表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/93

8章 1節 北海道

 僕は大学3年になっていた。第1志望の北海道大学に入った僕は周りの学生と比べるとかなり地味な方かもしれない。


 サークルや体育会の部活に入る事も無く、アルバイトに精を出していた。せっかくのモラトリアムを楽しまずに過ごすのはもったいないだろうとも思う事もあるが、あまり何かに縛られたくは無かった。ごく限られた人間関係の中で静かに過ごしたかった。寧ろいやでもそうなる長い会社勤めの前に、無為に時間を過ごすのもいいのではないだろうか。


 そうやってもう3年も経つ。穏やかな日々だ。この穏やかな日々が過ごせてこれたのも、今僕の部屋のコタツに入って、目の前でうたた寝をしている彼女のおかげかもしれない。彼女は、遠野春香。高校時代に同じ陸上部に所属していたから、もう6年越しの付き合いになる。大学2年の春に同じ大学になったのを知った。高3になって早々と引退した僕らは2年程度付き合いは無かった。僕が桜木美月と付き合っていた事もあったからかもしれないし、彼女が浪人した事もある。


 「――ハルちゃん、寝るなら帰った方がいいよ。この間もそうやってコタツで寝て風邪ひいたよね?」


 僕は何度同じやりとりを繰り返したか、呆れながらも、ハルちゃんに声をかける。どうせ今日もだだをこねて、居座るつもりだろう。僕は構わないのだが、正直寝床らしいところもない狭いこの部屋には布団は二つも無く、彼女も僕の布団は遠慮して寝てくれない。朝になって辛いのはお互い様なのは彼女も分かっているのにもかかわらず。


 「……うーん、眠くて眠くて。もう動けないんだよ……ムニャムニャ、ぐぅー……」


 「じゃあ、布団ひくからどいてもらえますか?」


 「えっ!とうとう買ってくれた!?」


 ハルちゃんは、バサっと立ち上がって期待した目を向けてくる。動けないんじゃなかったのか……


 「いや、自分のだけです…… 買いませんよ、ハルちゃん用なんて。」


 正直、彼女といるのは少しも悪くはないのだが、定住されたくはない。彼女にとっても良いとは思わない。ズルズルと一緒になるのは、今の関係が変わる気がする。それは多分、僕にとっては良い事なのかもしれないが、唯一の友人を何かの拍子で無くしたくなかった。恋愛は友情と違う。


 僕は恋愛に対して臆病になったのかもしれない。


 ――ハルちゃんは背が小さく色白で可愛らしい子だった。とても成人しているようには見えない。ただ長距離選手らしい忍耐力と強さを持っていた。――


 そんな彼女を自分だけのものにしたい欲求はないとは言えない。僕は彼女の事を受け入れてもいないが、拒絶するでも無く、曖昧にしていた。彼女はそんな僕の事をずっと好きだと言ってくれる。内心どう考えているのだろう。あまり考えたくは無かったが、いつ相手にされなくなっても仕方ない。


 「もう。何で?……怒ったから、今日は本当に怒りましたから。」


 彼女は口をとんがらせて、ぷーっと頬を膨らませる。漫画みたいなあざとい仕草と態度だったが、彼女がやると可愛いくて困る。僕は謝罪をして、さらに彼女の言う事を聞く刑を3つも受けた。まぁこの辺りは最近お約束になりつつある。はたからみたらイチャついているだけだろう。


 「僕はコタツで寝ます。……もう泊まっていいから、布団で寝てください。」


 しめしめと元気になったハルちゃんは、眠気が全くなくなったようだった。


 罰ゲームその1で買いに行かされたお酒を、結局二人で飲みながら、深夜まで話し続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ