理想の顔
翌日、眠い頭を振り切って、桜はなんとか身を起こした。
「う〜眠い」
「おはよう」
ラグの上にダストが座っている。
「起きてたの」
「あぁ」
ダストはなんだか嬉しそうだ。
「また冷たくなってない?」
「平気だ」
昨日のように冷たくなっては困るが、布団は一組しかない。
ラグが敷いてあるので下はいいとして、あとは夏用のタオルケットしかなかった。
仕方がないのでタオルケットの上にバスタオルを何枚か重ねてみた。
顔色はいいので寒くなかったようだ。
「元気そうね」
「桜は元気ないのか? 顔色が悪い」
目の下にクマができている。
「ん〜、大丈夫。ただの寝不足」
好みの顔を作れることに興奮し、昨夜は調子に乗り過ぎた。
しかしそのおかげで、ダストの顔は、ショウの面影を残しつつも、完璧に桜好みの顔に仕上がった。
くっきりとした二重瞼。
高く通った鼻筋に、大きな口。
南国系の濃い顔だ。
男性らしい顔立ちだが、垂れた目元が甘い。
明るい日の下で見ても、その仕上がりは完璧だ。
「顔洗ってくる」
制服一式を持ち、ミニキッチンに立つ。
この家に洗面台などないので、洗顔もここでする。
制服に着替え部屋に戻る。
「朝ご飯、どれ食べようかな」
桜は山盛りになった料理を見た。
料理は空間ごと凍結してあるとかで、カチンコチンになっている。
広げておくと邪魔なので、部屋の隅に積み重ねている。
「ピラフにしよっと。ダストも同じでいい?」
「ああ」
「んじゃよろしく」
ダストの手が淡く光り、ピラフから湯気が出る。
「いただきまーす」
向かい合わせに座り、小皿に取り分ける。
食べると、自分が作ったものと同じ味がした。
また母の味がするかと期待していたので、少し残念だった。
「今日も行ってはいけないのか?」
「なにが?」
「学校だ」
「ダメに決まってるじゃない」
「服装のことなら問題ないぞ」
そう言って、ダストが光る。
桜の通う高校の男子用の制服へと変わる。
「それも遺伝子の情報?」
「そうだ。これで問題ないはずだ」
「あるある。大ありよ」
「何がだ?」
「だって、他の人はダストのこと知らないのよ? 突然来たらびっくりするわ」
「それも問題ない。記憶の操作ならできることが昨日証明された」
「それでもダメよ。だって学校にいるのは、ひとりやふたりじゃないのよ? 生徒だけでも何百人もいるわ。先生だっている。すれ違う人とどんな関わりをもつことになるかわからない。すれ違う人全ての記憶を操作するつもり?」
「必要ならば」
「だめだめ。リスクが高すぎるわ。家にいて。今日はバイトないし、早く帰ってくるから」
ダストは不服そうな顔をした。
「それより、食べないの?」
「食べるよ」
ダストが口に入れたのを見て、桜もピラフをかっこむ。
「ごちそうさまっ! じゃあ行くね。お皿よろしく」
流しに皿を置き、桜は家を出た。