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鬼娘と煎り豆と僕  作者: 室内あるみ
1/1

鬼娘と煎り豆と出合い頭

「鬼はー外」

「福はー内」


 節分の豆まきの一般的なセリフだろう。

 地域によっては、逆の言葉を言うこともあるそうだが、それは鬼が悪の対象ではなく、悪者をやっつける存在だと考えられているかららしい。


 さてはて異形のいることが当たり前のこの世界。

 街を歩けばろくろ首のお姉さんが試供品のジュースを持っていたり、ぬりかべが土木工事の手伝いをしていたり。まぁ当然、日本と縁深い「鬼」という存在も人と一緒に生きている。

 だから、彼女とぶつかった時も、それほど珍しくないと思ったんだ。まぁシチュエーションがアニメや漫画に限られてくるという突っ込みはあるけれど。


 その日もなんともない朝だった。春の陽気に包まれた中。いつものように、学校に向かう通学路。別にトラックに轢かれるわけでもなく、かといって車に轢かれそうになっている美少女を助けるわけでもなく。

 それなりに人通りのある商店街を、のんびりと歩いていた時のことだった。


ドン!


 目が眩んだ。

 気づいた時には尻もちをついていた。

 何かとぶつかったと気づいた時には、ちょっとだけ思考が回った後、どこからともなく羞恥心が湧き出てきた。

 さぁ、何とぶつかったんだ僕は。電柱だったら恥ずかしいぞ。

 ひよこの飛んでいそうな頭の上を声が飛んでいく。


「さやかー!お弁当持ったー!」


 あぁ、うん。関係ない言葉だった。

 改めて眩んだ目を開いて、前を見る。

 商店街のタイル道に持っていたカバン。


「あれ?」


 目の前には何もない。

 うーん、何とぶつかったんだ?周りを見回すと、走っていく影。同じ学校のセーラー服に身を包んだ少女が商店街を猛スピードでかけていく後ろ姿。頭からチラリと見える2本の角。

 思考が回り始め、一つの答えをはじき出す。


「はぁ・・・」


 まぁ、ぶつかった人が怪我していないみたいだし、僕も怪我をしていない。特に問題もないわけだし、道の端の方をノロノロと歩いていた僕にも落ち度はある。

 ただ、なぁ。当て逃げってどうなのよ?

 一言ぐらいあってもよかったじゃないか。よっぽど急いでいたのだろうか、そう言えば時間はどうだろう?

 ふと考えが到り、腕時計を見た。


「やばっ」


 時刻8時半。いつもギリギリをギリギリで攻めているから、このままだと遅刻する可能性もありそうだった。

 鞄を持って靴の紐直すと、気持ち駆け足で学校へと走る。





「面白れぇツラしてるな、加藤?」

「えぇとなんですかね、教頭先生・・・」


 朝からテンション急降下。朝から当て逃げに遭うわ、学校に遅刻するわ、散々である。こんなに大失敗するなんて今日のおとめ座の運勢は悪かったかな、と現実逃避。無論場所は、学校の校門である。


「入学式初日から遅刻とはいーいご身分だなぁ!」

「これには事情がありましてぇ!」


 空から落ちてくる拳骨を真剣拳取り。素早い速度で振り下ろされた拳骨は受け止めようとした両手をすり抜け、今日再びのひよこタイム。


「保健室行ってこい!馬鹿もん。入学式に頭から血を流した生徒会役員なんて居らんぞ!」

「頭から・・・血?」

「なんだ、気づいてないのか?おでこに2本も血が垂れてるぞ・・・」

「えぇ、うそぉ・・・」

「見てるだけで痛ぇ、さっさと行け馬鹿もん!」


 急いでおでこを右手で拭う。べっとりついた鉄分たっぷりな血の色。思わず「うぇっ」と来る。

 なんでこんなに血が・・・って今朝の鬼娘か!

 ついてない・・・なんでこんな日に限って・・・

 時計を見れば、まだ入学式までは時間がある。急いで保健室に行けば間に合う時間だ。

 教頭先生に一礼して校門をくぐり、校舎へと急ぐ。ハンカチで血の出ているところを抑えて、気休めかもしれないが、やらないよりマシ。

 落ち込んだ気分を盛り上げるためになんとかポジティブ思考に移そうとするが、無理だ。僕は今日悪いことしてないはずなんだけど。まぁ今朝のあれは誰が悪いわけでもないし、仕方ないのか。

 でも僕自身が許さない、覚えておれ同じ学校の鬼娘め!見つけたら、それはもうすごい・・・すごい・・・うん、とりあえず怪我しないように今後は注意してほしいってぐらいか。

 校舎に入ってすぐそばにある保健室の扉を開く。


「おはようございまーす」

「はーい、って珍しいお客さん。どうしたの?」

「ちょっと怪我しまして」


 出迎えたのは小豆婆ぁの幼体?の小豆先生。伝承で知られている名前とは全く違って背筋の伸びている平均程度の身長に、可愛らしい年齢相応の顔。しかし手の間に小豆の入った桶が収まっているのは名前通りか。言ったところで「小豆お姉さん」である。

 ジャラジャラと鳴る小豆を置いて、怪我の様子を見た先生は手早くガーゼと消毒液を取り出して、処置していく。

 小さい綿の玉に染み込んだ消毒液が傷に当たるたびに声が漏れる。

 それも我慢すると、大きなガーゼがおでこにペタン。

 机の上の鏡で確認すると、これまた恥ずかしい位置にある。まるで小学生のやんちゃな子供が怪我したみたいな位置だ。


「ありがとうございました」


 失礼します、そう言いながら扉を閉めると感じる視線。ガーゼは白いから黒い髪の傍だとより目立つ。

 階段を上り、目的地である生徒会の部屋に進んだ。

 3階まで来ると流石に視線も気にならなくなってきた。部屋に入るといつも通りの面々が出迎えてくる。

 そのまま自分の席につくといつも横に座っている佐藤が話しかけてきた。

 ガーゼを見た佐藤は一瞬だけ驚いた後、口に手を当てて笑う。


「加藤、すげぇな。怪我か?」

「うん、朝ぶつかってねぇ」

「そんなに大きなガーゼってよっぽどだったんだな」

「災難だよ。まぁ入学式早々、小豆先生に合法的に会えただけラッキー」

「はぁー優等生だなぁ」

「皮肉って分かってる?君のことを言ってるんだよ。ずる休み生徒会長」

「げぇ・・・」


 佐藤は生徒会長の癖して不良だ。授業に飽きるたびに保健室でずる休みしていることは公然の秘密。先生たちには病弱インテリ生徒会長を演じているが、その中身はとんでもない奴だったりする。

 佐藤みたいなやつだったら今朝の出来事を何事もなく流せてしまうのだろうか。僕には無理だ。多分ここ1週間は根に持つ。それとあの鬼娘には少しお小言を言ってしまうだろう。

 そんなことを考えながら、自分に割り振られた広報の書類を終わらせるべく、パソコンを立ち上げた。鞄の中から作業のお供の煎り豆を取り出すと、子袋を破って、まず一粒。

 煎り豆はいい。手は汚れないし、適度な大きさで手で摘まめる。なにより炒った風味が効いていて、触感も悪くない。節分の時には歳の分だけ食べるが、普段食べるおやつにもぴったりだ。

 パソコンのキーボードを叩いていた時のことだった。


「失礼します。新入生代表のあさくらさやかです」

「はいはーい、生徒会長の佐藤です。こっちが広報の加藤。他の皆は出払ってるけど、直に来るから待っててください」


 新入生代表の生徒だった。入学式の挨拶をするからそのためのスピーチをあらかじめ渡されていたはず。まぁ1学年150人居るんだから、相当優秀な生徒なんだろう。

 ふと画面から目を離して様子をうかがう。

 しっかりと着こなされた制服に、控えめな胸。健康的な肌色に薄い色の唇。アンダーレスの四角い眼鏡を持ち上げるお淑やかな仕草。キリッとした赤い目。髪の毛は黒髪の短髪で前髪はぱっつんに。そして自己主張激しい赤の差し色が目立つ黒い、鬼の角。


「って今朝の鬼娘じゃねぇか!」

「ゲェッ、豆男!」

「豆男ってなんだ!」


 思わず声を上げると彼女は振り返って指をさしてきた。続く言葉は「豆男」。

 反論すると彼女は少し俯きながらぼそぼそと呟き始めた。


「その・・・角で怪我させたのは、悪いと思ってます。でも!なんで鬼の私とぶつかって豆を落とすんですか!明らかに酷いですよ!」

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