最終話『冒険の未来へ』
「シャドウ、下がってろ」
「おっす!」
シャドウはガーウィから離れる。俺はガーウィと対峙する。
「ガーウィ。お前は最初に会ってから何も変わってないな」
「なに?」
「お前は俺を倒して未来へと向かおうとしている…だが未来を見ているようで見ていない」
キラキラと粒子が出る手の平を俺は見つめる。
「俺に負けた過去をずっと見ているお前に、俺を倒すことは一生出来ない」
「黙れ…黙れ!アンタに分かるの?初心者狩りと言われ、プレイヤー達から恐れられていた…鑑定で弱そうなプレイヤーを狙い、暗殺者のスピードで翻弄して倒す。それが私のやり方だった。だけど、あの日アンタに負けて全て変わった!」
ガーウィは抱え込んでいた言葉を吐き出すように話す。
「ダンジョンから出てきたアンタはカスみたいなステータスだった…なのに!なのに!私は負けた!それだけじゃないわ!在ろう事か、私の体に消えない『敗北者の烙印』が残った。雑魚だと思っていたガキに負けるなんて悔しかった!心の底から悔しかった!」
「だから俺を倒すのか?」
「ええ、アンタに負けたイカズチとはネットで知り合ったわ。同じ復讐の相手ってことで意気投合した…【N–EAW】で会ってからは研鑽し合い、沢山のスキルを習得することが出来た。2人で作戦も考えた!ガブリゴブリからドロップする『炎の十字架』を手に入れるために一緒に何度も挑んだ。それなのに…」
ガーウィは拳を握り悔しそうにする。
「なのに…なのに!私はどうして…アンタに勝てないの!!」
ガーウィは両手に苦無を持てるだけ持ち、空中に放り投げる。
「奥義スキル!『復讐者の四重奏!』
ガーウィの周りにクナイが飛び回る。
「マリー…あのスキルは自身の所持しているクナイを40本同時に投擲するスキルだよ」
「分かった。シャドウ、エリーを守っていてくれ」
「死ね!!マリー!!」
「はああああああああ!!」
俺は飛んで来た苦無を全て槍で打ち落とす。
「な…スキルを使用しないで防いだ…!」
「終わりだ!ガーウィ!!『ウサギの大群!!!』」
至近距離まで高速で詰め、奥義スキルを発動する。
「そんな…」
「うおおおおおおおおおおーー!!!」
「ギャアアアアアアアアアーーー!!!」
ガーウィの体に無数に焼けた判子を押す。
「私はアンタを倒す…どんな手を使っても、絶、対に…」
『パリーン!』とガーウィの体が砕け散る。
「無理だよ。過去しか見ていないお前じゃあ」
移動していたフィールドが元に戻り、俺はガーウィたちとPvPを始めた場所に立っていた。視線が低くなっているので秘薬の効果は切れたようだ。
『5800ポイントを獲得しました』
テキストウインドウが表示される。
「マリー、お疲れ様!」
「ああ」
すると足元に魔法陣が現れる。
「これは…」
「イベントが終わったみたいだね」
「そうか…終わったのか。全然記憶を戻すヒントは無かったな」
「仕方ないよ、気軽に頑張ってこ」
エリーが笑い掛けてくれる。
浮遊感が襲い、一瞬にしてイベントが始まった噴水前に転移していた。
「我が友!勝ったんだな!」
「ミツハ…!ああ、お前のおかげで勝つことができたぜ!そうだ!ポイントを半分けよう、半分ずつで良いか?」
「そんなに貰えない!僕が賭けた分と500ポイントくらいで良いよ!」
「そういうと思ったが、貰ってくれ。さっきも言ったようにミツハのおかげで勝てたんだからさ」
俺は無理やり2800ポイントとミツハが賭けた分をメッセージで送る。
「…ありがとう、我が友」
「良いって!…マイルームに行こうぜ。アカリとアリアが待ってるはずだ」
「うん!」
イベントでのポイントの使い道を話し合いながらマイルームに向かう。
「アカリたち何してんだろな?」
「二人で次のクエストでも考えてるんじゃないかな?」
俺はマイルームの宿屋の扉を通ると。
「アリアちゃ〜ん、もっとなでなでしてほしいでちゅ!それで頑張ってねアカリちゃんって言ってくだちゃい!」
「分かりました!戦神童子のスキルって大変なんですね…!」
「……」
「……」
膝枕をされて甘えるアカリを、俺とミツハはゴミを見るような目で見つめる。…俺とミツハは一生懸命頑張ってポイントをゲットしたり死んだりしていたのに、コイツは…!!
「あっ…ふ、二人ともお疲れ様…どうだった?」
「良いのか?その言葉が最後の言葉で?」
「ち、違うの!戦神童子のスキルが暴走して!それでアリアちゃんに応急処置を…!」
「分かった…」
そういうとアカリはホッとした顔をする。
「それが最後の言葉ってことで良いんだな!」
「落ち着こ!ね!」
「表出ろ!ウサギの大群を食らわせてやる!」
「僕もダークジャベリンで手伝うよ!」
ミツハと協力し、アリアからアカリを引っぺがしてズルズルと引きずりながら外に連れて行く。
「アリアちゃん!助けて!」
「あ、あの!…回復は任せてください!」
「そんな〜!」
「さあ行くぞ!」
この面白おかしい記憶を探す冒険はまだまだ続いていくだろう。
そしていつかきっと見つけてみせる俺の記憶を…。