第1章9話[冒険へ]
部屋から出ると外は明るく、後ろには宿屋『安心し亭』の扉があった。
「今は現実では夜なのにゲーム世界では昼なんだな」
「マイルームのベットで寝ないと夜にならないよ。夜で遊びたいならベットで寝ないとね」
「へぇ〜、覚えとこう。それで今から何をした方がいいんだ?装備とかを買った方がいいのかな?」
「う〜ん、この街にある装備でマリーの手持ちで買えるのは弱いのしかないから〜…外に出た時に死なない様にする為に回復薬を買えるだけ買っといた方が良いんじゃない?もしくは、加護のお陰で錬金が100%成功して使えるんだし錬金用の道具を買って道中で見つけた薬草とかを錬金して回復薬を作るっていう手もあるけど」
アドバイスが的確だ!出会った時をやり直したいと心の底から思う素晴らしいアドバイスをくれる。
「ありがとうな、エリー。本当に召喚して良かったよ」
「急にどうしたの!気にしなくていいいよ。私はマリーが死なないようにアドバイスしてるだけだから」
「良い妖精かよ!」
「もういいって!それより結局どうするの?」
「ああ…今後もずっと使うことを考えて錬金の道具を買うことにするよ」
メニューでマップを開いて売っている場所を探すがどの店が良いのか分からない。
「こっちだよ、マリー!初心者が買える安い道具屋さんがあるだよ!」
本当に頼りになる、敬語で話した方が良いかな…飛んで行くエリーの案内に付いて行く。
歩いてすぐのところに《街の道具屋さん》と書かれた店に到着する。
「ここか…」
外装は綺麗だ…中はどうだろうかと店のショーウィンドウから中を覗こうとすると自分の姿がガラスに映る。やっぱり何回見ても可愛いな‥マリアって、一回クルリと回りながら姿を見ると…はい!可愛い!ショーウィンドウに顔を近づけて顔を見るとまつ毛も長いし目も青色をしているし、それに…。
「マリー、中の人が見てるから…」
「え?!」
エリーが恥ずかしそうに小声で教えてくれたので中を見ると、店の中でクスクスと笑いながらプレイヤーが数人が見ていた。
「エリー!早く買って帰ろう!」
「う、うん!そうだね!」
エリーに勧められるままに速攻で2400Gの錬金を購入して店を出る。残金400Gの貧乏プレイヤーになった。
「あ〜、恥ずかしかった〜!」
「もう!何やってるの!自分に見惚れるってヤバいよ!」
本当にだ。あまりにもマリアが可愛くて見惚れていた。次からは気をつけよう。
気持ちを切り替えて早く外の世界に出て冒険をして忘れてしまおう。
「外に出るには、どう行ったらいいんだ?」
「こっちだよ」
エリーの道案内に着いて行く。歩いている人を見ていると頭の上の名前と矢印の色が違う事に気付く。
「なあ、エリー。プレイヤーやNPCの頭の上にある名前の色とかが違うのって意味があるのか?」
「うん、あるよ。『青がプレイヤー』で『緑がAIのNPC』で『白色がヒントしか言わないAIじゃないNPC』で『赤が敵やモンスター』で『紫色がPK』」
プレイヤーキラー?プレイヤーを襲ったりするプレイヤーのことかな?
「プレイヤーキラーってなんなんだ?名前の通りなのか?」
「そうだよ、プレイヤー襲う山賊みたいな奴らだよ。プレイヤーを狙う理由は貰える経験がモンスターよりプレイヤーを倒した方が多いのと、勝った時にプレイヤーが持っている所持金や持ち物をランダムで貰えるからっていうのが理由かな。ちなみにプレイヤーに襲われて倒してもPKにはならないから、なる方法は街とかに居るNPCを故意で攻撃したりプレイヤーを3人以上PvP以外の方法で倒したらなっちゃうよ」
プレイヤーキラーか…会うことはないだろうが気をつけるか。
心の中で気を引き締めながらエリーの頭上の名前を見ると緑色だった。エリーってAIだったのか…感情や表情とか豊富で生きてるみたいだな。
そんなことを話しながら10分歩くがまだ着かない。こんなに歩くなら出来るか分からないがナイトの背中にでも乗って行きたいものだ。
「外に出る門が見えてきたよ!」
「巨人用の扉かと思うくらいデカイな。こんなにデカくなくても絶対大丈夫だろ」
門に近付いて行くと、門の側に立っていた衛兵が敬礼してくる。頭の上を見ると白色の名前だった。
「これが外の世界か…」
門から外に出ると風が勢いよく吹く。
「わっぷ…」
風で少し目を閉じてしまった後ゆっくりと目を開くと、そこには広大な草原が広がっていた。草原の向こうには森が見える。
綺麗な景色だ…。風が吹くとまるで草原が海のように波打っている。不思議な気持ちだ。俺はこの景色を知っている気がする。俺は…この景色を見たことがある…。
頭の中にボンヤリと記憶が蘇る。
「マリーどうしたの?」
「俺が【EAW】で初めて門を出て草原を歩いて森に行って、レベル上げにゴブリンを倒していたらオークが出てきたけど逃げずに手持ちの回復薬を全部使って何とか倒したんだ…。本当に、レベル1だったのに倒せたのは奇跡だったな」
「マリー?」
「失くしてた記憶を少しだけ思い出した…。やっぱり、このゲームをプレイする事が記憶を取り戻す近道に違いない」
「…良かったね、マリー」
側で優しく囁くエリーの言葉を聞きながら、記憶を思い出したことを噛み締めながら森へと歩き出す。
「そうだ、エリー。薬草とか生えてたら教えてくれよ」
「オッケ〜…。あ、そこ生えてるよ」
エリーが指を指す方向を見ると見た目は全く普通の草が生えていた。抜くと手元から消える。もしかして持ち物のアイテムボックスに移動したのか?と心配になり念じてアイテムボックスを開くと『薬草×2』を入手していた。
「ってことはこの辺の草って全部薬草なのか?取り放題じゃないかよ」
「そうだよ〜、でも取ったところで練金が使えないと意味ないし売っても3Gにしかならないから、そんなに需要がないんだよ」
「そうなのか?よ〜し!なら俺が、ガンガン抜いていってやる!」
「お〜!」
歩くこと10分。道中、薬草を引っこ抜きまくり持ち物は薬草だらけになっている。薬草を採取しながら『こんな妖精は嫌だ』という大喜利をエリーとして楽しく森の入り口に着く。
「着いたな」
「もうちょっと大喜利やりたかったのにな〜」
「また今度な。とりあえず森に入るとゴブリンとか出てくるし、入る前に錬金で回復薬を作っておこうかな」
森の入口から少し離れた場所に行き、錬金釜を取り出す。
「錬金釜には99個まで材料が入るよ」
「それなら薬草を99個入れてみよう」
錬金の釜に薬草が入る最大の99個入れて、釜とセットで付いてきた棒でかき混ぜる。不思議なことに水を入れていないのに水分が増えていき釜から少し湯気が出る。
「火も付けていないのに、どういう原理で煮えてるんだ…?エリー、このままで大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。マリーには加護があるんだから」
グツグツと煮え始める釜の中では薬草が緑色の液体に変わっていく。
「これって大丈夫なのか…」
「たぶん…」
釜の中はボコボコと音を鳴らしながら煮えたぎっている。
「エリー、これ本当に大丈夫なのか?…エリー!?」
「う、うん…マリーには加護があるんだから…!」
そう言いながらエリーは離れたところに飛んで行く。
「おい!なに逃げてんだよ!」
エリーが逃げたので俺も逃げようかと考えたが、釜を見るともう間に合いそうにない。『ピポーン』と頭の中にクイズの答える時に押すボタンのような音が鳴ると「ボン!」っと釜から小さな音が鳴り白い煙が上がる。
「大丈夫?!マリー生きてる?!」
「ああ…ノーダメージだ」
煙が上がった釜の中を見てみると、コロンと緑色の液体が入った小さな小瓶が釜の中に入っていた。
状況が全く分からない。液体を煮ていたのに小瓶になっているってどういうことだ?
「すご〜い!錬金成功してる!」
「え?!これ成功してるのか?」
エリーが釜に近寄って行き小瓶を両手で掴む。
「あっっつ!!」
「あぶなっ!!」
エリーが思いっきり俺の方へ投げてきたので、慌ててキャッチする。
「って全然熱くないし!」
「ごめん、先入観で投げちゃった」
「全く…」
キャッチした小瓶は気が付けば手の中から無くなっていた。アイテムボックスを見てみると『回復薬×99』となっていた。
回復薬 〈R3〉
【HPを30%回復する】
「この調子で練金しまくるか」
同じように練金を2回してアイテムボックスの中に回復薬が396個になる。
「準備完了だ!森の中に入るぜ!」
森の中へと歩いて行く。