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7章 6節 ミツキのゲーム

 そのゲームにタイトルやオープニングは無かった。スタートすると真っ黒な画面に文字が出る欄がある典型的なアドベンチャーゲームのようだ。BGMはかなり悲しい雰囲気のメロディーだ。そう、「禁じられた遊び」に似ているかもしれない。おそらく絵本にあったトンネルのシーンだ。


………


 ……しばらく待つと、選択肢が出てきた。


 「1.前に進もう、2.いや、後ろの方が楽しそうだ。」


 僕はいつもゲームはやり込むタイプだ。全てのルートを制覇する。それに彼女が作ったものは全部みてみたい……


 2.を選ぶと、なんとも残念そうな、プレイヤーをおちょくるようなBGMに変わり、


 「はいだめー。過去は振り返らないこと!」


 というメッセージのあと、画面に大きくBAD ENDと表示された。ゲームオーバーらしい。


 「……クソゲーだこれ。ハハ」


 思わず独り言を言いながら、笑いが出てしまった。

けれど涙が溢れてくる。ミツキさんをはっきりと思い出てしまった。なんでこんなシーンでかわからなかったが、他にもいろいろな記憶が蘇ってくる。


 僕は再スタートした。トンネルを抜けるまで、意図的に違うと思ったルートは即ゲームオーバーだった。なので、まずは思った通り進める事にした。僕のプレイポリシーを変えさせるとは、流石ミツキさん。


 トンネルの出口には大きな扉があり鍵が掛かっている。ポケットを探ると鍵があった。その鍵で扉が開く。何故鍵を持っていたのだろうか……


 トンネルを抜けた先は公園のベンチだった。やはり絵本と同じ展開だ。それはそうだ。あの絵本が原作なんだから。そして主人公は少年に助けられる。



 ちなみにやはり絵本と違う展開はBAD ENDのようで、自分で何とか乗り切れたと思ったが、最後は悲しい展開になってしまう。不本意だが少年と一緒に過ごした。


 少年はいつも主人公を堕落させようとする悪魔だった。しかし、主人公が大好きで好感が持てる。だんだんと楽しい感じがしてきた。音楽がそう思わせる。


 しかし、残念ながら絵本同様に主人公は消えてしまった。少年は悲しみ、打ちひしがれている。主人公は消えたようで実は見えない妖精になったようだ。そしてゲームは少年を幸せにするのが目的になってきた。少しだけ音を出したり、小さな物を動かす事しか出来ないが、何とか少年を助ける。


 少年が主人公と似た女の子の為に急いで向かうシーンになった。ここで間に合わないとゲームオーバーだった。しかし僕は前に進むことがなかなか出来なかった。選択肢は主人公との思い出を捨てていくものや、否定するものが続いている。そして追い立てる音楽。あのピアノで聴いた「冬」だ。僕は断腸の思いで最後にたどり着いた。音楽も終わった――


 やはり悲しい物語だ。おそらくミツキさんは自分が居なくなっても、僕に幸せになって欲しくてこんな話にしたのだろう。気持ちはわかったが、悲しくて仕方なかった。


 「そんな風に考えられないよ、ミツキさん……」


 そしてエンディングになった。エンドロールが流れてくる。原作ミツキ、キャラクターデザインもミツキ、全部ミツキだった。最後にその他シン、と僕のことも出してくれた。少し嬉しい。


 FINと表示された画面をいつまでも観ていた。10分ぐらい経っただろうか。画面に選択肢が出てきた――


 「1.ゲームをやめて現実に帰る。2.夢をみる」

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