笑顔
ほかほかと湯気を立てるハンバーグ。
「やっぱり出来立てっていいね。ね?」
桜が言うのと同時に、炊飯器の炊き上がる音がする。
「うひゃあ、丁度だ。完璧!」
炊きたてのごはんを茶碗に盛り、テーブルに並べる。
「早く食べよう!」
桜が手招きする。
ダストがエプロンを外す。
メインはハンバーグ。
付け合わせは蒸し焼きにしたピーマンとニンジン。
ハンバーグの油をたっぷり吸って、てかてかといい色に光っている。
キャベツと玉ねぎのスープに、炊きたてご飯もある。
それらを並べた小さな折りたたみ式テーブルの前に、向かい合わせに座る。
「いただきます!」
大きな口を開け、桜がハンバーグを頬張る。
「んふー! 美味しい! やっぱりハンバーグは最高だぁ!」
ダストも食べる。
「うん。美味しい」
「でしょう?」
なぜか桜が得意げに言う。
ダストは次にスープを飲んだ。
「これも美味い」
スープを作ったのは桜だ。
「適当に切って煮ただけだけどね。半端な野菜って、こうして使ったら良かったのね」
「桜は頭がいいのか悪いのかよくわからないな」
桜がぷっと頬を膨らませる。
「うるさいな」
「付け合わせの野菜も美味しいぞ」
「どれどれ」
ピーマンを食べてまた笑う。
「美味しい。ダストの料理は最高ね」
「俺のではない。桜の母のだ」
「でも作ったのはダストじゃない。ダストの料理よ」
「そうか」
ダストが嬉しそうな顔をする。
「前に桜が作ってくれたご飯も美味しかったぞ」
「なに作ったっけ?」
「目玉焼き、ほうれん草のおひたし、揚げと豆腐の味噌汁、塩ご飯」
「料理とも呼べないやつじゃん」
「あとおにぎり」
「じゃあまた作ろうね」
「ああ」
ダストが微笑む。
「ふふっ」
桜が吹き出す。
「何だ?」
「ダスト、よく笑うようになったね」
「そうか?」
「初めの頃の、ショウの真似した笑い方は酷かった」
「そうだったか? テレビと同じようにコピーしたつもりだったが」
「逆よ。完コピしてた。だから余計に違和感がすごかった」
「むう」
ダストは自分の顎をさすった。
「そんなに酷かったか」
「今はね、とっても自然。凄く楽しそう」
「楽しいからな」
「良かった。私もダストと一緒で楽しいよ」
「それはどうも」
「ふふふ」
食事を終え後片づけをする。
皿を洗うダストの後ろに桜は立った。
「ねえ、ダスト」
「どうした?」
ダストは皿を洗い終わり、手を拭いた。
「今までありがとう」
「なんだ突然」
「私、ダストにとてもわがままなことばかり言っていたわ」
「今更だな」
「ダストの気持ち、少しも考えていなかった」
「そうか?」
「ちゃんと向き合っていなかった。怖かったから」
ダストは少し悲しそうな顔をした。
「俺が?」
「ううん。自分が」
「桜が?」
「ずっと寂しかった。辛かった。お父さんとお母さんが死んでからずっと。でもダストが急に現れて。ずかすがと私の生活に入り込んで。そしたらそれがすごく楽しくて」
ダストは困ったような、嬉しいような、複雑な顔をした。
「だからすごく怖かった。お父さんに言ったことが、嘘になりそうで」
「嘘?」
「お父さんが、彼氏を家に呼ぶんじゃないかって言った時、私、否定した。すごく酷いことを言った」
そしてそのまま、帰らぬ人となった。
「だから、お父さんを裏切るみたいで怖かった。私は絶対、彼氏なんて作らない。恋なんてしない。しちゃいけない。そう思ってたのに」
桜は両手で己の顔を覆った。
「どんどんダストのことを、好きになるから……」
「桜……」
ダストが一歩前に出る。
「ごめんなさい。ごめんなさい、お父さん、お母さん」
ダストはもう一歩、前に出た。
桜の手を握る。
顔の前から手をのかすと、桜は泣いていた。
キラキラと輝く涙を見て、ダストはなんて美しいんだと思った。
「ダスト!」
桜がダストに抱きつく。
ダストも桜を抱きしめ返した。




