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寝不足の日に

「おはよう、桜」

「あ、杏奈、おはよう」

「どうしたの? ぼんやりして」

 声をかけられるまで、杏奈が近づくのに気づかなかった。


「なんか今日も疲れてるみたい。本当に大丈夫?」

 杏奈が心配そうな顔をする。


「へ、平気よ。大丈夫大丈夫!」

 両手を振って答える。

 まさか自分好みの顔をつくるため、寝不足になったなどと言えない。


「それに今日はバイト休みだから」

「そうなの? じゃあうち来る? 録画したショウの番組見ようよ」

「あ、ごめん。バイトは休みだけど、早く帰らなくちゃいけなくて」

「そうなんだ」


 途端に杏奈がしょんぼりとする。

 そこへ恭平が登校してきた。


「お前、また勝手に座るなよ」

「いいじゃん別に。減るもんでもあるまいし」

 杏奈がふくれっ面をする。


「俺が座れねえだろ」

「こっちに座ればいいじゃん」

 桜の隣の席を指す。


「意味わかんねえ。お前がそっち座ればいいだろ」

「私は少しでも桜の近くにいたいのよ」


 一列ずつ席を並べているので、隣の席よりも前の席に座った方が距離は近い。


 恭平は呆れた。

「知るかよ」

「なによ。恭平のケチっ!」

 杏奈が恭平の脇腹にパンチする。

 そこで予鈴が鳴ったので、杏奈は自分の席に戻った。


「なんだよ、あいつは」

 そう言いながら頭をかく恭平の耳が少し赤い。

 後ろの席に座っている桜しか気がつかなかっただろう。


 赤くなった恭平の耳たぶを見ていると、本鈴がなった。

 担任の渡辺が教室に入ってくる。

 そのあとに続いた人物を見て、桜は思わず声を上げた。


「なっ!」

 大きな声だったので、何人かは桜の方を見た。

 しかしほとんどの生徒は、教室に入ってきた見慣れぬ人物を見ていた。


 渡辺が生徒に向かって声をあげる。

「ダスト君だ。今日からクラスメイトになる。仲良くするように」


 渡辺に続き入ってきたのは、男子用の制服に身を包んだダストだった。


 慌てて己の口に蓋をするが、ダストは素知らぬ顔をしていた。


「席は……」

 渡辺の言葉を遮り、ダストが桜の方を指差す。

「先生、あそこですよ」

 ダストの指先が一瞬光る。


(あっ!)

 桜は気づいたが、今度は声に出さなかった。


「そうだ。そうだったな。高井から後ろはひとつ後ろにずれなさい」

 高井とは桜の隣の席の人だ。

 指示に従い生徒たちがガタガタと席を移動させる。


「あれ? 机がないな……」

 渡辺が不思議そうにする。

 すると、またしてもダストが光った。


「暁月、ダストと一緒に行ってくれ。多目的室に予備の机があるはずだ」

 桜は渡辺に名指され、ダストを睨んだ。


(なんで私が……)

 そう思ったが、言いたいことはいっぱいある。

 桜は何も言わずに席を立った。

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