6章 10節 旅行
それから、ミツキさんは一心不乱にゲームを完成させた。凄い集中力で、鬼気迫るものがあった。ただ、この一週間は夕飯を食べる時ぐらいしか、僕達はまともに話が出来なかなった。
そうこうしてる間に、ミツキさんの話しから考えて見ると思ったより早く予兆があり、最悪のケースで計算すると、完全消失の時期がもう明日になっていた。
今日はゲーム完成の打ち上げということもあり、久しぶりに僕達はゆっくりした一日を過ごしていた。二人で映画を観に行き、夕飯も外食をしてきた。夜はゲームをしたり、たわいもない話をした。
予定通り今晩はアパートに泊まっていく事にした。僕としては完成したゲームをやらせて欲しかったが、もう少し準備が必要という事でお預けになった。なので、今日はミツキさんが好きな対戦ゲームを夜遅くまでやり尽くした。
寝るときになって何時もはすぐに寝てしまうミツキさんが、今日は話かけてきた。
「私ね、この狭い部屋も古い本を共有する事も、大好きだった。恵まれた環境にいたら、一生辿り着けなかった幸せな気持ち。」
彼女は珍しく僕を見て話している。
「だから、私がもしいなくなってもあなたは誇っていいのよ。私が保証する。本当に幸せだった――」
彼女は僕の手をとり、真剣な眼差しでこちらを見ている。僕も彼女の手を握り返す。
「……だから、だから、ずっと一緒にいたい。本当は絶対消えたくなんてない。普通の、いえ、10年、ほんの少し、あと1年だけでも、いいの!」
大粒の涙を流す彼女をみていられない……
「……一番幸せだったから、私は今一番不幸。……こんなのなんてない。……こんなのなんてない!」
僕は彼女を抱きしめて髪を撫でる。こんな時が来るのはわかっていた。僕なり考えていた事を話す。
「一生分のお金を使ってしまってもいい。これから密度高い時間を二人で過ごすんだ。時間も全て君に使う。だから、旅行に行こう。君が行きたがってた、あの場所に。明日は朝から準備して、すぐに行こう。」
「うん、絶対絶対行こうね。」
彼女は嬉しそうに応えてくれる。
「あと、……さよなら。たぶん言えないから、念のため今のうちに言っておくね……」
そう言うと彼女は眠ってしまった。僕はしばらく、その顔を眺めていた。
次の日、朝起きると隣にミツキさんはいなかった。
僕は布団から飛び起きると、ミツキさんは朝食を作っていた。
「おはよう!……あれぇ?そんなに慌ててどうしたのかなぁ?」
意地悪くからかう彼女をみて、ホッとした反面こちらも意地悪したくなる。
「そっちこそ、さよならとか言うから……まぁいいか――」
「朝ごはん食べて、旅行の準備行かない?」
「ああ、そうしよう!」
僕らは、その日は服やらガイドブックやらたっぷりと買い物をして周った。家に帰宅した後も、準備は続き、旅行のしおりも作った。
「明日、楽しみだね!」
ああ、僕も楽しみだ。
明日に備えて今晩は早く寝ようということになり、二人寄り添って話をしながら過ごした。昨晩と同じく彼女が泣きだしてしまったが、その夜も手を繋いで眠った。
次の日、朝起きると今日も隣にミツキさんはいなかった。僕は布団から飛び起きると、やはり朝食を作っていた。しかし台所の彼女の肩は震えていた。
「おはよう、小杉くん」
「ああ、おはよう、桜木さん……」
僕は、……その場に崩れ落ちた――




