7章 9節 現実
僕と桜木さんは、それからしばらくの間連絡を取り合うことも殆ど無かった。僕は相変わらず勉強と部活に精を出すだけの生活を送っていた。頭や身体を動かしている時は余計な事を考えずに済む。それだけだった。
桜木さんから誘いのメールが来たのは、あのファミレスでの会話から一カ月以上が経ち、僕らはもう高校2年生になっていた。
僕らはいなくなった二人の思い出がある場所を避けて、出かけるようになった。特にお互い好きになってきたとかではないが、桜木さんの提案で付き合うことになった。別に二人とも恋愛をしなければならない訳ではなかったが、それ以外に止まった時間をまた動かす方法がわからなかった。もぬけの空というやつかもしれない。
僕らは勉強や部活を二人で頑張っていた。加えて二人の関係を、お互いを好きになろうとした。特別つまらなくは無かったし、むしろ楽しい時が沢山あった。けれども残念ながら特別な感情はうまれなかった。
…………
そしてさらに二年近くの時が過ぎた。高校最後の冬休みだ。僕らは相変わらず仲良くはしていた。今日もいつものファミレスで今後の進路の話をしていた。
「私は予定通り東大を受けるつもり。……あなたは?模試の結果なら、一緒の大学に行く事も出来るんじゃない?」
桜木さんはいつも通りだ。話に無駄がない。
「僕は北大にしようかと考えている。外が寒いから心は暖かくなるかなって思うんだ。……ごめんね。離れることになって。」
僕は彼女に悪いかと思いつつも、この街を離れたかった。おそらく彼女とも…… 彼女といる限りミツキさんのことを思い出してしまう。死別ならまだましだ。人間に備わっている忘れるという優しい機能が本来なら役に立つはずだ。でも彼女といるとそれはない。
「正直に言うと僕はとっくに君を好きなのかもしれない……
……でもそれが何からくるものなのか、ミツキさんのことを考えているのではないか?という気持ちが邪魔をしてわからなくなる。
……だから君とはこれ以上付き合えない。君に失礼だ。――僕はそれくらい君の事が大切なんだよ。」
僕の本心だ。矛盾しているのかもしれない。
今思えば、あのゲームの本編が伝えていたのは、いなくなった二人だけでは無く、現実に残った二人もお互いを忘れろということなのかもしれない。
「そう……酷い事を突然言うのね。でも残念だけど、あなたの言いたい事が理解できるわ。……私も多分あなたが好き。でもわからない。どうすればいいか。……分かるのは今のままでは二人とも幸せではない事ぐらい……」
彼女は珍しく悲しみを含んだ表情をしていた。今ならあのゲームの続きの話をしてもいいと思う。でもそれが何になるのか。
「僕にとって君が特別な人なのに何の変わりもない。……だから、もし、……もし時間経った後、君がたまたまフリーだったら声をかけてもいいかな?」
「……そうね。たまたまフリーだったらね。」
彼女は何かから解放されたような明るい笑顔を僕に見せた。僕らは普通に出会えていたら普通の恋愛ができたかもしれない。そうだったら良かったと思わずにはいられなくなる、彼女の表情はそんな素敵な笑顔だった。
おはようございます。
次から8章になりますが、20190426朝に
予定していた2章 9-10節追加しました。
未読の方は、是非!
よろしくお願いします。




