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7章 8節 夢と現実

 次の日、僕は悩んだ末に桜木さんにゲームを渡した。感想やいろいろな事を聞かれたが、自分の目と耳でまず確かめて欲しいとだけ伝えて、半ば逃げるように彼女から離れた。


 その次の日、彼女は自分の感想を話したいというので、二人でファミレスに行く事にした。アパートへ行く事を提案されたが、僕はファミレスのドリンクバーを理由に断った。あそこに行ったら、あのゲームの最後を思い出して泣きそうになる。あそこには思い出が多過ぎる……



 「私の感想だけど。あの子は私達に二人を忘れて欲しくて、あのゲームを作った気がするの。ストーリーもそうだけど、音楽がそういう風に感じさせる。それについては間違いないと思う。」


 ストローで氷を突いたり、回したりしながら、桜木さんは自分の考えを話し出した。音楽から考えられるとは思っていなかったが、同じレベルの感性を持つからこそ分かる事もあるだろう。


 「確かにそうだと思うよ。僕もそう感じた。きっと僕が彼女に執着することで、大切な今という時間を無駄にするなと言いたいんだと思う。」


 僕は桜木さんの弄る氷を見ながら返事をした。彼女はストローを使って僕の注意を引きながら話しを返す。釈然としない、という顔だ。


 「でも何か引っかかるのよね。自分が無いというか、本当の気持ちじゃないような。……でもそんなことを描写したら、せっかくのストーリーも台無しになるし、そこは我慢したのかなぁ、と思うの。」


 「えっ?」


 そんな筈は無い。むしろあれほどの無念と未練を、叶わなかった夢を素直に描いていたじゃないか……


――ああ、そうか……彼女は最後のシーンには気づかなかったんだ。あんなに綺麗に終わったもんだから、続きの選択肢を出す前に画面を閉じたのだろう。


 やはり、ミツキさんは桜木さんとは違うのかもしれない。僕はミツキさんほど繊細で弱い女の子は知らない。あの最後のメッセージは彼女の悔しさや、寂しさが溢れていた。


 最初は僕のためのゲームだったかもしれない。でも最後は自分の気持ちを残したかったんだ。最後まで主人公でいたかったんだ。ミツキさんは強くなんかない。消えてしまう自分より、他人を優先出来るほど強い心を持つ人がいったいどれだけいるだろうか。桜木さんの考えは非現実的過ぎる――


 「……いや、なんでもない。そうだよね。」


 桜木さんにあの最後のシーンは知られてないなら、伝えたくなかった。彼女の考えはよく分かるし彼女らしい。だから彼女考えを肯定する。


 「ゲーム作るのは難しいからね。気持ちを全て伝えるなんて出来ないし、きっと我慢なんてしてないよ。僕からすると、夢だったんだよ全部って言いたかったのかなって思う。だから結論は同じかな。」


 ――そう夢だった。何もかも。夢が現実になっていただけなんだ。ミツキさんとの生活は夢のようだった。そして夢から覚めただけ。


 桜木さんとこうして話している事は現実なんだろう。無理にいなくなった二人を忘れる事が現実に帰る事なんだ。


 ――ただ、そうしたいなんて、この時の僕には少しも思えなかった。


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