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6章 5節 やりたいこと

 「ふぅー。……きゅうけーい。」


 ミツキさんは、ミネラルウオーターのキャップを開けてゴクゴクと一息に半分くらい飲み、ソファの隣にダラーっと沈みこんだ。微笑んだまま目を瞑り天井を見上げている。やりきったぜという感じだ。


 僕もお茶を飲み、同じポーズで目を瞑る。――お茶が美味いな。――心地よい時間だった。


………


 「……ちょっと聴いて欲しいのものがあるの。」


 5分くらい経っただろうか。ミツキさんが声をかけてきたので横を見ると、いつのまにか彼女も顔だけこちらを向けていたようで目があった。僕は少し遅れて返事を返す。


 「…………ああ、もちろん。」


 彼女の瞳の奥をみていた。――今までこんな風に誰と真っ直ぐに目を合わせた事などあったろうか。――だから、返事が遅れてしまった。僕のそっけない(そんなつもりでは無かったが、脳が動いてなかった)返事を聞いた彼女はまた天井を見上げて、呟く。


 「っよし。」

 

 彼女はピアノに向かうと、手をグリグリと捻って伸ばして、何かをリセットした。何かの気持ちを切り替えだのだろうか。それともこれまでの演奏とこれからは違う、みたいなものだろうか。


 彼女が鍵盤に触れ、音楽が流れ出す。……聴いたことのないメロディだ。静かな始まりから、開放感のある場所にいるような自由な居心地だ。平和な時間は永久に続いていく……と感じていたら、強烈な一音の後に突然調べが変わる。だんだんと追い詰められていく。もう行き場が無いのにまだ追いかけてくる。そんな不思議な感覚だった。


 「で、どんな感じだった?印象とかイメージを教えてくれない?」


 僕はさっき感じた事をそのまま話した。


 「うん、いいかな。いけるかも。」


 ミツキさんは、独り言をつぶやいている。何か言い出しにくいのか、言葉を選んでいるのか分からない。


 僕は黙って彼女の言葉を待つ。


 「……サウンドノベルを作りたいの。前に一緒にやったでしょ?あなたにとってはたくさんのうちの一つの、しかも古くて特別ではないものかもしれない。……ただ、私にとっては、特別な体験だった。ゲーム自体やらない、敷かれたレールの上をただ走るだけの私には、とても自由で新しい世界だった…… ああいうものを私も作ってみたいの。」


 ミネラルウオーターを飲み、一息ついた後、彼女は話を続ける。


 「だから、さっきのはそのBGM。」


 「おおお、そんな事考えてるなんて全然分からなかったよ。楽しいそうだね。……ゲームか……でもシナリオやツールを使ったとしてもプログラムとかグラフィックとか大変そうだよね……もちろん僕も手伝うけど。」


 僕は驚きつつも、少し感動していた。ゲームを作った事はないが、かなり手伝う事は出来るだろう。ゲームの知識は多い。テンションが上がる。



 しかし彼女は僕の提案に首を振り、にこやかに言う。


 「私だけでやりたいの。何かを残したいの。……私だけの特別な何か。……ここに居た証。…………そして、これはあなたのための作品だから……」


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