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ピクニック

「こんな感じか?」

 ダストの姿が淡く光り、Tシャツとハーフパンツが変化する。


「いい!」

 桜は目を輝かせた。


 テーラードジャケットにロング丈のTシャツ。

 スキニーパンツにレザースニーカー。


「絶対こういうの似合うと思ったの!」

 桜は自分のチョイスの素晴らしさに感激した。

 桜の手には、ショウの写真集が握られている。

 ダストはそれと同じ服装になっていた。


「そうか?」

 ダストは胸元を触った。

「そっちのTシャツの方がいい」

 桜の渡したTシャツを指差す。


「これは部屋着。っていうか、そんな風に変われるなら、私の着る必要なくない?」

「嫌だ。桜のがいい」

「まぁ、部屋着くらい貸してあげるけど。でも外に行く時はダメ」


「女性用だから?」

「これはユニセックスだけど。こんな着古したTシャツで外に出るの嫌だよ」

「俺は嫌じゃない」

「私は隣を歩くの嫌だ」

「……こっちでいい」

「よし。じゃあ行こ!」


 桜も久しぶりに目一杯お洒落をした。

 花柄のカットソーに白のチュールスカート。

 髪を編み込みパールのアクセサリーを付けると、それだけで気分が上がる。


「どこに行くんだ?」

「ただでも楽しい所。それは公園!」

「公園?」

「そう。お金ないからね〜」

 桜は苦笑した。


「色々連れて行ってあげたいんだけど。ごめんね」

「桜と一緒ならどこでも楽しい」

「なら良かった」


 天気の良い土曜日。

 絶好のおでかけ日和だ。


「ちょっと遠いけど、頑張って歩くよ」

 電車代を節約するため徒歩で移動する。

 途中にある商店街を冷やかしながら行くと、思ったよりも時間がかかってしまった。


 博物館や植物園も併設する大きな公園に着く。

 大型遊具やアスレチックなどもあり、家族連れやカップルで賑わっていた。


「わぁ〜。変わってないなぁ! あっちに池があるの。行こう!」

 ダストの手を引く。

 噴水のある広場では、ピクニックに訪れた人たちがのんびりと過ごしていた。


 春の日差しは暖かく、ぽかぽかだ。

 タンポポやシロツメクサが咲き乱れている。


「私たちも食べよう」

 噴水の見える芝生にレジャーシートを敷き、弁当をひろげる。


「ここで食べる為に作っていたのか?」

「うん。って言っても、おにぎりだけだけど」

 材料がないため、おかず部分にはダストの作った唐揚げや煮物が詰められている。


「いただきまーす」

 両手を合わせる。

 桜はさっそく唐揚げを頬張った。


「う〜ん、美味しい。やっぱり私より上手じゃない?」

「遺伝子の情報のままだ。同じ味のはずだぞ」

「私が作ったのより美味しい気がする。ダストも食べなよ」

 ダストはおにぎりを食べた。


「うまい」

「でしょう。外で食べると美味しいのよ」

「ああ」

 ダストが二個目のおにぎりに手を伸ばす。


「おにぎりばっかりじゃなくて、他のも食べなよ。美味しいよ」

「こっちがいい」

 おにぎりは全部で四個作った。

 二個ずつの計算だ。


「ちょっと。残りは私のよ」

「桜は唐揚げを食べればいい。美味しいのだろう」

「そりゃ美味しいけど。ご飯も食べたいよ」

「無理だ。俺が全部食べる」

「なんでよ」

 弁当箱をダストが抱える。


「桜の作ったものを、もう一度食べたいと思っていた。次にいつ食べられるかわからない。だからこれは無理だ」


「そんな大袈裟な。次のお給料が入ったらなんでも作ってあげるよ」

 ダストが疑わしげに桜を見る。


「本当か?」

「本当よ。そもそもおにぎりなんて、誰が作っても同じじゃない」

「いいや。これが美味しい」

「なにそれ」

 真剣な表情をして弁当箱を抱えるダストを見て、桜は思わず吹き出した。


「だって桜が作ったやつだ」

「私とは、ずっと一緒にいるんでしょう?」

「ああ」

「だったら、これから何回でも食べる機会あるって。だから大丈夫」

 ダストがおにぎりを見つめる。


「そうか……。あっ!」

 桜が横からひょいっと一個取る。


「そんなに心配しなくても。大丈夫だって言ってるじゃない」

 桜がおにぎりにかぶりつく。

「あ、あぁ……」

 ダストが恨めしそうな顔をする。


「ほら、唐揚げも美味しいから」

 唐揚げをひとつとり、ダストの口に入れる。

「ん、うん。うまい」

「でしょう?」

 自分で作ったおにぎりも、青空の下で食べると特別な味がした。


「次のお給料が入ったらなに食べたい?」

「なんでもいいのか?」

「いいよ」

「じゃあハンバーグ」

 答えを聞いて、桜の顔が歪む。


「選りに選ってそれ? 他のじゃダメ?」

「なんでもいいと言った」

「どうしてハンバーグなの?」

「サクラが一番好きな食べ物だろう」

「まぁ、そうだけど……」


 桜の胸に苦い思いが込み上げる。

 人生で初めて作ったハンバーグ。

 外は焦げ、中は半生。

 しかし、苦いのは焦げたからではない。


(私はどうしてあの時……)


 何度も何度も反芻し、後悔した。

 しかし時は戻らない。


(お父さん……お母さん……)

 両親の顔がよみがえる。

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