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終章 2節 ハルちゃん

 「どうどうどう……落ち着こう?私は逃げないから。ね?」

 

 ハルちゃんは馬か子供をなだめるように、僕を席に座らせる。


 「はい、紅茶でも飲んで。……砂糖マシマシでーす。」


 ――紅茶はひどく甘かった。でも、少し落ち着いた。ハルちゃんには頭が上がらないな……


 「それでね、私が気づいた事なんだけど、桜木さんは、私の事をハルちゃんなんて呼んだことないのよね……」


 「えっ……」


 「高校一年生の頃から少しだけ話をすることがあったんだけど、そこまで仲良くはなかったの。むしろ、一時期は私とマコちんの事が仲良いからって、変な誤解していたみたい。だから私に対しては少し冷たいぐらいだったの。」


 「じゃあ、さっきのは……」


 「私の感覚だと、話かけても要領を得ないし、初めて会ったみたいな感覚だった。あなたがハルちゃんって私を呼んだから、それを真似したんじゃないかな。何でそんなことするのかわからないけど。記憶喪失?じゃないよね。マコちんの事分かってるし。……私の存在感がないから、忘れてただけかなって。だから、大したこと無いって言ったの。ごめんね、変な話して。」


 ハルちゃんの話を聞く限り、あれはミツキさんだったとしか思えない。まさかとは思うが確かめられずにはいられない。


 「いや、ハルちゃんの想像通りだ……すぐに確かめないと――」


 桜木さんに電話したらいいのでは?彼女が電話して、北海道に来たかどうか確認すれば良い。


 ……ああ、なんて事だ。こっちに来るとき全て処分してしまったから、電話番号もメールアドレスも分からない。


 ――もう直接行こう。僕は居ても立っても居られなかった。


 「マコちん、だから落ち着いて!今からじゃ羽田行きの飛行機には乗れないし、連絡先なら私が調べてあげるから、ね?落ち着こう?」


 ハルちゃんの言う通りだ。僕の勘違いなら、全くの無駄足になる。それに連絡さえ取れれば必ず明確になる。桜木さんならきっと何でも正直に教えてくれる。


 ――ただ彼女がまたすぐに居なくなってしまうような気がしてならない。どうしてもそう思ってしまう。


 「今、高校の友達に連絡先調べて貰ってるから、少し待って。きっとすぐにわかるから。」


 「ハルちゃん、……いつもありがとう……」


 「どういたしまして。それより、何でそんなに動転してるの?私に何か話してない事あるんじゃない?」


 ――そうだ。ハルちゃんには全部話そう。きっと分かってくれるし、信じてくれる――


 ――あれ、でも僕はどうするんだ?もし、ミツキさんが戻って来ていたら、僕はどうするんだ?ハルちゃんのこと、また一人ぼっちにするのか?そんなこと許されるのか?


 僕は頭を抱え込む。もうどうしたらいいのか分からない。二人とも大好きで、二人とも幸せにしてあげたい。


 ハルちゃんは、そんな僕を、背中から抱きしめてくれる。質問責めにもしないし、何も責めたりはしない。


 「……ハルちゃん、これから不思議な話をするけど、どうか最後まで聞いて欲しい。」


 ハルちゃんは無言で頷いた。

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