラー…!!」
目の前の女性がプレイヤーキラーだと気付き動こうとする。しかし、ダンジョンにはゲーム内で1日経たないと入れないためダンジョンには逃げれない。女忍者の後ろにある帰り道がある方に逃げるしかないが…。
「何とかして逃げるしかないよ!マリーにはまだプレイヤーキラーと戦うには早過ぎるよ!」
「逃げるたって、どうしたらいいんだよ…!」
チラリと女忍者を見る。
「どうしたの?何かあったの?」
女忍者は余裕な雰囲気で聞いてくる。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私の名前はガーウィ。『初心者狩りのガーウィ』って言えば最初の街では少し有名なのよ」
『初心者狩り』か…完全にプレイヤーキラーで間違いないようだ。
「お願い!私たちはレアなアイテムもお金も少ししか持っていないから見逃して!」
エリーが何とか説得をしようとする。
「妖精…?そう…お嬢ちゃん、召喚士なの。妖精のお嬢ちゃん。分かったわ、今回は特別に見逃してあげる」
ガーウィは少し歩いて道を開けてくれる。いきなり後ろから襲ってくるという恐怖感もあったが俺はガーウィの横を走って行く。
一応警戒していたが何もされずガーウィの横を通り過ぎる。
「ちょっと待ってお嬢ちゃん」
「え?」
急に声を掛けられ走るのを一旦止める。
背中に何か布が当たり地面にパサッと落ちる。振り向いて落ちたものを見てみると、白い手袋だった。
「ふふふふ、成功!!」
嬉しそうにガーウィが笑う。
『プレイヤー『ガーウィ』にPvPを申し込まれました』
テキストウインドウが表示される。
「PvP?」
『プレイヤー【ガーウィ】の使用した決闘の手袋の効果でPvPを了承します』
「え?」
目の前に現れたテキストウインドウに頭が混乱する。
「おい、エリー。何だよこれ?!」
「あのアイテムは『決闘の手袋』…当てた相手と強制的にPvPができるレアアイテム…」
これを当てるために俺たちに道を譲ったのか…!
「最悪…こんなのって…!!」
エリーが何かに怯えるように震えている。
「さて、お嬢ちゃん。PvPをする事が決まったわ。お互いに賭けをして戦うことができるけど何を賭けて戦おうかしら?」
ガーウィが意気揚々と話し始めると、側を飛んでいるエリーの呼吸が荒くなっていく。
「お金は…お嬢ちゃんはあまり持ってないそうだし、そうだ!お互いに持ち物を全て賭けて戦いましょう!」
「持ち物…?」
何で持ち物なんだ?俺の持ち物って回復薬と森の石とボスの宝箱で手に入れた鎧くらいしかないのに。
「お願い!それだけはやめて!」
「エリー…?」
エリーが叫ぶ。俺は今だにエリーが慌てている理由が分からない。
「…お嬢ちゃん、まだ分かってないみたいね。持ち物全てって事は召喚士には必要不可欠の『召喚石』も賭けの対象になるのよ?」
「召喚石だと…!」
事態の深刻さに気付く。エリーが何で怯えてるのかが分かった。自分のマヌケさに腹が立つ…!
「ふざけんな!そんな大事な物を賭けれるわけないだろ!」
「もう遅いわ!決闘の手袋を使用したプレイヤーが賭ける物かルールのどちらかを決めれるのよ!もうPvPの賭けの設定で『持ち物全て』にしちゃったわ!キャハハ!!」
「くそっ!!」
『5分後にPvPを始めます。プレイヤーの2人は準備をして下さい。ここから30メートル四方をフィールドとします』
どこからか女性のアナウンスが聞こえる。周りが透明な青色のガラスに覆われていく。
「これでもう逃げる事は出来なくなったわね。諦めて戦いましょ?まあ召喚士ごときに負ける事なんて皆無でしょうけど」
「召喚士ごときだと…!!」
俺や召喚獣の事を否定されたようで腹が立つ。
「ええ、そんなゴミみたいな不遇職に負けるわけないって言ってるのよ」
「不遇職…?召喚士がゴミ…?」
そんなこと聞いたことがない。現に召喚士を弱いと思った事なんてない。エリーを見ると目を逸らされる。スピカやナイトも下を向いていた。
「可哀想な、お嬢ちゃん!そんな大事な事を妖精さんは教えてくれてないなんて!」
「うるさい!俺は召喚士を不遇職だなんて思った事はない!今も!これから先もな!エリー!みんな!お前たちは俺の仲間だ!」
「…うん!」
エリーも元気を少し取り戻す。スピカもナイトも顔を上げ、戦う覚悟を決めたようだ。