6章 6節 絵本
グランドピアノのある部屋はその役割とは反対に静まりかえっている。
僕はミツキさんの言葉で現実に引き戻された。今の彼女はそう長く無い内に居なくなってしまうかもしれない。しかも何の解決手段も原因もわからない状態だ。今日だって彼女は何の意味も無く僕にピアノを聴かせたんじゃない。ゲームを作り、自分の存在した証を僕に残したいと言ってくれた。
――そんな彼女に何をしてあげるのが一番なのか?
必死に最後まで手探り状態で彼女の為に足掻くか、それとも彼女のしたい事に全力で付き合うか。
――両方だ。何を迷う事があるだろうか。
「どうしたの?」
ミツキさんは、俯いて黙りこんでいた僕に声をかける。……何、心配させてんだ僕は。
「あっ、ごめん、……何も手伝えないのは寂しいなと思ってさ。」
「うーん、言い方が悪かったかも……じゃあ、早速手伝って貰おうかしら。……これを見て、おかしいところがあったら教えてね。私の超大作のシナリオとイメージだから。」
そういうと、彼女はカバンの中から一冊の本を取り出した。綺麗に装丁されてはいるが、手作りと思われる絵本を僕に渡す。
タイトルは、「ミツキの冒険」と書いてあり、その下に赤いワンピースを着た、可愛らしい小さな女の子が何かを持っている絵が描いてある。
「……いつのまに作ってたの?……なんかもう既に名作だよ。」
僕はびっくりしていると、嬉しそうにクスっとしてから彼女なりの種明かしをする。
「いいでしょう?まあ、自作用の絵本キットが売ってるんだけどね。」
確かに無地の本に絵とお話しを描いただけなのかもしれないが、オリジナルのフォントや印象的な絵は買って来たと言われても不思議じゃ無いレベルだ。タイトルが違ったら手作りとは思わなかっただろう。ミツキさんの芸術的センスに改めて感嘆する。
僕は、もったいない気がして、直ぐに本を開けなかった。――落ち着こう。ソファに座りお茶を飲んで、深く息をはいてから。そして、ゆっくりと本を開く。




