茜さす
「はぁ、やっと終わった」
家に着くとため息が出た。
先生や友達の質問をかわすのに妙に気疲れしてしまった。
部屋の中に西日が差している。
赤い夕日のせいで、部屋の中は真っ赤に燃えているようだ。
「帰ってない、か……」
そこにダストの姿はなかった。
夕日が沈み、部屋の中が暗くなってもダストは戻らなかった。
桜は電気をつけるのも億劫で、真っ暗な部屋の中、クッションを抱えた。
「おなか、空いたな……」
部屋の隅に重ねてある料理を見る。
「ダストがいなくちゃ、食べられないじゃない……」
桜にはよくわからない理屈で、料理はカチンコチンになっている。
レンジにかけたところで、別次元にある料理を元に戻せるとも思えない。
「冷蔵庫の中も空だしなぁ。ダストのせいで!」
誰もいないのに、わざと大きな声で言った。
「お金もないしなぁ。ダストのせいで!」
もしもあったとしても、とても料理をする気にはなれなかっただろう。
それなのに、ダストのせいにした。
そうすることで、少しでもむしゃくしゃが収まればいいと思った。
しかし腹立ちは少しも収まらなかった。
「なによ。本当にいなくなることないじゃない」
クッションを自分の膝に打ち付ける。
「ここから消えろって言ったのは私だけどさ。学校からってことであって、なにも本当に消えることないじゃない」
クッションに向かってパンチをひとつ。
「大体。生まれたばかりの存在なんでしょう。行くとこないんでしょう。どこ行ったっていうのよ」
パンチ、パンチ、パンチ。
「これじゃなんか、私が酷い人みたい……」
どこに行けばいいのかわからない不安は、桜にはよくわかるつもりだった。
明日どこに行けばいいか。
今日どこで眠ればいいのか。
そんなことすらわからない日常は、とても辛い。
「勝手なことしたのはダストなのに……」
クッションの上に置いた手を握り締める。
「もう! 世話の焼ける!」
桜は立ち上がった。
鍵だけ持って外に出る。
アパートを出ると、とりあえず勘で右に向かう。
戸建ての家が立ち並んでいる。
自動販売機や電信柱の影を見て回る。
「猫じゃあるまいし。こんな所いないか」
そう言って踵を返す。
左手は、コンビニや弁当屋のある大通りだ。
店の中も見て回るが、そこにもいない。
「どこ行ったのよ」
ひとつだけ心当たりがある。
しかしそこに行きたくなかったので、避けていたのだ。
「仕方ないな……」
桜はアパートに戻った。