終章 4節 帰京
ハルちゃんにお別れを言ったあと、僕は朝一の飛行機で帰京した。
僕は自宅に荷物を置いて、すぐにあのアパートに行った。彼女がいるならここしかない。しかしアパートの鍵は閉まっていた。チャイムを鳴らしても反応がない。
ここにいてもしょうがないと思った僕は、桜木さんの家に向かった。以前ミツキさんに連れて来て貰ったから、覚えている。
チャイムを鳴らすと執事らしき人が応対をする。僕は美月さんの友人で急いで会いたいと伝えたが、彼女も留守らしかった。
無策で動き過ぎた事を後悔しつつも、考えてみた。何が今出来るか?玄関前で立ち往生しても不審者扱いされかねない。僕はとりあえず移動しようとした時、桜木さんが向こうから歩いてくる。相変わらず凛々しい佇まいだ。
「小杉くん、突然どうしたの?何かありましたか?」
やはり、彼女はミツキさんのことを未だ知らないようだ。
「ミツキさんに会ったんだ。北海道で。昨日の夜。あれが君じゃないなら、間違いない!」
桜木さんのこんなに驚愕した表情は見た事がない。
「とりあえず、中へ。何が起きたのか、全て教えてください。」
僕は初めて彼女の自室に通された。広い部屋でここだけで8人くらい暮らせるのではないだろうか。
「先ず確認したいんだが、昨日は北海道に来てないよね?」
焦っている僕は少し言葉が乱暴かもしれない。
「……ええ、昨晩、遠野さんからも同じような質問されましたが、ずっと家にいました。」
――やはり、ハルちゃんの言った通りだ。彼女はハルちゃんとは言わない。
僕は彼女の家のメイドから出された紅茶を一口飲んでから、昨日からの出来事を全て話した。
「……まさか、そんなことが……」
さすがの桜木さんも、直ぐには受け入れられるようには見えない。
「マコトは?……マコトも戻って来たの?」
「昨日は居なかったが、戻って来ていないとは断言出来ない。だから先ずはミツキさんの行方を探して話さないと。先に言うけど。アパートには居なかったんだよ。」
僕は桜木さんの冷静かつ天才的な判断を頼る。
「アパートに居ないなら、K市のあの民家に行きましょう。車を出してもらいます。続きは車の中で話ましょう。」
僕らは、車に乗り込むとお互いの考えを出しあった。そういえば、以前もこんな事があったなぁと思っていると、桜木さんが神妙な面持ちで聞いてくる。
「仮に何らかの事情があるにせよ、何で私達に声をかけないのかしら?」
「確かにそこは腑に落ちない。僕達の信頼関係なら何があってもコンタクトしてくるべきだ。むしろ彼らには他に頼りになる人はいないだろう。だからこそ、K市の謎の2人が怪しいとも言えるか……」
「そうよ。ただこちらに言えない何らかの事情があるなら、逃亡の恐れもあるかもしれない。」
「でも彼女は北海道に来た時に僕に聞いたんだ、今幸せか?って。そうだと言ったら、元気でねって帰ったんだ。あの時、もしハルちゃんがいなかったら、正体を明かしてくれたかもしれない。」
「うん、なるほどね。健気なところが私らしいわ」
僕は、ぷっと吹き出してしまった。彼女は本気でこういうことを言うから面白い。
「こんな時に冗談を言うとは思わなかったよ。」
「……もう着くはね。どうする?」
「もちろん、最短ルートの正面からだ。また居なくなっても困るからね。」
「……じゃあ、私が行くわ。あなたは少し興奮しすぎてるようだから。」
家まで数分の場所で車から降りると、桜木さんが先行していく。玄関の前でポーチの扉を開け入っていく。何の躊躇もないようだ。本当に頼りになる。
しかしこの時予想外の事が起きた。玄関のドアが内側から開いて、中から男が出て来たからだ。
「あれ?ミツキさん、なんでここに??さっき二階にいなかったか?あれ?」
「マコト、さっきじゃないわ、3年ぶりよ」




