終章 3節 おかしな話
「この話は、僕と桜木さんしか知らない話なんだ。だから何があっても秘密にして欲しい。」
「……わかった。話を続けて。」
ハルちゃんはいつになく真面目な顔をして聞いている。僕は初めてマコトと会った時から一つ一つ丁寧に説明した。僕らにドッペルゲンガーのような二重存在がいた事。二人は一年も経たずにいなくなってしまった事。そして僕と桜木さんはお互いの大事な人を失った事。桜木さんとは高校生の間二人で頑張ろうとしたが、結果的に別れた事。
そうして僕は、ハルちゃんに全てを打ち明けた。
「悲しいお話なのね。……思い当たる節がたくさんある。1年生の途中から人が変わったようにいろいろ頑張ってたよね。2年生になった時、元のマコちんに戻ったけど、100mのタイムがひどく落ちたよね。それに北大に来た理由……みんな納得だよ!」
「ハルちゃん……」
ハルちゃんは僕のおかしな話を信じてくれる。ただ彼女の中で何か気になり始めたのか暗い顔をして黙っている。僕が今出来るのは紅茶のお代わりを入れる事と彼女から質問があったら何でも正直に答える事ぐらいだ。
もう終電も無くなる時間だ。僕は彼女を巻き込んで良かったのだろうか。自惚れかもしれないが、浪人してまで、こんな遠くまで追いかけて来てくれた、優しい女の子の人生を僕は台無しにしていないだろうか。
僕にはハルちゃんが必要だ。彼女と一緒にいれば一生幸せになれる気がする。その一方で、短い間だったが一緒に過ごしたミツキさんにどうしようもなく惹かれる思いがある。……最低だ。
「マコちん……」
ハルちゃんが顔あげた。
「マコちんが今何を悩んでいるか分かるよ。私のことどうしたらいいかわからないんだよね?」
「ハルちゃん……」
「私ね、マコちんの事ずっと前から好きだったの。今も大好きなのですよ。だから今凄く幸せなの。だから、一人になるのは嫌。でもそれが分かるから、優しいマコちんだから困っているんだよね。」
――その時、ハルちゃんのスマホが振動した。ハルちゃんが、メッセージを送っている。
「……桜木さん、今日は家にいたみたい……」
――ああ、やはりさっきの彼女はミツキさんだった。
「マコちんは行くべきです。会って話して来なさい。……で、もし、もしも振られちゃったら、私のところに戻って来て。……しょうがないから、……許してあげます。」
ハルちゃんの涙は見ていられなかった。僕のことをこんなに考えてくれている。抱きしめてあげたいが、今の僕がしていい事ではない……
後悔している。あの時なんで本当のことを話せなかったんだろう。あの時就職希望が何故K市なのかしっかりと話していれば、こんなに悲しませることにはならなかったかもしれない。
どのみち僕が卒業したら、また離れてしまうのを寂しく思うのは当然だ。結果として、僕はハルちゃんを都合よく自分勝手にもて遊んだ。そんな気持ちは無いとはいいきれない。自覚してなかっただけだ。
「マコちん、そんな完璧なんてないから、気にしないで。他の人達の男女関係はもっと大変ですよ。」
――僕は、ハルちゃんが傷ついてるのが、辛いんだよ。という言葉を押し殺した。そんな事言う権利はない。
「あと、前にも言ったけど、白い恋人の結末のヒロインはハッピーエンドよ。」
きっと何を言ってもハルちゃんは、僕の背中を押すだろう。もうこれ以上彼女を苦しめたくはない。
「ハルちゃん、ありがとう。僕は彼女に会いに行くよ。」




