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エピローグ ハルちゃん

 昼下がりの学生食堂の片隅には誰もいない。剥がれかけた学祭向けのチラシを見ていると、この大学での生活も終わりが近い事を思い出させる。最近は毎日こんな風に考え事をしているが、答えは出ない。


 「ああ、私ってば何やってんだろ……」



 私、遠野春香は好きだった人を追いかけて、浪人までして北海道までやって来た。確かに楽しく充実した学生生活だったと思う。居なくなった彼に何ら責任はないし、自分で選んだ事だ。後悔はない。ただのよくある失恋だ。きっと、おそらく地球上の人達みんなが誰しも経験しているはずだ。しかも一回だけではないだろうし、もっともっと辛い思いや悲しい想いをした人はたくさんいるはずだ。気をとりなおして次の恋をすればいい。


 そう思いながらも、じわっと感情が昂ぶり涙が溢れてくる。そのくらい頭と心?体?はかけ離れているのか、抵抗しているのだろうか…… 自分の事は良くわからないという事がよくよく分かった。


 ボッーと食堂の窓から見える運動場を見ていたら、意図せず、いつしか私は7年前のあの日のことを思い出していた――



………………



 

 「ハルちゃん。……あっ、周りの女子がそう呼んでたし、とても、遠野に似合っていたから、つい呼んじゃった。ごめん。あの、スパイクのピンが余ってる人探してるって聞いたから、その短距離用だけど……」


 陸上部の部室の前で、アップシューズでやるしかないか、と悩んでたいた私に、その少年、小杉真が話しかけてきた。彼は同じ陸上部の新入部員だ。


 「あっ、助かる!……ありがとう、えーっと、マコちん。で、良かったよね?」


 私は中距離だから、そのピンは長いけど、恥ずかしそうにピンをくれた彼の気持ちを思うと受け取ってしまった。彼はあまり喋らない方で、それ程目立たないタイプだったから、少し意外だった。それが彼との出会いだった。




 高校生活は勉強と部活だけの華のない質素なものだったが、彼とのやりとりは、少し異性を意識するものに変わっていった。そんな矢先、彼が人が変わったように勉強や部活に一生懸命になりはじめた。性格も明るくなり、友達も増えていった。お姉さん役を自負していた私の居場所もどんどん小さくなっていき、彼女、桜木美月と付き合うようになってからは、ただの部活友達に変わっていた。寂しくはなかった。何故なら以前のような頼りなさげな彼はどこかにいってしまったようだったから……



 しかし、高校二年になってから、彼がまた変わってしまった。元気も無く、頼りないあの初めて声を交わした彼に戻ったかのように。それからはまた彼への気持ちが強くなっていった。桜木さんとは付き合っているようだったが、幸せそうには私には見えない。だから、余計に気持ちが募る。しかし、私にできるような事はないと思っていた。



 高校卒業の時になり、彼等は別れた。そして彼は北海道へ行ってしまう事になった。チャンスが来たと思った。第1希望は彼と同じ北大にした。自信もあったし、模試も併願した私立大学も完璧だった。しかし、第1希望だけ落ちてしまった。大学受験に失敗した私は、同程度かそれ以上の偏差値の合格した私立大を勧めてくる親の反対を押し切り、浪人を選んだ。




…………


 一年遅れで入学した大学で彼を見つけた時、彼は相変わらずの見窄らしい感じだった。何故だろう、今度こそ私が一緒にいるんだと強く思った。



 それからの三年弱の期間は夢のようだった。学生生活は自由で、勉強もサークルも楽しく、一人暮らしも向いていたのか、快適だった。何より小杉真と仲良くなれた。近くに居れた。私が欲しかったのはこんな生活、というものをそのまま実現した感じだった。


 だから、それだからこそ、あの日突然桜木ミツキが現れた時に、やな予感がした。ああ、また彼女に彼を獲られてしまう。



 やはり、彼は彼女と一緒に行ってしまう。それも二度と会えない場所へ。大学受験みたいには、もう追いかける事すら出来ない。


 ただ、全てを知った時、小杉真が何故このように生きて来たのか、どうしてああいう人何だろうかという疑問がすっかり無くなった。だから私は彼の手を離してしまったのかもしれない。



………………




  私はとても後悔している。彼がいなくなってよくわかった。


 「ふー。さてと、それじゃあ身の周りの整理でもしますかね!!」


 私の思いはやっと固まった。

すみません、次で最後になります。

ハルちゃんのことちゃんと書いてたら、長くなりました。

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