7章 1節 ピアス
後から聞いた事だが、桜木さんはミツキさんが消失したのを知って、すぐにここに駆けつけたらしい。しかし既に僕しか居なかった。
彼女が朝食を作っていたのは、準備が整っていたのと、僕のことを気遣ってのことらしい。
…………
彼女が懸命に話かけてきているようだったが、全く頭に入ってこなかった。
僕は我慢できなかった。僕は桜木さんに抱きついた。自分の辛さを全く同じ外見をしている彼女に一方的に擦りつける。相手の気持ちなんて考えられなかった。しかし、彼女は優しく抱きしめ返してくれた。
「……いいのよ。多分、今の小杉くんの気持ちを分かってあげられるのは私だけ。小杉くんを慰めてあげられるのも私だけだから……前は逆の立場だったけど、あの時は助かったわ。」
しばらくそうしていたあと、――ああ、やっぱりミツキさんじゃないんだ――そう感じ始めた頃、桜木さんは、僕に語りかけてきた。
「……これは二人で考えたのだけど、実は彼女のピアスに発信器を付けておいたの。毎朝確認していたんだけど、今朝見たら消えていて……」
服と一緒では無く、なぜペンダントはダメだったか。それをもとに考えたというミツキさんが言っていた実験はこれの事だったのだろう。
「……えっ、ちょっと待って、じゃあ、今ミツキさんが何処にいるか分かるの!?」
ちょっと困ったような顔をして桜木さんは僕の質問に答えてくれる。
「……それが、もうどこにもいないの。ただ、明らかに、ここと違う場所で最後の発信が切れていたの。これが何故か隣のK市なの。分かる?昨晩の夜中に明らかにここから10km以上離れた場所に行った形跡があるの。どうしてか?どうやってか?全く、さっぱり分からないけど、私はここに行ってみようと思うの。あなたはどうする?」
――そんなの決まっている。何か少しでも手がかりになるのなら、もう一度この手で彼女を抱きしめられるなら。
「じゃあ、先ずは朝ご飯を食べて?何があるか、どれくらい時間がかかるかもわからない。元気出して行かないとね。」
――こういうところは、桜木さんがミツキさんと同一人物だったと思い出させる。頼りになるし、ひたすらに合理的で前向きだ。
「ありがとう、桜木さん。僕と一緒に行こう。」




