更に朝
「おはよう」
ダストの声で桜は目を覚ました。
「ん、おはよう」
目をこすり、体を起こす。
肩から布団が落ち、上半身が露わになる。
「ひゃっ」
桜は再び布団の中にもぐった。
「何時?」
時計を見る。
「まだ余裕だね」
そう言って、ダストの胸の中に潜り込む。
「へへへ。あったかい」
ダストは桜を抱きしめた。
「学校行きたくないな」
桜がぽつりとつぶやく。
「ずっとこうしてたい」
すりすりと頭を胸にこすりつける。
「でもそろそろ準備しなくちゃね」
桜は微笑むと、ダストの腕の中から出ようとした。
しかしダストがぎゅっと力をこめる。
「ん、ダスト。離して」
くすくす笑いながら、桜が身をひねる。
「嫌だ」
「ダメだよ。学校にはちゃんと行かなくちゃ」
しかしダストは離さない。
「もう、ダストったら」
もがいてももがいてもダストが離さないので、桜は不審に思った。
「ダスト?」
見上げると、ダストは苦悶に満ちた表情をしていた。
「どうしたの? どこか痛いの?」
桜は両手でダストの頬を挟んだ。
ダストは苦しそうに言った。
「この部屋から、出すことはできない」
「どういうこと?」
「以前言ったことがあるだろう。俺がその気になれば、一歩もここから出さず、俺とふたりきりで過ごすことができると。俺はもう、桜をここから出す気はない」
「どうしてよ」
「桜が何を言っても、変える気はない。だから説明することもない」
「なぜ。どうしてよ。だって私たち昨日……」
桜ははっとした。
「まさか、だからなの? ダストのずっと一緒にいるって、こういうことなの?」
ダストは何も答えなかった。
ただ鎮痛な面持ちをしている。
「どうして何も言わないの。確かにさっきは学校に行きたくないって言ったけど。でもそれはずっとってことじゃない。そんなのおかしいわ」
ダストは一言だけ「すまない」と答えた。
「何よ、ダストのわからずや!」
無理やり腕の中から逃げ出すと、制服に着替えた。
そして玄関へ行く。
ドアノブを回しても回しても、ピクリとも動かなかった。
「ダスト。ここを開けて」
「ダメだ」
「どうして⁉︎ たしかに私はダストのことが好きだけど、ダストに全てを奪われるつもりはないわ。これからいっぱい勉強して、大学にも行って、就職して、やりたいことはいっぱいある。どうしてずっとここに閉じこもっていなくちゃいけないの⁉︎」
「それは……」
ダストが口を開いた時だった。
目眩のような感覚がしたと思ったら、地面が激しく揺れだした。
「桜!」
ダストは桜に駆け寄った。
歩数にすればわずか三歩。
それなのに、ダストの手は桜に届かなかった。
桜はダストの目の前で、落ちてきた天井に挟まれた。
「桜!」
手に木材が突き刺さるのも気にせず瓦礫をのける。
瓦礫の下にいた桜は、ひしゃげて潰れて小さくなっていた。
「桜……」
ダストは小さくなった桜を見下ろした。
「まだだ」
ダストは再び次元を飛んだ。