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真夜中の訪問者

 ふたりしてハンバーグを頬張っていたら、玄関のチャイムが鳴った。


「こんな時間に誰だろう」

 桜は覗き穴から外の様子を伺った。

「誰もいないや」

 部屋に戻るやいなや、またチャイムが鳴る。


「なによもう」

 立ち上がり、覗き穴を覗く。

 しかし誰もいない。


「いたずらかな」

 子どもがいたずらをするにしては時間が遅い気がする。

 時計を見ると、まもなく日付は変わろうとしていた。


 しかしまたチャイムが鳴る。

 桜は鍵を開け玄関を勢いよく開けた。


 普段なら決してそのような行動はとらない。

 しかし男性の姿をしたダストが一緒にいることで油断した。


「誰よ!」

 ドアを開け叫んだ途端、覗き穴の死角から女が飛び出した。

 女は桜を押しのけ玄関に入る。


「きゃー! やっぱり!」

 女が甲高い声を出す。


「ショウだ! 見間違いじゃなかったのね!」

「ちょっと、あなたなんですか」

 桜は女の肩をつかんだ。

 しかし女はきっと振り返ると、桜を睨んだ。


「あんたこそなによ。まさか、ショウの恋人だなんて言わないわよね」

「はあ⁉︎」

「あんたなんか、ショウの恋人に相応しくないんだから!」


 桜は突然現れた訳の分からない女に腹を立てた。

「ちょっと、出て行って下さい」

 女を外へ向け引っ張る。


「離しなさいよ」

「出て行けば離します!」

 ふたりの女が揉み合っていると、ダストが玄関先までやってきた。


「きみ……」

 女がぱっと振り返る。

 女を引っ張っていた桜は、突然かわされ前につんのめった。


「出て行ってくれ。ここは桜と俺の部屋だ」

 ダストは、玄関へダイブした桜の襟首をつかみ、部屋の中へと放り込んだ。

 呆然とする女を外に押し出し扉を閉める。


 ばたんという音がした後、女の金切り声が響く。


 桜が慌てて鍵を閉めたのと、ドアノブがガチャガチャと回されたのは同時だった。


「いつからあんたの部屋になったのよ!」

 念のためにチェーンロックもかける。

「てか今のなに⁉︎」

「しらん」

「誰よ⁉︎」


「あれはたしか、レジにいた女だ」

「レジ?」

「食材を買いに行ったスーパーのだ」

「外に出たの⁉︎」


 先ほど聞いたはずだが、あの時はお金のことで頭がいっぱいだった。


「食材がなければ料理は作れないぞ」

「外には出ちゃダメって言ったじゃない!」

「服はちゃんと着替えたぞ」

「服ってなによ!」


「サクラは『男女で制服が違うの。そんな格好で絶対に外に出ないでよ』と言った。だから男性用の服に着替えた。だから外に出ても問題ない」

「え〜っと。そんな言い方したような気もするけど」

「気もするではない。確かにそう言った」


 桜の言った部分は、声まで桜と同じになっていた。

 ダストの言ったことは一言一句間違っていないのだろう。


「あれは外に出るなという意味だったんだけど……」

 語弊のある言い方をしたのは桜のようだ。

 ダストに行間を読むような真似はできないのだろう。


「どんな格好をして行ったの?」

 ダストが今エプロンの下に着ているのは、桜が渡したTシャツとハーフパンツだ。


「これだ」

 ダストの姿が淡く光り服装が変わる。

 写真集で見せた服と同じだった。


(まだマシな方か。これが歌う時の衣装だったら……)

 想像し、ぞっとした。


「しかしうるさいな」

 ダストが嫌そうに玄関を見る。

 ドアの先ではまだ女が叫んでいる。


「どうしよう……」

 このままでは警察に通報されかねない。

「あの女はなぜ叫んでいるのだ?」

「ダストをショウ本人だと思ってるみたい」

「そうか」

 そう言うと、ダストはおもむろに扉を開いた。


「ショウ! 私のショウ! やっと出てきてくれた!」

 女がダストに抱きつく。

「あの女の呪いが解けたのね。これでもうずっと一緒よ。離さないわ」


 女の言葉に桜が引く。

(あ、これヤバイやつだ……)

 桜はダストを見た。


 ダストは抱きついている女の頭を鷲掴みにし、力任せに引き剥がした。


「ショウ?」

 女の顔が引き攣る。

 しかしダストの手が淡く光ると、見開かれた女の目がトロンとなった。


「あら、私……?」

「きみの家はここじゃない」

「そう……。そうね」

「早く自分の家へ帰れ」

 女が踵を返し去って行く。


「なに? 今の」

「少し記憶を操作した」

「記憶を? なんでもありね」

「そんなことはない。できないこともある」

「ふ〜ん。取り敢えず助かったかな?」


 女がアパートから去ったことを確認すると、ふたりは部屋へ戻った。


「でもこのままじゃまずいわね」

「まずい? 美味しくなかったか?」

 ダストがハンバーグを見る。


「違う違う。ハンバーグは美味しかったよ。そうじゃなくて。顔よ、顔」

「顔?」

「このままショウの顔をしていたら、また騒ぎになっちゃう」

「違う姿になろうか?」

「でも、誰をトレースしても問題が起きる気がするなぁ」


「では混ぜるか」

「混ぜる?」

「ああ。この顔をベースに、パーツを違うものに変える。そうすると誰とも同じにならない」

「そんなことできるの⁉︎」

「今日一日、色々と試してみた」


「じゃあね〜」

 桜はウキウキとテレビをつけた。

「まずは輪郭をこの人にしてみてよ」

 ダストの姿が淡く光り輪郭が変わる。


(きゃあ! これって、完璧に自分好みの顔が作れるってことじゃない⁉︎)

 桜は諸々の問題を全て棚上げし喜んだ。

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