男女七歳にして
「あ〜もう。男物の服なんて持ってないわよ。これでいけるかな?」
桜はオーバーサイズのTシャツを取り出した。
「上はこれでいいとして。問題は下よね。入るかな?」
普段着にしているハーフパンツを持つ。
「ま、これでいっか。多少キツくても我慢してよね。お風呂の使い方、わかる?」
ユニットバスへ行き、使い方を説明する。
「こっちがシャンプー。こっちはコンディショナー。ボディソープはこれね。洗ってお湯で流すの。わかった?」
「わかった」
「タオルはこれを使ってね」
「ああ」
「着替え、ここに置いておくから」
狭い家の中、脱衣所などというスペースは無い。
ユニットバスの隣にはミニキッチンのコンロがある。
桜はいつもそこで着替えるが──
桜はすでにシャワーを済ませ、ダストに渡したものと同じような服に着替えている。
ミニキッチンと部屋を区切る扉を閉め、いつもの定位置に落ち着く。
ふわふわラグの上だ。
「ふぅ」
ハート型のクッションを抱える。
「落ち着かないなぁ」
壁一枚隔てた向こうに、ショウがいる。
それはショウの姿をしているだけで、本当は生命かどうかもわからないものなのだが。
シャワーの音が響いてきたので、桜はテレビをつけた。
「あれ? もしかして、着替えなんて渡さなくても、テレビ見せてこの格好してって言えば良かったのかな?」
遅まきながら、そのことに気づく。
しかしシャワー中に声をかけるのも憚られたので、やめておく。
そもそも人外の存在にシャワーなど必要なのかとも思ったが、同じ空間にいる身として、シャワーも浴びず就寝するのは、生理的に受け付けない。
CMに、ショウが出てきた。
「うっ、なんでだろう。直視出来ない……」
テレビとユニットバスのある方を交互に見る。
そんなことをしていると、シャワーを済ませたダストが部屋に入って来た。
「髪の毛! 濡れてる!」
ダストの髪はまだびしょ濡れだった。
バスタオルを取り上げ、がしがしと拭く。
「頭を拭くことは、遺伝子の情報ってやつになかったの⁉︎」
「拭いたつもりだが……」
「足りてない!」
ダストはされるがままになっている。
桜はドライヤーまで当ててやった。
「世話がかかるなぁ、もう」
オーバーサイズのはずのTシャツは、ダストが着ると肩の辺りがキツそうだ。
そのくせハーフパンツのウエストに問題はないらしい。
(別に、私が太っているわけじゃないわよ、きっと)
桜が履くと膝下になるハーフパンツは、ダストが履くと膝上になっている。
(そういえば……。下着、どうなってるんだろう)
一瞬気になったが、それ以上考えるのをやめた。
そろそろ心臓がもたない。
「ねぇ、お腹空いてる?」
ダストは首を振った。
桜はバイト先で賄いを食べたから、夕食の必要はない。
(そもそもお腹空くのかな?)
そんなことを考えながら布団を敷く。
すると、当然のようにダストが一緒に入ろうとする。
桜はラグを指差した。
「あなたはあっち」
「なぜ?」
「男女七歳にして席を同じゅうせずよ。あなたが何歳か知らないけれど、私は17歳なの。みだりに男性とひとつの布団で眠ったりしないの」
「桜の姿に戻ろうか?」
「そういう問題じゃない。とにかくこれは私の布団。あなたはそっちで眠りなさい」
普段はラグの上に布団を敷いているので、いつもより少しだけ寝心地が悪かった。