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手料理

 ダストの手がリズミカルに動く。

「そんなに細かくするんだね」

「桜の母はそうしていたぞ」

「そういえば、そうだったかも。私のアレはみじん切りじゃなかったね」


「あれだとさいの目切りだな」

「嘘よ。もう少し細かかったわ」

「みじん切りでないことは確かだ」

「まあね」


 細かく刻んだ玉ねぎをフライパンで炒める。

「すごーい。ペーストみたいになった」

「生のままだと水分がでるからな」


 灰色とも茶色とも呼べぬ濁ったスープを思い出す。

 その全く食欲をそそらない色をしたスープの中に、ぼそぼその炭と化した肉の塊があった。

 今から思うと、よくあんな物を人に食べさせようとしたものだ。


「粗熱を取っている間に、パン粉に牛乳を浸す」

 ダストがパン粉を手に取る。

「はい、スケール」

 桜は自慢気にスケールを渡した。


「ちゃんと計量するようになったんだな」

「もう。知ってるくせに意地悪言わないでよ」

「すまない」

 ダストは楽しそうに笑った。


 パン粉に牛乳が絡むようにヘラで混ぜる。

「ここでパン粉がしっかりと牛乳を吸い込んでからでないと、肉汁が外に出てしまうらしいぞ」

「そうなの? だからかぁ」

「いや、アレはそれ以前の問題だ」

 桜はぷぅっと頬を膨らませた。


「でも自炊って意外と不経済よね。自分で作るともっと安上がりだと思っていた」

「そうか?」


「下手すると、出来合いの惣菜を買ってきたほうが安いかも。ひとり分だと特に」

 パン粉を入れたボールに牛乳を入れる。


「例えばさ、玉ねぎ半分っていうけど、残りの半分はどうしたらいいのよ。次の料理も半分ならいいけど、一個ならまた半分残っちゃうし。四分の一なら、次の料理が四分の一とは限らないし。永久にキレイに使い切ることなんて出来ないじゃない」


「なぁ桜」

「なに?」

「桜の母は、そこまでレシピ通りに作っていないぞ」

「えっ⁉︎」


「調味料などは計量していたが、野菜の数や肉のグラム数などは、かなりアバウトだな」

「ええっ⁉︎」


「レシピとは別の食材を入れていることすらある」

「えええっ⁉︎」


「そもそも、きっちりレシピ通りのグラムなど売っていないだろう」

「そうよ。だから多目に買ってきて捨てるしかないのかと……」

「それはかなり不経済だな」

 ダストが眉を寄せて笑う。


「えっ、ちょっと待って。じゃあレシピより、多かったり少なかったりしたら、どうしたらいいの?」

「その分、調味料を加減したらいいだろう」

「え? ええ? えっ⁉︎」

 桜は混乱した。


「最初の失敗の仕方が不味かったな。完全に勘違いしている」


 キッチンに立つ母の姿を思い出す。


「そういえば、お肉とか計ってるの見たことない。それに、ちゃんと計量してたのって、初めて作る料理の時だけだったかも」


「まぁ、長年の経験もあるだろう。目分量ってやつだな」

「そんなっ!」

 ダストはまた笑った。


「もう。人ごとだと思って」

「悪い悪い」

 ダストはポンポンとサクラの頭を叩いた。

「さぁ。パン粉が牛乳を吸ったら次は卵だ」

 ダストは冷蔵庫から卵を取り出した。

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