終章 8節 ウォシュレット
産業用の幹線道路沿いには外食店が多い。異世界組の話では、寿司と蕎麦あたりはちょっと感じが違うようで、こちらで食べたいという話になった。蕎麦は日持ちも良いし、念のため蕎麦の種子も持って行けば良いという話になり、今日は寿司を食べに行く事になった。
ちょうどいい感じに近くに全国チェーンの寿司レストランがあり、そこに行く。割と混雑していたが、運良く四人用のテーブルがちょうど空いていた。
早速寿司を食べながら話の続きをする。
「とりあえず、文明レベルはどのくらいなのかしら?例えば、水洗トイレ、ウォシュレット、シャワー等はあるのかしら?そもそも電気を使うシステムはある?」
桜木さんが最初に質問した。……うん、それは確かに気になる。ゲームとか、テレビとかはあるのか!?
「うーん、残念ながらそのあたりは厳しそう。水洗トイレやシャワーはあるけど、ウォシュレットはないわね。文明レベルは数百年単位で遅れているかも。コンビニなんか当然ないからね。ただ精密な電子機器以外なら開発出来るものもあるだろうし、違う手段で対応できるかもしれないわ。」
「違う手段とは?」
「まぁ分かりやすい表現をすると魔法の類いね。まぁこればかりは来てもらわないと二人にはイメージ出来ないかな。それに魔法といっても万能でもないし。あまり期待しない方がいいかも……」
「治安は?医療や仕事とかは?あとは差別とか社会構造は?」
「治安は街によるわね。医療は……うーん、どちらの世界が進んでいるかは決めがたい。仕事はたくさんあるし、こっちの世界の人間には大事な役割があるから、いくらでも。差別はあるわね。人以外の人類がいるから、まあね。社会構造は、中世封建体制が近いと思う。」
「食事は美味しい?戦争は?そもそも生きやすいの?」
「食事はこっちの方がいいと思う。でもまあ、あっちにしかないものとかもあるから不満はないわね。戦争は真っ最中よ。だからそのために頑張っている。なんとかしたいの。……生きやすさは、うーん、……生きやすい世界だとは思う。ストレスとかないかも。生き方が自由だしね。」
立て続けに質問攻勢をかけていた桜木さんが考え込んでしまった。じゃあ、僕からも聞いてみるか?
「なんで、戦争しているの?危険では?平和が一番じゃないの?」
「信じてもらえないかもだけど、向こうの世界に行くとね、こっちの人間は、……そう、スーパーマンみたいになるの。力も強く頑丈で人それぞれの個性による独自の異能力まで発現するのよ。それに、こっちみたいな事故や事件は殆どないから、どっちが安全か微妙なラインね。戦争さえ終われば向こうの方が平和だと思う。」
「やっぱり、ファンタジーだね。」
「そうね。ただレベルアップや蘇生は出来ないから……ゲームじゃないしね。」
…………
僕ら四人はしばらく話続けた。現実感はないが、だいたいは把握できた。食事も終わり満腹になったころ、桜木さんが質問する。
「ちなみに、率直に聞くけど、二人はどっちが残りたいとか希望はあるの?」
「まぁあるにはあるんだが、強い希望でもないし、こっちの二人次第と決めてきたんだ。だから、それは気にしないでいいから。」
マコトがすぐさま答えた。きっと聞かれる事も考えていたんだ。
「小杉くんはどうかな?私はちょっと抵抗がある。今まで築いてきたものを放り出してまで行くかと言われると、ちょっと……ウォシュレットがないのもかなりのマイナスね。……マコトが戻って来てくれるなら、それで充分。」
「僕は、……出来れば異世界に行ってみたい。いろいろなゲームや漫画、アニメの続編が手に入らないのは非常に心残りだが、もっと面白い事ありそうな気がして。だから、僕が行くよ。超人的な身体的能力、異能力なんて興味あるしね。」
「確かに、生き甲斐みたいなものは感じるよ。なんか熱いぜ向こうは!じゃあ、俺が残ってやるか!」
マコトは僕の答えを予想していたようだった。女子二人も異論は無いようだ。
僕は向こうの世界では食べれない寿司をもう少しだけ食べながら言った。
「なんか楽しみになってきたよ!よし、まずは飯食う!」
そうして僕とマコトが入れ替わる事になった。




