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廻る世界

 下駄箱の前に、有香がいた。


「何してるの?」

 桜は問いかけた。

 有香がびくりと震える。


「あなただったの?」

 有香の手には、桜の上靴が握られている。

「教科書も、体操服も、あなただったの?」

 有香がうつむく。


「どうして……」

「杏奈の友達は私よ。二年生の時からずっと仲良くしてきたのに。あなたのせいで……」


 杏奈と桜は幼稚園からの付き合いだ。

 しかし友達とは、付き合う長さで決まるものではないと思っている。

 だから言わなかった。


「あなた邪魔なのよ!」

 有香が桜に襲いかかる。


「まだだ……」

 ダストがつぶやく。


 何度も何度も次元を飛んだ。

 桜を求めて。

 桜を探して。

 桜に会いたくて。


 しかしどの世界に行っても、桜は必ず死んでしまう。


 溺死、毒死、失血死、窒息死。

 他殺、自殺、転落、交通事故。


 目の前で、愛する桜が何度も何度も死んでしまう。

 どんなに手を変えても、桜を救うことができない。


 ダストはもう気が狂いそうだった。


 何度目かの世界で、何人目かの桜の遺体を見下ろした。


「もうやめろ」

 ダストの後ろにナルが現れる。

「何度繰り返しても世界は変わらない」


 ダストは首を振った。

「そんなことはない。きっと桜を助ける方法があるはずた」

「次元を超えることが、どれだけ負担になるか。君ならよくわかっているだろう。私たちは無限でもなければ永遠でもない」


 うつむくダストの肩をナルがつかむ。

 ダストはうっすらと笑った。


「何億年と生きる存在にとって、たかが数百年などわずかな時間。お前こそ、俺に付き合って何回次元を飛んだ。俺のせいで命を縮めることはない」


「私と君は、兄弟であり、分身であり、同じ存在だ。そんな君を、見捨ててはおけない」

「俺のことは放っておいてくれ」


 ナルはかっとなった。肩をつかむ手に力がこもる。


「そんなこと、出来るはずないだろう! 長い長い放浪の中で、私が孤独でなかったと、なぜ思う。広い宇宙の中、何千年何万年と仲間を探していた。たったひとりで。初めて見つけた君を、どうして諦められる。君を放っておくことなど、私にできるはずないだろう!」


「うるさい! お前になにがわかる! 桜のいない世界など、意味がない! 宇宙の塵に等しい俺に、温もりを与え、生きる意味を与えた。桜のいない世界など、滅べばいい!」


 ダストはナルの手を振り払った。

 そして両手で顔を覆う。


「なぜだ。なぜなんだ……」

 しゃがみこむダストを、ナルが見おろす。


「それは、君が彼女を求めたからだ」

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